2016年03月16日

北イタリアのまちづくり事例に学ぶ公共空間活用の重要性~その2:ボローニャ、創造都市における公共空間利用~

社会研究部 土地・住宅政策室長 篠原 二三夫

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3――小さな路のプロジェクト

小さな路のプロジェクトは、非営利組織がコミュニティ活動のために、路上駐車空間などの公共空間を活用している事業である。市は、公共空間を市民活動利用のために認可し、情報提供を行うことによって、このプロジェクトを支援している。
 
1.事業主体
事業主体は、Association “Centotrecento”という2010年に若い建築家3名が立ち上げた社会活動非営利組織である。活動を開始した通りの名前がチェントレチェント通りであることと、3人で100%を超えるということからCento-tre-centoと名付けられている(http://www.centotrecento.it/)。

2.対象公共物
道路、特に路上駐車帯や広場などの公共空間及びポルティコ4下などの準公共空間。

3.事業概要
(1) 背景
住民同士の交流が希薄になり地域としての力が落ち、疲弊し始めたコミュニティの中で、お互いに地域の空間をシェアするという文化をひろめ、居心地を高めることで、コミュニティの再生を目指す試みである。多くの出会いの場と機会を創出することがCentotrecentoの活動目的である。活動のための3つのビジョンは、(a) 市民同士を結びつけること、(b) 中間支援団体として、行政と市民との関係を仲立ちすること、(c) このための公共空間利用の促進であり、参加型ワークショップにコミュニティ内の公共空間を使うこととしている。
(2) 事業内容
文化的で楽しめる小さなイベントを開催するなど、市民の少しずつの参加と協働を通じてコミュニティの強化を図り、歴史的建物の維持管理等も含めた難しい課題に取り組めるようにする。小路に面する店舗を含め、市民にとって便利な空間をつくる。
具体的には2台分の路上駐車スペースの利用を市に認めてもらい、飲食による交流や学習の機会を設けるなど、徐々にできることから近隣の交流を進めている。
(3) 事業スキーム
路上駐車帯や歩道、広場、ポルティコ下などの公共空間利用の認可を市から取得し、テーブルや椅子、白板等の用具を持ち込み、コミュニティの場に一時的に転換して活用する。
(4) 事業評価
当初はCentotrecentoによる試行でしかなかったが、今では既に1年近く継続する事業となり、活動範囲は徐々に広がっている。住民等が自発的に行う活動も増加し、さらに他地区にまで住民主導による同様の活動が拡がっており、ボローニャ市内の小路に新たな価値を与えつつある。
 
図3 小さな路のプロジェクトの事業エリア/図4 小さな路のプロジェクトの活動風景
 
4 ポルティコ(Portico)は、柱で支えられるか壁で囲まれた歩道上に屋根があるポーチである。ボローニャ市内のポルティコの総延長は40㎞ほどで、世界最長水準と言われる。制度上は民間の私有財産だが、ポルティコ下の歩道空間などは公共空間として取り扱われており、所有者であっても、占有利用するには市等の認可取得が必要である。
 

4――インクレディブル事業

4――インクレディブル事業

高齢化や景気後退による空家や空地、空店舗などの増加に伴うコミュニティの衰退への有効な対応策はわが国でも喫緊の政策課題である。ボローニャ市にて、実際に公共の空家や施設の再利用に向けた取り組みを行うGiorgina Boldrini女史のお話を聞くことができたので報告する。
 
1.事業主体
ボローニャ市の都市経済発展部テリトリー促進・部門間プロジェクト調整室
 
2.対象公共物
市が所有している空家や店舗等の施設及び空地。

3.事業概要
(1) 背景
近年の景気悪化により市所有不動産の空家や空店舗等が増え、この再有効活用が課題であった。一方、世界に冠たる文化芸術産業を発展させるため、長期的に文化創造事業を下支えする後継者や起業家を育成する必要があり、芸術家や若い起業家への支援が課題となっていた。この2つを解決する方策として、インクレディブル(「すごい」というような語彙)事業が促進されることとなった。最終的には、市が所有する公共の空家や施設を、文化創造事業の起業拠点として最大限に活用することによって、地域経済の発展を支援することが目的である。
(2) 事業内容
文化創造事業を起業したいグループからの提案を公募し、審査の上、採択した提案に対し、起業に必要な支援策を講じる。
(3) 事業スキーム
採択された起業者は、事務所・スタジオ・工房などに使える市所有の空家等を最大4年間無償で借り受けることができる(電気代等ユーティリティや修繕費用は起業家負担)。あるいは、起業費用として最大1万ユーロの補助を受けることができる。その他、市の斡旋により、弁護士や会計士、コンサルタントサービスなども無償で受けられる(これらの専門業者は起業家の将来の成長を期待し、無償で起業家を支援する仕組みとなっている)。必要に応じて、宣伝等のプロモーションについても市が支援する。詳細は、http://www.incredibol.netを参照。
(4) 事業評価
市は2010年から2015年現在までの公募に対し446提案を受領しており、起業意欲と本事業に対する需要は強いとみている。このうち62事業を採択し、最終的に24起業家を支援した。現状では約半数以上の起業家が成功し、支援がなくても自ら事業を展開できるだけの力量を発揮するようになった。こうした起業家の中には引き続き、支援を受けていた場所を有償で賃貸するものもいれば、活動水準に合わせて他の物件に移転するものもいる。支援を行った起業家が446提案中5%程度というのは、少ないという声もあるが、この種の事業は容易ではなく、きめ細やかさと忍耐が要求されることが分かっていたため、ボローニャ市としては、希望に満ちた成果と考えており、起業意欲を喚起しつつ、今後も着実に推進する方針である。
 
図5 提供されたスペース事例(左:従前、右:従後)/図6 提供されたスペース事例(現状)/図7 提供されたスペース事例(左:修復中、右:現状)
 

5――ボローニャの公共空間利用のまとめ

5――ボローニャの公共空間利用のまとめ

ボローニャ市では、市が公共空間の活用をリードする事業として、(1)旧市街地の道路や広場を歩行者と自転車優先の魅力ある空間として整備するT-days事業、(2)路上駐車帯などの公共空間を非営利組織がコミュニティ活性化のために活用することを認可し支援する小さな路のプロジェクト、(3)空いている公共施設などの空間を起業家への公募と審査を通じて利用させ、支援策を講じることによって、公共施設の再利用を通じた賑わい創出と経済効果、芸術家の育成を同時に行おうとするインクレディブル事業の3事例を紹介した。
直接的あるいは間接的に、公共空間を最大限に活用し、旧市街地やコミュニティの活性化、空家対策と経済振興を図ろうとするボローニャ市の公共的な役割と責任が明確に認識でき、日本の公共のあるべき姿を考える上で大変参考になると考えられる。
次回は、フェラーラ市の公共空間利用の事例を具体的手続きとともにご紹介する。
 
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社会研究部   土地・住宅政策室長

篠原 二三夫 (しのはら ふみお)

研究・専門分野
土地・住宅政策、都市・地域計画、不動産市場

経歴
  • 【職歴】
     1975年 丸紅(株)入社
     1990年 (株)ニッセイ基礎研究所入社 都市開発部(99年より社会研究部門)
     2001年より現職

    【加入団体等】
     ・日本都市計画学会(1991年‐)           ・武蔵野NPOネットワーク役員
     ・日本不動産学会(1996年‐)            ・首都圏定期借地借家件推進機構会員
     ・日本テレワーク学会 顧問(2001年‐)
     ・市民まちづくり会議・むさしの 理事長(2005年4月‐)
     ・日米Urban Land Institute 国際会員(1999年‐)
     ・米国American Real Estate Finance and Economics Association国際会員(2000年‐)
     ・米国National Association of Real Estate Investment Trust国際会員(1999年‐)
     ・英国Association of Mortgage Intermediaries準国際会員待遇(2004年‐)
     ・米国American Planning Association国際会員(2004年‐)
     ・米国Pension Real Estate Association正会員(2005年‐)

(2016年03月16日「基礎研レター」)

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