2016年03月09日

欧州経済見通し~金融政策頼み脱却の必要性は明確だが・・・~

経済研究部 常務理事 伊藤 さゆり

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■要旨

<ユーロ圏:金融政策頼み脱却の必要性は明確だが・・・>
  1. 16年のユーロ圏は前年比1.5%成長と、15年に続き内需主導型の潜在成長率を超える成長が続くと予測する。
  2. 下振れリスクは増大している。内需には、世界市場の動揺の余波で域内の銀行システムへの懸念が強まり、消費マインドが萎縮、企業が投資を手控えるリスクがある。
  3. 外需は、新興国減速で輸出の伸びが輸入を下回り、寄与度のマイナス幅は拡大する。米国の失速と国民投票を実施する英国との関係が混乱すれば下振れリスクが増大する。
  4. インフレ率は16年上半期もエネルギー価格の下押しでゼロ近辺の推移が続き、年間でも前年比0.4%の低い伸びに留まろう。
  5. ECBは予測期間を通じて極めて緩和的な金融政策を維持する見込みだが、追加緩和にあたっては効果と副作用のバランスの慎重な判断を必要とする局面に差し掛かっている。ユーロ圏の問題解決には構造改革加速、財政の有効活用が必要だ。
  6. 財政政策はユーロ圏全体ではやや緩和的な運営が続く。イタリアには財政ルールの柔軟な運用と構造改革加速が望まれる。ギリシャ支援の行方は楽観できない。
<英国:6月国民投票が不透明要因に>
  1. 16年の英国は経済ファンダメンタルズからは前年比2.2%となった15年並みの成長が期待できるが、6月23日のEU残留か離脱かを問う国民投票が大きな不透明要因である。
  2. BOEは当面は利上げに動けず、市場の動揺に備えざるを得ない。

 
■目次

1.ユーロ圏:金融政策頼み脱却の必要性は明確だが・・・
  ・2015年の実質GDPは1.6%
  ・2016年の実質GDPは1.5%、下振れリスクは増大
  ・個人消費のリスクはマインドの慎重化
  ・過剰債務、不良債権、先行き不透明感が固定資本形成の重石に
  ・輸出は新興国向けが伸び悩み勢いを欠く。外需の成長寄与はマイナスが続く見通し
  ・ECBは金融緩和強化に動かざるを得ないが、構造問題は金融政策では解決できない
  ・財政政策はやや緩和的な運営が続く見通し
  ・イタリアの16年度予算案は財政ルールへの適合性を再検討
  ・キプロスの卒業で唯一の支援プログラムとなったギリシャの改革は難航中
2.英国:6月国民投票が不透明要因に
  ・2015年実質GDPは2.2%、14年の同2.9%から鈍化
  ・EU残留か離脱かを問う国民投票が大きな不透明要因に
 
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経済研究部   常務理事

伊藤 さゆり (いとう さゆり)

研究・専門分野
欧州の政策、国際経済・金融

経歴
  • ・ 1987年 日本興業銀行入行
    ・ 2001年 ニッセイ基礎研究所入社
    ・ 2023年7月から現職

    ・ 2011~2012年度 二松学舎大学非常勤講師
    ・ 2011~2013年度 獨協大学非常勤講師
    ・ 2015年度~ 早稲田大学商学学術院非常勤講師
    ・ 2017年度~ 日本EU学会理事
    ・ 2017年度~ 日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
    ・ 2020~2022年度 日本国際フォーラム「米中覇権競争とインド太平洋地経学」、
               「欧州政策パネル」メンバー
    ・ 2022年度~ Discuss Japan編集委員
    ・ 2023年11月~ ジェトロ情報媒体に対する外部評価委員会委員
    ・ 2023年11月~ 経済産業省 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会 委員

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