2016年02月24日

“個を活かす”人口減少時代~多様な人材確保に向けた「介護離職ゼロ」社会~

土堤内 昭雄

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1―労働力人口、新卒離職率、就業者数の動向

[図表-1] 労働力人口(比率)と非労働力人口(比率)の推移/[図表-2] 就業人口と就業率の推移/[図表-3] 完全失業者(率)の推移 1|減少する労働力人口と就業者数

総務省「労働力調査」の長期時系列データによると、労働力人口1は1998年の6,793万人をピークに低下、2014年には6,587万人と200万人以上減少している。一方、高齢化が進展して65歳以上の老年人口が増加する中、非労働力人口2が増加傾向にあり、2000年以降は4,000万人を超えて、2014年は4,489万人に上っている。
労働力人口比率3は2014年は59.4%になり、2009年以降は6割を下回り、非労働力人口比率は4割を超えた状態が続いている。つまり15歳以上の人のうち5人に2人は、通学者や家事従事者、高齢者などの非労働力なのである。近年では、それ以外にもメンタルヘルスの問題や社会的孤立から無業者となる人も増えており、社会的孤立無業者(SNEP)と言われる人は162万人に上ると推計されている。
また、就業者数4>は1997年の6,557万人をピークに減少傾向で、2014年は6,351万人と200万人余り減少している。就業率は1999年以降、6割を下回っており、2014年は57.3%になっている。今後、少子化により人口減少が続き、子育て期の女性や高齢者の労働参加が進まなければ、労働力人口比率や就業率はますます低下するだろう。
一方、完全失業者数5は2002年に359万人、完全失業率は5.4%に達したが、以降は減少・増加を繰り返し、2014年は236万人、完全失業率も3.6%に低下した。しかし、産業構造や経済状況の変化から生じる人材のミスマッチが拡大すれば、完全失業者数の増加および完全失業率の上昇が再び起こる可能性もある。
 
1 「労働力人口」は15歳以上の人口のうち、「就業者」と「完全失業者」を合わせたもの
2 「非労働力人口」は15歳以上の人口のうち、「就業者」と「完全失業者」以外の者で、通学者、家事従事者、高齢者など
3 「労働力人口比率」は15歳以上の人口に占める「労働力人口」の割合
4 「就業者」は「従業者」と「休業者」を合わせたもので、「就業率」は15歳以上の人口に占める「就業者」の割合
5 「完全失業者」は次の3つの条件を満たす者((1)仕事がなくて調査期間中に少しも仕事をしなかった、(2)仕事があればすぐ就くことができる、(3)調査期間中に仕事を探す活動や事業を始める準備をしていた)
2|新規学卒者の離職状況

厚生労働省「新規学卒者の離職状況(平成24年3月卒業者の状況)」(平成27年10月30日)によると、卒業後3年以内の離職率は大学卒32.3%、短大等卒41.5%、高校卒40.0%となっている。大学卒、短大等卒、高校卒のいずれの離職率も、2004年以降は低下傾向だったが、2009年以降は上昇している。事業所規模別では、大学卒の場合、1,000人以上の事業所では22.8%、500~999人では29.3%、100~499人では32.2%、30~99人では39.0%、5~29人では51.5%、5人未満では59.6%と、事業所規模が小さくなるほど離職率は高い。
大学卒業者が3年以内に3割以上が離職するという職業選択のミスマッチは、人材の採用・育成コストの点からも大きな課題であり、その解消のためには新卒者の就活の在り方を再考する必要があろう。
[図表-4] 新規学校卒業就職者の卒業3年目までの離職率の推移
3|就業者数の将来推計

厚生労働省「平成27年度雇用政策研究会報告書」(平成27年12月1日)では、「経済成長と労働参加が適切に進まないケース」(ケース1)と「進むケース」(ケース2)に分けて、2020年および2030年の就業者数の推計を行っている。ケース1は、「復興需要を見込んで2020年まで一定程度の経済成長率を想定するが、2021年以降は経済成長率はゼロ、かつ労働市場への参加が2014年の性・年齢階級別の労働力率固定の場合」とし、ケース2は、「日本再興戦略を踏まえた高成長が実現し、かつ労働市場への参加が進む場合」としている。
2014年の就業者数の実績値に対して、ケース1では2020年に305万人減少、2030年には790万人減少する一方、ケース2では2020年に30万人増加、2030年に182万人の減少となっている。ケース2ではケース1に比べて2030年の就業者数の減少を600万人程度緩和できるが、そのうち6割近くは女性の寄与であり、今後の就業者数の動向は女性の労働参加が鍵になることがわかる。いずれのケースでも、2030年には深刻な就業者数の減少が見込まれる。
[図表-5] 就業者数の将来推計値(2020年、2030年)

2―介護離職の状況

2―介護離職の状況

1|大介護時代の到来

団塊世代が65歳に到達し高齢化率はますます高まっている。10年後の2025年にこれらの人たちが75歳以上の後期高齢者の仲間入りをすると、日本はまさに“大介護時代”を迎える。平成27年4月現在、公的介護保険の65歳以上被保険者は約3,300万人、そのうち要介護・要支援認定者は約608万人、うち男性が188万人で女性が420万人だ。高齢者全体の要介護割合は18.4%、75歳以上の後期高齢者では32.6%だ。長男長女時代となった今日、夫婦の4人の老親が75歳以上であれば、子ども世代にとっては少なくとも親のひとりは介護が必要な状況なのである。少子化時代は家族介護の負担が大きくなる時代でもあり、介護離職をせざるを得ない人も増えているのである。
 
2|主たる介護者

厚生労働省「平成25年国民生活基礎調査の概況」によると、要介護者の3人に2人は主に同居家族に介護されている。近年では同居する主な介護者のうち「子の配偶者」(主に要介護者の息子の妻)が大幅に減少しているが、それは専業主婦世帯が減り、40~50歳代の働く女性が増えているからだ。仕事を持つ妻は夫の親の介護まで手が回らず、多くの中高年男性が親や配偶者の介護に直面し始めている。
一方、近年では公的介護保険の介護サービス事業者による介護が増え、同居家族による介護が減少している。また、「一人暮らし」高齢者が増えた結果、別居家族による介護も増加し、2020年には高齢者世帯の4割近くが「一人暮らし」になるため、ますますその傾向が強まると思われる。
同居または別居する家族の主な介護者の多くは女性だが、近年では男性比率が上昇している。これは男性の生涯未婚率が2割を超え、老親を抱えた無配偶男性が増えているためと思われる。年齢別では男女ともに50~60歳代が全体の5~6割を占め、仕事を持っている中高年介護者が多くなっている。
 
[図表-6] 性別・就業状態別介護者数 3|就業と介護離職

総務省「平成24年就業構造基本調査」(平成25年7月12日)によると、15歳以上人口で介護をしている人は557万人、うち男性が200万人で36.0%、女性が357万人で64.0%だ。そのうち有業者は291万人で52.2%を占め、男性は131万人(男性介護者の65.3%)、女性は160万人(女性介護者の44.9%)となっている。
また、過去5年間(平成19年10月~24年9月)に介護・看護のために離職した人は、48.7万人で、女性が8割を占めている。1年毎にみると、平成19年8.9万人、平成20年8.2万人、平成21年9.9万人、平成22年8.4万人、平成23年10.1万人となっている。平成23年の離職者10.1万人のうち、男性は2.0万人、女性は8.1万人で、現在の就業状態が無業である者は男性1.6万人、女性6.7万人で、合計すると8.3万人となり、いったん離職すると8割以上の人が無業状態になっている。
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