2016年02月08日

フランスにおける少子化社会脱却への道程の段階的考察-出生率2.0を早期達成したフランスの少子化対策を日本に活かすことは出来るのか-

生活研究部 准主任研究員   天野 馨南子

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2――フランスの脱少子化政策の段階的な総括と日本への示唆

2――フランスの脱少子化政策の段階的な総括と日本への示唆

1まず「出産か、就業継続か」二者択一社会からの脱却を達成したフランス
 
(1)政策内容そのものではなく、何を狙った政策かが重要 
フランスの少子化政策を評価する際に、「総合的な家族政策」(1994年シモーヌ・ベイユ法以降の政策タイプ)が奏功した、という意見が述べられることがあるが、これには細心の注意が必要である。
 
フランスの出生率は1993年に1.66の底を経験したが、段階的考察から鑑みると、この1993年までの間に、子育て女性の就業継続を積極的に促す政策が先にあった。
 
フェーズ1で述べたように、フランスは1970年代まで著しく女性の権利が制約されていた。つまり、1970年代までは、避妊・中絶・離婚の選択権、財産権を持てない中で、「家庭にいることが安定した状態」となる女性達によって、達成されていた高出生率であった。
5月革命を端緒とするフェミニズム運動を経て避妊・中絶の選択の自由が認められ、1970年代に女性が自らの身体のコントロールの自由度が増すことによって社会進出を本格化させる中、社会進出した女性が以前よりも産まなくなることは、自明すぎる結果であった。
 
85年に男女の財産権が平等となり、女性も財産が所有できるようになったこと、1971年に産休の給与保証90%引き上げられたこと、保育手当の充実などにより、「出産・育児で出産前のように働けなくなっても、お金に困らない」政策が最もはやくから打ち出されたことで、経済的な理由から出産を捨ててでも就業継続を選択することにならないような社会作りが行われたことは看過してはならない。
 
フランスに同じく、日本においても女性活躍推進と少子化対策を両立させたい、と願うのであれば、子育て期の女性の就業継続率上昇に関する検討が優先課題となる。就業を捨てなければ出産育児ができない、という女性への心理的プレッシャーは、女性活躍推進のためにも、脱少子化にもマイナス要素となるからである。
 
とはいえ、女性の就業継続率上昇の政策が、そのまま出生率アップの直接的な効果のある政策になるわけではない。
 
フランスにおいて、1980年、つまり出生率が1.66の底にむかう前に、子育て期年齢の女性が労働市場から退出する「出産か就業継続かの二者択一社会」は、すでに解消されていた。
 
このことからも、いまだ女性労働力率のM字カーブ現象が残る日本において、出産か就業継続かの二者択一社会からの脱却は、少子化対策のベースとして、最低限必要不可欠な対策であると思われる。つまり、出産のために就業を諦める女性が一定数いる社会というのは、同時に、就業のために出産を諦める女性がいる社会である、ということでもあるからである。図表2で見たように、都道府県別データを用いると、日本では子育て期の年齢の女性の労働力率と出生率には正の相関が見られていることからも、二者択一社会からの脱却は少子化対策としても必要であると考える。
 
第2フェーズで述べたが、大きな政府を基本とするフランスにおいては、手当等の「お金の政策」が年齢別女性労働力率のM字カーブ解消政策となった。では、日本でもお金の政策が子育て期の女性の就業継続に効果的といえるのであろうか。
 
ここで日本とフランス、両国の男性の働き方に注目したい。女性が社会進出したその先にある、労働市場の条件の差を見てみよう。
フランスでは、男性の長時間労働者比率が日本の約二分の一である(図表8)。フランス人はヨーロッパの中でも長い2ヶ月のサマーバケーションをとることでも有名であり、そもそも男性の労働時間が短い。ゆえにフランスでは、今まで男性が主力として働いていた労働市場への参加を女性が決定する際に、「出産育児して仕事を中断・短縮しても、お金には困らないよ。その間の給与負担を社会保障に転嫁できるため、企業もレイオフしないよ。」という条件さえ提示されるならば、比較的容易に参加を決めることが出来るのである。また、長時間労働者を前提としていない企業は、女性労働者を受け入れてきやすかったといえる。
つまり、フランスの労働市場は「男女問わず活躍可能な身体的ダイバーシティ型の労働市場」であったといえる。
一方、日本はどうであろうか。フランスに比べるまでもなく、先進国の中では高出生率国のスウェーデン、イギリスなどと比べても、日本は男性の長時間労働者比率が高い。日本の女性活躍推進が、男性のそれと同じ働き方を求めるものであるならば、世界に冠たる長時間労働を前提とした妊娠・出産を女性に求めることになるだろう。これは、あまりにも女性の身体に酷な労働参加条件である。
長時間労働と妊娠・出産の両立が困難であるために、従来どおり、妊産期の女性が労働市場から退出してしまうことは必定であろう。すなわち、他国に比べ日本は「参加者を選ぶ身体的非ダイバーシティ型の労働市場」となっている。
 
日本においてはM字カーブの解消には、フランスのようなお金の政策云々以前に、先進国でトップクラスの長時間労働の問題が、妊産期にある女性の就業継続の最も高い壁となっていることを指摘したい。これからは本格的に、フランス型の「男女問わず活躍可能な身体的ダイバーシティ型の労働市場」を目指さなければならない。
図表8 世界トップクラスの男性の長時間労働者比率である日本 (2013年:単位%)
(2)女性活躍推進法の成立と長時間労働の関係
 
(1)を踏まえ、では、男性労働者を中心とする日本の長時間労働を前提とした労働市場を是正するため、実際どのような政策が進むと考えられるであろうか。
昨年、日本において女性活躍推進法が成立した。
1985年の男女雇用機会均等法が「男性と同じ職場への女性への門戸開放」を求める法律、1992年の育児休業法が「男性中心の職場でも女性特有の出産にまつわる猶予期間を与える」法律、であるとするならば、2016年の女性活躍推進法は、「女性が男性と同じ職務を行うため障壁となる男性中心の働き方を見直す」法律と位置づけられる。
 
この女性活躍推進法によって、301人以上の事業主は以下が義務となった(300人以下事業主は努力義務)。このうち、特に(3)は、今後女性労働者が就業先を選択する際の大きな関心ポイントともなる公表、といえる。
 
女性活躍推進法
長期の低出生率継続をうけて今後加速的に労働力人口が減少する中、優秀な人材の確保を求めてこの公表を強化する企業が増加すること、結果、より女性の就業継続に不利な条件を公表せざるを得ない企業の淘汰が起こること、が予想される。
 
(3)において、1つ以上公表義務がある、とされた事項は以下の通りである。
 
公表義務
公表事項の中に、「男女の平均継続勤務年数の差異、男女別の育児休業取得率、1か月当たりの残業時間数、雇用管理区分ごとの1か月当たりの残業時間数、有給休暇取得率」といった、「時間」に関わる項目がある。このような「時間」公表項目は、出産育児を考える女性就業(希望)者の注目事項である。
労働人口が減少してゆく中で、日本は妊産期世代の女性が労働市場から退出してしまうM字カーブ解消が、労働力確保のために必要である。ゆえに、今後一層、これらの「時間」公表項目の競争優位を企業が高めてゆくことが求められるであろう。企業が労働人口の減少に直面してゆく中、労働力となる女性から選ばれる企業となるために、M字カーブの底となっている(労働市場から退出してしまう)30代女性の働き方について、特に変革を行うことが必要である。
以上から、企業は同法の「時間」公表項目に今後重点をより一層おく必要があるであろう。企業の人材獲得競争を高める効果を目指す同法を活用し、特に妊産期世代の女性をターゲットとした事業計画書の策定と、その運用を事業主に期待したい。
 
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生活研究部   准主任研究員

天野 馨南子 (あまの かなこ)

研究・専門分野
少子化対策・女性活躍推進

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