2016年04月13日

日韓比較(14):最低賃金―同一労働同一賃金の実現に向けて、段階的な最低賃金の引上げを―

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中

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■要旨
  • 日本の2015 年度における最低賃金の全国平均は798円で、前年度の780円より18円ほど高くなった。
  • 日本円に換算した2016年度の韓国の最低賃金は615円で日本よりは低いものの、対前年度比の引上げ額は46円で日本の18円より高い。2000年度から2015年度までの平均引上げ率も韓国が8.5%で日本の1.3%を大きく上回っている。
  • 韓国の最低賃金の対前年度比引上げ率が日本より高い理由は、元々最低賃金の水準が低く設定されていたことや、 毎年物価が上昇しており、物価の上昇率が最低賃金の決定に影響を与えていることが考えられる。
  • 日韓ともに最近、最低賃金の引上げ率を高めている背景には、経済のグローバル化による企業競争の激化により労働力の非正規化が進んでいることが挙げられる。最低賃金の引上げは福利厚生制度の充実と並び非正規職の処遇水準改善のための日韓政府の政策措置の一環である。
  • 日韓の平均賃金に対する最低賃金の水準はそれぞれ33.8%や35.7%で、OECD主要28カ国の平均39.3%を下回っている。日本より平均賃金に対する最低賃金の水準が低い国は、チェコ(31.5%)、メキシコ(28.7%)、アメリカ(26.6%)のみである。
  • 日本政府が推進しようとしている地方創生を成功させるためや雇用形態の違いにより格差が拡大されないように最低賃金の全体の底上げとともに地域間における最低賃金の格差を縮小することは不可欠であるだろう。それこそが日韓政府が実施しようとしている「同一労働同一賃金」の実現の近道であるだろう。

■目次

1――日韓の最低賃金は上昇傾向
2――平均賃金に対する最低賃金は国際的にも低い水準
3――日本は地域別最低賃金、韓国は全国的に統一された最低賃金を実施
4――おわりに

1――日韓の最低賃金は上昇傾向

1――日韓の最低賃金は上昇傾向

今回は日韓における最低賃金について述べたい。まず、昨年9月に厚生労働省が発表した日本の2015 年度における最低賃金の全国平均は798円で、前年度の780円より18円ほど高くなった。日本の最低賃金は2000年以降、継続的に引上げられており、特に2000年代後半からの引上げ幅が大きい(図表1)。その理由としては「最低賃金法の一部を改正する法律」が、2008年7月から施行されたことが指摘できる。同法では、就業形態の多様化等が進展する中で、最低賃金制度が賃金の低廉な労働者の労働条件の下支えとして、十分に機能することを求めており、最低賃金を引上げることによって、ワーキングプア対策につなげようとしていたのである。また、最低賃金で働く人の手取り収入が生活保護からの給付額を下回る「逆転現象」を解消することも一つの目的であった。
図表1 日本における最低賃金の推移
一方、韓国の最低賃金の水準はどうだろうか。図表2の表の部分は韓国ウォンをベースにした最低賃金の推移を、図の部分は日本との比較のために韓国における最低賃金の推移を日本円に換算したものである。日本円に換算した2016年度の韓国の最低賃金は615円で日本よりは低いものの、対前年度比の引上げ額は46円で日本の18円より高い。さらに2000年度から2015年度までの日韓における最低賃金の対前年度比引上げ率の推移を見ると、すべての年度において韓国の引上げ率が日本より高く、この期間の平均引上げ率も韓国が8.5%で日本の1.3%を大きく上回っている1
 
図表2 韓国における最低賃金の推移
韓国の最低賃金の対前年度比引上げ率が日本より高い理由は、元々最低賃金の水準が低く設定されていたことや、 毎年物価が上昇しており、物価の上昇率が最低賃金の決定に影響を与えていることが考えられる。
日韓ともに最近、最低賃金の引上げ率を高めている背景には、経済のグローバル化による企業競争の激化により労働力の非正規化が進んでいることが挙げられる。2015年における日本と韓国の非正規雇用労働者の割合はそれぞれ37.5%や32.5%まで上昇しており、いまや労働者の約3人に1人が非正規雇用労働者として働いている。このように労働市場に占める非正規職の割合が高くなってきた中で、日韓における非正規職の賃金を含めた処遇水準は正規職に比べて低い状況にあり、様々な社会問題を起こしてきた。そのため、彼らに対する処遇水準の改善が継続的に求められてきた。最低賃金の引上げは福利厚生制度の充実と並び非正規職の処遇水準改善のための日韓政府の政策措置の一環である。
 
図表3 日韓における最低賃金の対前年度比引上げ率の推移
 
1 最低賃金の適用期間:日本は該当年度の10月から次の年度の9月まで、韓国は1月から12月まで。
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生活研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

金 明中 (きむ みょんじゅん)

研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
    独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職

    ・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
    ・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
    ・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
    ・2021年~ 専修大学非常勤講師
    ・2021年~ 日本大学非常勤講師
    ・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
    ・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
    ・2024年~ 関東学院大学非常勤講師

    ・2019年  労働政策研究会議準備委員会準備委員
           東アジア経済経営学会理事
    ・2021年  第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員

    【加入団体等】
    ・日本経済学会
    ・日本労務学会
    ・社会政策学会
    ・日本労使関係研究協会
    ・東アジア経済経営学会
    ・現代韓国朝鮮学会
    ・韓国人事管理学会
    ・博士(慶應義塾大学、商学)

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