2016年02月24日

日本経済再生の鍵-女性、高齢者の労働参加拡大と賃金上昇が必須の条件

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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■要旨
  1. 人口減少、少子高齢化が進展するもとで経済成長率を高めるためには女性、高齢者の労働参加拡大が不可欠である。男女別・年齢階級別の労働力率が今後変わらなければ(現状維持ケース)、相対的に労働力率が低い高齢者の割合が高まることにより労働力人口は2025年には6071万人となり、2014年よりも516万人も減少してしまう(年平均で▲0.7%の減少)。
     
  2. 女性(25~54歳)、高齢者(60歳以上の男性)の労働力率が現在よりも10ポイント程度上昇した場合、2025年の労働力人口は6352万人と2014年よりも235万人減少する(年平均で▲0.3%の減少)が、現状維持ケースと比べれば減少幅、減少ペースは大きく緩和される。この場合、今後10年間の潜在成長率は現状維持ケースよりも0.3%ポイント程度高くなり、2025年の潜在GDPの水準は約17兆円高くなると試算される。
     
  3. 労働力人口の減少ペースを緩やかにすることで供給力の低下に歯止めをかけることは可能だが、潜在成長率の上昇に実際の需要が追いつくのかという問題がある。女性、高齢者の労働参加が進んだ場合、これまで以上に雇用の非正規化が進むことが予想される。
     
  4. 日本は男女間、正規・非正規間の賃金水準の格差が大きいため、非正規比率の高い女性、高齢者の労働参加拡大は一人当たりの平均賃金水準の押し下げ要因となる。現在の男女別、雇用形態別の賃金水準を前提にすると、今後10年間で年平均▲0.4%押し下げられると試算される。
     
  5. 労働者の賃金水準が下がれば消費に下押し圧力がかかる。家計の所得水準の低下によって個人消費が低迷すれば、潜在GDPに見合うだけのGDPが達成されず、需給ギャップが拡大してしまう。
     
  6. 日本経済再生の鍵は女性、高齢者の労働参加拡大を通じて量的な労働供給力を高めるとともに、労働生産性に見合った賃上げを実現することにより家計の購買力を引き上げ、需要の拡大につなげていくことである。供給面、需要面双方の取組みを同時に進めていくことが求められる。


■目次

1―はじめに
2―女性、高齢者の労働参加拡大による潜在成長率への影響
  1|労働力人口への影響
  2|潜在成長率への影響
3―需要面からみた影響
  1|需要不足が慢性化
  2|非正規雇用比率はさらに上昇へ
  3|雇用の非正規化による賃金低下圧力
4―労働供給力の拡大と賃金上昇による消費拡大の両立
 
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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

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