2016年05月18日

近づく英国の国民投票-経済的コストへの警鐘が相次いでも落ちないEU離脱支持率

経済研究部 常務理事 伊藤 さゆり

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3――英国経済の構造的特徴と潜在的リスク

1|英国経済の構造的特徴
BREXITが、英国経済やEU、日本を含む世界経済に及ぼす影響を考える上では、英国経済の構造や国力についての理解が欠かせない。

英国の経済規模は、米国、中国、日本、ドイツに次ぐ世界第5位。名目ドル換算での世界のGDPに占める英国のシェアは2015年時点で3.9%と推定される(図表2)。2000年代半ば以降の世界では中国を始めとする新興国のプレゼンスが高まり、先進国は全体に退潮した。英国経済も、世界金融危機後の住宅バブルの崩壊で、大幅かつ長期にわたる調整を迫られた。しかし、ここ3年間は、景気拡大が定着するようになり(図表3)、世界経済におけるプレゼンスの低下を食い止めている。

英国経済は貿易・投資面で開放度が高い。財・サービス貿易は対名目GDP比で輸出が28.4%、輸入が30.3%でドイツ以外の欧州の主要国と同程度の水準である(図表4)。直接投資残高の対名目GDP比は、外国資本による英国内への投資(対内直接投資)と英国資本による外国への投資(対外直接投資)ともに、英国は主要先進7カ国(G7)で最も水準が高い。ドイツや日本は、対外直接投資に対して対内直接投資の規模が小さいが、英国の場合はほぼ同水準である(図表5)。

サービス化も進展している。名目GDPに占めるサービス業の名目付加価値のシェアは78%と米国、フランスと並ぶ水準である、英国の場合は金融・ビジネスサービスが最大のセクターである。輸出金額でも財に比べて、サービスの輸出の金額が大きく、財貿易収支は赤字だが、サービス貿易収支は対名目GDP比でおよそ5%の黒字を計上しており、比較優位があることを示す。
図表2 世界のGDPに占める各国地域の割合/図表3 主要先進7カ国(G7)の実質GDP/図表4 主要先進7カ国(G7)の輸出入(2014年)/図表5 主要先進7カ国(G7)の対内対外直接投資残高(2014年)/図表6 主要先進7カ国(G7)の名目GDPに占めるサービス産業名目付加価値/図表7英国の実質GDP(産業別)
英国の通貨ポンドは、かつては国際通貨体制で中心的な役割を果たす基軸通貨であったが、現在はドル、ユーロに次ぐ第3の国際通貨としての地位を円と競い合っている(図表8)3

ポンドの国際的な地位が低下し、1999年のユーロ参加を見送ったにも関わらず、ロンドンは欧州最大の国際金融センターとしての地位を保っている。 TheCityUKによれば、英国は、国際銀行貸出、外国為替取引、店頭デリバティブの金利スワップ取引、海上保険の分野では米国を上回る世界最大の市場である。ヘッジファンド、プライベート・エクィティは米国が中心的な市場だが、欧州での取引は英国に集中している。
図表8 国際通貨としての利用割合/図表9 国際金融取引における英国のシェア
EU市場との結び付きも強い。輸出の44%、輸入の53%、対内直接投資の48%、対外直接投資の40%がEU向けである(図表10) 。

英国は、多数の多国籍企業が欧州地域本部を設置するEUのゲートウェイでもある。売上高世界トップ250社を対象とした調査では4、欧州に世界本部ないし地域本部を置く企業の40%がロンドンに設置しており、第2位のパリに大きく差をつけている。(図表11)。金融業では、EU加盟国の金融機関だけでなく、米国やスイスの金融機関も欧州の中心的な拠点として活用している
図表10 英国の貿易・直接投資の相手地域/図表11 世界トップ250社の欧州における世界本部・地域本部の設置都市
 
3 中国の人民元は国際通貨としての利用度はポンド、円よりも低いが、貿易取引の金額は英国、日本を上回っていることから、IMFは15年12月に人民元を 特別引出権(SDR)の構成通貨に加えるにあたり、比重を円8.33%、ポンド8.09%、人民元10.92%とした。
4 Deloitte(2014)
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研究・専門分野
欧州の政策、国際経済・金融

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