2016年05月20日

“かくれメタボ”の生活習慣病リスク(2)~健診受診年から5年後のリスク

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子

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3――分析結果

図表4 1回目の健診時年齢別 メタボ判定結果 15年間のメタボ判定の変化
(1) 年齢別 5年間の判定変化
1回目とその5年後の健診でのメタボ判定の結果を年齢別にみると、図表4のとおりとなった。年齢は1回目の健診時のものを表記している。

全年齢に共通して「服薬中」が増加していた。特に1回目の健診受診時の年齢が60歳以上では、およそ半数が5年後には「服薬中」となっていた。

特定健診の対象である40歳以上についてみると、「服薬中」の増加にともない、それ以外の判定については1回目と同程度か減少をしていた。

40歳未満についてみると、30歳代で「判定不能(未受診項目あり)」「腹囲なしメタボ」「腹囲なしメタボ予備群」が減少していた。1回目の健診時には、まだメタボ判定に必要な項目を測定する年齢に達していなかったが、5年後の健診までに、メタボ判定の対象になったことで、他の判定に置き換わったと考えられる。
(2) 1回目の判定結果別 の5年後の判定変化
1回目の判定結果別に、5年後の判定結果を示したものが図表5である。

全体の約半数が、5年後も1回目と同じ判定だった。特に、1回目の健診で「メタボなし」だった人の約7割が5年後も「メタボなし」であり、「服薬中」だった人の約9割が5年後も「服薬中」だった。その他の「腹囲なしメタボ」「腹囲基準内メタボ予備群」「腹囲基準内メタボ(かくれメタボ)」「腹囲だけ」「メタボ予備群」「メタボ」も、それぞれ25%以上が5年後も1回目と同じ判定だった。

残る約半数は、1回目の判定から変化があったが、その変化には1回目の判定別にいくつかの傾向がみられた。まず、5年後に「メタボなし」に改善をしていたのは、1回目の判定結果が「腹囲基準内メタボ予備群」「腹囲だけ」「腹囲なしメタボ予備群」だった人に多かった。これらの判定は、腹囲や血圧、血液の測定値で1個だけ基準外だった場合である。基準外が複数個あった場合は、5年間で「メタボなし」に改善することは少ない。

一方、5年後に「服薬中」になっていたのは、1回目の判定結果が「メタボ」「腹囲基準内メタボ(かくれメタボ)」など、基準外の項目が複数あった場合に多かった。服薬は、重症化予防のために行うもので、「服薬中」への移行が必ずしも健康状態の悪化を意味するわけではないが、服薬のためには、通院や医療費が必要となることから、避けるべき状態と言える。「腹囲基準内メタボ(かくれメタボ)」が「メタボ予備群」を上回っていた点が特徴的だ。

また、「メタボ」になっていたのは、1回目の判定結果が「メタボ予備群」と「腹囲なしメタボ」に多かった。

1回目の判定で「腹囲だけ」は、5年後に「メタボなし」に改善していた割合が高かったが、「メタボ予備群」に悪化した割合も高かった。
図表5 1回目のメタボ判定結果別5年後の判定
2メタボ判定と、5年後の生活習慣病による入院発生率
健診結果を使ったメタボ判定の目的は、生活習慣病リスクの高い健診受診者を早期に発見して、生活習慣や健康状態の改善を促すためである。生活習慣病発症リスクを5年前に知ることができれば、改善に効果的だと考えられる。
そこで以下では、1回目の判定結果別に、5年後の生活習慣病による入院の有無(入院発生率)を確認した。対象とする生活習慣病は、「2型糖尿病7」、「代謝障害8」、「高血圧症9」、「虚血性心疾患10」、「脳血管疾患11」とした。
図表6 1回目の判定別 生活習慣病による入院発生率 まず、分析対象者全体の生活習慣病による入院発生率の5年間の変化は、0.50%から0.72%に上がっていた(図表6)。これは、生活習慣病による入院発生率が低い「メタボなし」や「腹囲だけ」が、図表4に示したとおり5年間で減少したことによる。

続いて、1回目のメタボ判定の結果別にみると、「服薬中」と「メタボ」は、1回目の健診受診年の入院発生率がそれぞれ2.63%、1.06%と高かったが、5年後にはさらに高くなっており、それぞれ3.28%、1.58%となっていた。

5年後に、特に入院発生率が高くなっていたのが、「腹囲基準内メタボ(かくれメタボ)」と「腹囲なしメタボ」だった。このうち「腹囲基準内メタボ(かくれメタボ)」は、既に1回目の健診受診年に入院発生率が高かったが、「腹囲なしメタボ」は、1回目の健診受診時に既に血液や血圧で基準外が複数項目あったものの、入院発生率は低かった。しかし、いずれも5年後には、1回目の健診時の「メタボ」の5年後と同程度に高くなっていた。

また、「腹囲だけ」の1回目の健診受診年の入院発生率は「メタボなし」と同程度に低かったが、5年後には「腹囲なしメタボ予備群」「腹囲基準内メタボ予備群」などと同程度に高くなっていた。一方、「メタボなし」の入院発生率は5年後も低いままだった。「メタボなし」のおよそ7割が5年後も「メタボなし」であったことから、入院発生率の上昇も少ないと考えられる。
 
 
7    ICD10(国際疾病分類第10 版)で「E11」とした。疑い病名を除く。
8    ICD10(国際疾病分類第10 版)で「E70-E90」とした。疑い病名を除く。
9    ICD10(国際疾病分類第10 版)で「I10-I15」とした。疑い病名を除く。
10   ICD10(国際疾病分類第10 版)で「I20-I25」とした。疑い病名を除く。
11   ICD10(国際疾病分類第10 版)で「I60-I69」とした。疑い病名を除く。
 

4――「腹囲なしメタボ」「腹囲だけ」にも長期的な注意喚起が必要

4――「腹囲なしメタボ」「腹囲だけ」にも長期的な注意喚起が必要

本稿では、標準的に行われているメタボ判定を細分化した判定基準を作成し、健診結果とレセプトのデータを使って、健診受診年から5年後のメタボ判定と生活習慣病による入院発生率と医療費をみてきた。

今回のデータで、メタボ判定と生活習慣病による入院発生率の変化を総合的にみると、1回目の健診時に基準外の項目が複数あった「メタボ」「腹囲基準内メタボ(かくれメタボ)」「腹囲なしメタボ」は、いずれも5年後に「服薬中」に変化していることが多かった。これらの判定の生活習慣病による入院発生率は、1回目の健診受診年と比べて、5年後に特に高くなっていた。このうち、「腹囲なしメタボ」は、腹囲の測定が義務づけられていない40歳未満に多い。また、5年後の判定が分かれたのが「腹囲だけ」だった。「腹囲だけ」は、5年後に「メタボなし」に改善している割合も、「メタボ」や「メタボ予備群」に悪化している割合も高かった。「腹囲だけ」の1回目の健診受診年の生活習慣病による入院発生率は低かったが、5年間には「メタボ」や「メタボ予備群」となり悪化している可能性がある。

前稿「“かくれメタボ”の生活習慣病リスク(1)」では、「腹囲基準内メタボ(かくれメタボ)」では、判定を受けた年に既に生活習慣病による入院発生率は高く、生活習慣病リスクが高いことがわかった。本稿からは、さらに、「腹囲なしメタボ」や「腹囲だけ」も、健診受診年における生活習慣病リスクは低かったが、5年後には悪化していることがわかった。40歳未満であったり、腹囲を測定していなかったとしても、血液や血圧で基準外の項目が複数ある場合は、長期的な注意喚起が必要だろう。また、血液や血圧で基準外の項目がなかったとしても「腹囲だけ」に判定される肥満の場合にも、長期的な注意喚起が必要だろう。
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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

村松 容子 (むらまつ ようこ)

研究・専門分野
健康・医療、生保市場調査

経歴
  • 【職歴】
     2003年 ニッセイ基礎研究所入社

(2016年05月20日「基礎研レポート」)

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