2016年05月13日

米国個人消費の動向-消費を取り巻く環境は良好も、所得対比で伸び悩み

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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3.今後の見通し

(1)消費マインド:家計見通しは依然として強気、自動車などの購入意欲も強い
今後の消費をみる上で、ミシガン大学の消費者センチメント調査における、雇用・家計の見通しや、家具やテレビなどの大型耐久消費財、自動車の購入意欲についての結果を確認しよう。
今後1年間の失業者数の見通しは、15年7月以降には増加するとの見方が優勢となっている(図表10)。もっとも、「増加」と「減少」の回答割合をみると、「増加」の3割弱に対し、「減少」は2割程度に上っている。「減少」回答の割合は05年以来の高水準であり、失業者数が減少するとの見方も根強いことを示している。
次に、今後1年間の家計の財政見通しは、06年以来の高水準となるなどこちらは改善基調が持続している。さらに、「良くなる」、「悪くなる」の回答割合をみると、「良くなる」が4割弱となる一方、「悪くなる」は僅か1割弱に留まっており、財政見通しについて楽観的な見方が支配的であることが分かる。
(図表10)失業者数および家計見通し(1年)/(図表11)大型耐久消費財および自動車購入環境
一方、大型耐久消費財と自動車について購入の好機との見方は、大型耐久消費財で07年以来、自動車で05年以来の高水準となっている(図表11)。実際、購入時期として「良い」との回答割合は、両者ともに7割程度となる一方、「悪い」との回答は1割~2割程度に留まっており、これらに対する消費者の購入意欲が強いことが分かる。とくに、自動車については改善基調が持続しており、自動車購入意欲に衰えはみられていない。
(2)自動車販売見通し:ペントアップ需要が下支え
ここで、自動車販売の動向を仔細にみていこう。新車販売台数の長期的な推移をみると、金融危機後の09年に1,060万台まで大幅に落ち込んだ後、15年は1,800万台近辺まで回復してきたことが分かる(図表12)。一方、世帯当り自動車登録台数は、金融危機前の2.12~2.14台から金融危機後に低下し、13年に2.02台をつけた後、14年は2.04台と小幅ながら増加した(図表13)。これは、金融危機後に10世帯当りで登録台数が1台程度減少したことを意味する。
このように、自動車販売や世帯当り登録台数は金融危機後に大きく落ち込んだ後、現在はその回復過程にあると言える。では、ペントアップ需要も含めた今後の自動車販売はどの程度が見込めるか考えよう。1976年から金融危機前の2006年までの新車販売台数のデータを用いて長期トレンドをみると、2016年は1,900万台の水準であることが試算される。これは足元の販売実績である1,700万台前半より高い水準である。
(図表12)新車販売台数/(図表13)免許所有者、世帯当たり登録台数
さらに、世帯当り登録台数に注目すると、金融危機後の登録台数の減少は高齢化や公共交通手段へのシフト等の構造要因によって低下する可能性もあるが、14年に2.04台と増加に転じたことや、免許所有者の増加基調が持続していることを考慮すれば、構造的な要因というよりは金融危機に伴う景気後退で自動車が買い控えられた影響が大きいとみられる。このため、景気回復が持続する中では世帯当りの登録台数には今後の増加余地があるとみられる。米国ではおよそ1億2,000万世帯が存在するため、登録台数の比率が金融危機前に戻るとすると、1.2億×(2.12-2.04)で980万台の需要があると試算される。
一方、米国では毎年1,100~1,400万台が廃車されており、廃車分の補充だけでもこの程度の新車需要が見込まれる。さらに、家計世帯数は毎年100万件超の増加があるため、仮に世帯当り台数が足元の2.04台のままであったとしても、世帯増加分だけで204万台の新規需要が見込まれる。このため、ペントアップ需要を除いた米新車販売の潜在需要は1,200~1,600万台程度存在すると試算される。これに金融危機に伴うペントアップ需要が加われば、足元の1,700万台前半の水準からは増加余地が残っていると判断できる。
(3)結論:株式市場の安定に伴い、所得の伸び程度に個人消費は再加速
個人消費はこれまで好調であった自動車販売に陰りがみられるなど、労働市場の回復を背景に所得が底堅く推移する中で、所得対比で抑制された状況が持続している。これは将来の雇用にやや慎重になっている可能性はあるものの、家計の財政状況については楽観的な見方が強いことを考慮すれば、15年前半以降に株式市場が頭打ちになったことにより、消費マインドの回復が足踏みしていることが影響しているとみられる。一方、個人消費を取り巻く環境は引き続き消費にポジティブな状況には概ね変化がみられないほか、大型耐久消費財や自動車に対する購入意欲は強い。さらに、足元で陰りがみられる自動車販売は、金融危機に伴うペントアップ需要が残っていることから、今後の拡大余地が残っているとみられる。このため、今後労働市場の回復が持続する中で株式市場の安定が確認できれば、消費マインドの改善を通じて個人消費は所得対比で再加速する可能性が高い。
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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

(2016年05月13日「Weekly エコノミスト・レター」)

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