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G7伊勢志摩サミットに集う欧州首脳の胸中-協調的財政出動が困難なそれぞれの事情-
経済研究部 研究理事 伊藤 さゆり
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伊勢志摩サミットには欧州4カ国首脳とEU大統領、欧州委員会委員長が出席
伊勢志摩サミットには、欧州からは、英国、ドイツ、フランス、イタリアの4カ国の首脳とドナルド・トゥスクEU大統領(欧州理事会常任議長)、ジャン=クロード・ユンカー欧州委員会委員長が出席する。
安倍首相は、3月末に米国のオバマ大統領、カナダのトルドー首相と会談、今月初めには欧州機関の本拠地があるベルギーを含む欧州5カ国を訪問、G7として世界経済について強いメッセージを発するため、欧州の首脳らと調整を行った。
機動的財政政策の大枠では賛成
それでも、G7の合意文書に「それぞれの国が事情に応じて」「構造改革の加速と合わせて」という但し書き付きであれば、「機動的に財政を出動する」といった表現を盛り込むことを妨げることはないだろう。ドイツのメルケル首相も「金融政策と財政政策、構造改革を同時に進めていくことが重要」と述べており、財政出動という選択肢を否定した訳ではない。英国のキャメロン首相も、「それぞれの国の事情を反映しつつ」という前提で「金融政策、機動的な財政出動、構造改革をバランスよく協力して進めていくことが重要」という点では賛意を示している。
財政出動での協調行動を制約する財政ルールへの適合状況、政治サイクル、景気の状況
これに呼応した欧州4カ国からの新たな協調的財政出動については、あまり期待できない。一層の財政拡張には、(1)財政ルールへの適合状況、(2)政治サイクル、(3)景気認識の差が制約要因となるからだ。
財政出動のニーズが高いイタリア
特にイタリアの不況は深刻だ。世界金融危機による落ち込みから回復しないまま、ユーロ圏内で債務危機が広がったため、イタリアの景気後退は長期化、15年に入って、ようやくプラス成長を維持できるようになったばかりだ。実質GDPの水準は世界金融危機前の水準をおよそ8%下回っており(図表1)、失業率は16年3月の時点で11.4%とG7で最も高く、潜在成長率はマイナスに沈んでいる(図表3)。
フランスは、実質GDPでは世界金融危機前の水準を回復しているが、失業率は10%で、イタリアと同じく、世界金融危機前の水準を大きく上回っている(図表2)。税・社会保障費の負担や、雇用関連の規制も含めたコストの高さが、雇用の創出を妨げている。
両国の財政出動には、財政ルールへの適合状況が制約要因となっている。フランスは、財政赤字の対名目GDP比が15年も3.5%とEUの過剰な財政赤字の基準値である同3%を超えており(表紙図表参照)、17年を期限に財政赤字を基準値以内に引き下げるプロセスにある。主に歳出の削減を通じた目標の達成を求められている。イタリアは、財政赤字は同2.6%で基準値以内だが、政府債務残高は同132.7%と基準値の60%から大きく乖離している。ユーロ危機を教訓として強化された新たな財政健全化ルールでは、一定のペースで過剰な債務の圧縮に取り組むことが義務付けられている。ユーロ参加国は、毎年春に欧州委員会に提出する構造改革計画と中期財政計画を提出、計画と中期財政目標(MTO)との整合性のチェックを受ける。
レンツィ首相は構造改革の推進で財政余地を引き出す
2015年には解雇規制の緩和などの包括的労働市場改革が実施され、銀行システムの問題にも協同組合銀行の株式会社化による再編促進や、長期不況で膨らんだ不良債権処理加速のため証券化の枠組み作りや破綻法制の改革などに着手した。政治の不安定さを招き、規制改革加速の妨げとなった議会制度の改革にも着手、今年7月には新たな下院選挙法が施行、秋には上院の権限縮小のための憲法改正のための国民投票が行なわれる見通しとなっている。
財政面では、EUの欧州委員会に、将来の成長につながる公共投資や構造改革に関連する支出についてはMTOからの一時的な逸脱を認める「例外規定」の適用を求めてきた。「例外規定」は、財政ルールが厳しすぎて、成長のために必要な公共投資や、構造改革の効果を高めるために必要な政府支出を妨げ、潜在成長率の回復、ひいては政府債務残高の安定化を疎外する悪循環を回避するためのものだが、濫用すれば、大国の財政ルール違反を許容し続けた結果、周辺国の財政危機を招いた教訓を生かせず、危機の再発を許すおそれがある。
こうしたジレンマを抱えながら、5月18日、EUの欧州委員会は、イタリアの中期財政計画のMTOへの適合性の審査結果を公表した。イタリアの計画は、MTOが求めるGDP比0.5%相当の財政健全化の目標に達していないが、公共投資や構造改革のための支出によるものとして、レンツィ首相の主張を受け入れた。
しかし、欧州委員会は、2017年には少なくとも同0.6%相当の健全化措置を求めてもいる。ルールを厳格に適用すれば発動されることになった罰金などの制裁が回避されたに過ぎない面もある。レンツィ政権は、今後も政策の重点を、構造改革に置かざるを得ない。
フランスのオランド大統領は大統領選を前に労働法改正で構造的失業解消に挑む
経済政策の面では、構造的高失業解消の切り札として労働法改正に力を注いでいる。同法案には、整理解雇の容易化、週35時間の法定労働時間の柔軟化が盛り込まれているため、与党・社会党の支持基盤である労働組合は強く反発、全土でデモが繰り返されている。しかし、企業の雇用の意欲を削ぐ厳しい労働規制の改革がなければ、構造的な失業の解消は困難であり、5月13日に、下院では、内閣信任投票と引き換えという強硬手法で法案を可決した。
フランスは、17年春に5年に1度の大統領選挙を予定する。オランド大統領は、12年の就任当初から支持率低下に悩まされてきたが、5月の最新の世論調査では支持率が16%とさらに落ち込んでいる1。他方、マリーヌ・ルペン党首率いる極右の「国民戦線」が、14年の欧州議会選挙で第1党になり、15年3月の地方行政区画選挙、12月の地方議会選挙の第1回投票でも躍進した。17年の大統領選挙でも、マリーヌ・ルペン党首が第2回の決戦投票に進む可能性は高い。決戦投票で勝てる中道派の候補として超党派の政治運動の立ち上げ、オランド政権で経済・産業・デジタル相を務めるエマニュエル・マクロン氏や、現ボルドー市長でシラク政権では首相を務めたアラン・ジュッペが注目を集めるなど、オランド大統領は厳しい立場に立たされている。
1 Les Echos, “L’Observatoire politique” , maiil 2016
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