2016年02月01日

EUソルベンシーⅡの動向- 各社のSCR算出のための内部モデルの適用申請等はどのような結果になったのか(2)-

中村 亮一

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4―各社のSCR比率や内部モデルの適用状況等(詳細)

この章においては、前ページの図表の各社毎の状況について、詳しい内容を報告する。

1|Prudential
Prudentialは、12月7日4にプレス・リリースを、さらに1月19日のInvestor Conferenceにおいて、ソルベンシーII資本ポジションについての説明会を行った。これらによると、以下の通りとなっている。

(1)SCR比率等の状況
12月5 日に、英国の保険監督当局であるPRA(健全性規制機構:Prudential Regulation Authority)から内部モデル使用の承認が得られた。これに基づく上半期末(6月末)のソルベンシーIIによるSCR比率は190%になる。自己資本が194億ポンド、SCRが102億ポンドとなる。

自己資本のうち、Tier1が156億ポンド(Tier1(無制限)が149億ポンド、Tier1(制限付)が7億ポンド)で81%を占めており、SCRの153%となる。

SCRの構成比は、死亡率・罹患率リスク5%、長寿リスク11%、解約・失効リスク15%、金利リスク11%、信用リスク26%、株式リスク12%、オペレーショナル・事業費リスク11%、為替換算リスク6%、その他市場リスク3%となっている。

(2)SCR等の算出方法(内部モデルの適用状況等)
英国の年金負債の割引率に対して、MA(マッチング調整)を使用している。英国では技術的準備金に関する経過措置を適用している。

米国は同等性評価に基づいて、米国RBCのCAL(会社行動水準:Company Action Level)の250%を超える部分をサープラスとしている。ただし、グループ・ソルベンシーの算出においては、自己資本にTAC(総調整自己資本:Total Adjusted Capital)からCALを控除した額を加え、SCRにCALの150%を加えている。他のグループ会社との分散効果は反映していない。 

アジア事業については、内部モデル・アプローチに基づいている。ローカル・ベースのフリー・サープラス14億ポンドに対して、ソルベンシーIIベースでは62億ポンドとなるが、保守的な監督規制を反映して14億ポンドを控除して、48億ポンドをグループ・ソルベンシーに加えている。

なお、資産管理会社のM&G等については、資本要件指令等の各セクターの規制に基づいて、算出している。

(3)SCR比率の感応度
各種の金融市場のショックに対するSCR比率の感応度(2015年度上半期末ベース)については、以下の通りとなる(2つの数字は、各項目の変化率とそれによるSCR比率の変化(数字が1つの場合は、当該項目によるSCR比率の変化)を示している。以下、同様)。

(1)金利   +100bps(ベーシスポイント)+16pts(%ポイント) ▲50bps ▲13pts
(2)株式市場       ▲20%  ▲1pt   ▲40% ▲15pts
(3)信用スプレッド    +100bps  ▲9pts

なお、これらの感応度の数値については、いずれのケースも、会社の各種の対応策を反映して、2014年度末に比べて低下している。

2|Allianz
Allianzは、11月24日のアナリストや機関投資家向けのCapital Markets Day 2015において、ソルベンシーII資本ポジション等についての説明会を行った(なお、Allianzは11月6日にも、Analyst Conference Callを行っており、そこでもソルベンシーIIに関する情報を提供している)。これらによると、以下の通りとなっている。

(1)SCR比率等の状況
11月18日に、BaFin(連邦金融監督庁:Bundesanstalt fur Finanzdienstleistungsaufsicht)から内部モデル使用の承認が得られた。これに基づく第3四半期末(9月末)のソルベンシーIIによるSCR比率は200%になる。自己資本が700億ユーロ、SCRが350億ユーロとなる。AllianzはソルベンシーⅡ比率の目標範囲を180%~220%に設定している。

自己資本のうち、Tier1が73%(Tier1(無制限)が66%、Tier1(制限付)が7%)を占めており、SCRの146%となる。

(2)SCR等の算出方法(内部モデルの適用状況等)
SCRのうち、内部モデルの適用会社が72%を占め、標準的方式による会社が14%、米国が8%、資産管理や銀行が6%となっている。

内部モデルを適用しているのは、ドイツ、フランス、英国、イタリア、韓国、米国の損害保険部門及びグループの保険会社のAllianz Global Corporate & Speciality等である。標準モデルを適用しているのは、オランダ、スペイン、ポルトガル、ポーランド、チェコ、ルーマニア、ギリシャ等である。

米国は同等性評価に基づき、転換率として150%を採用している。転換率については、第2四半期末までは100%を採用していたが、EIOPAが9月に公表したガイダンスを受けて、150%に増加させた。

(3)SCR比率の感応度
各種の金融市場のショックに対するSCR比率の感応度(2015年度第3四半期末ベース)については、以下の通りとなる。

(1)金利       ▲ 50bps ▲12pts
(2)株式市場     ▲ 30%    ▲ 8pts
(3)国債スプレッド  +100bps ▲13pts
(4)社債スプレッド  +100bps  ▲ 9pts

なお、Allianz は四半期毎にこれらの数値を公表しているが、基本的にはこれらの影響を小さくする方向で対応してきている。

(4)その他
SCR比率は、上半期末(6月末)の212%から、第3四半期末の200%に12pts低下しているが、これについては、金利の低下や株価の下落等の市場環境の悪化によるものが5pts、米国事業の転換率の引き上げによるものが5pts、その他のモデルの変更によるものが2ptsとなっている。ただし、2014年度末のSCR比率は191%であり、それに比べれば9pts上昇している。さらに、2010年からの過去数年間のソルベンシーIIによるSCR比率を見ると、191%~202%の範囲で安定的に推移している。

3|AXA
AXAは、12月3日のInvestor Conferenceにおいて、ソルベンシーII資本ポジションと内部モデルについての説明会を行った。これによると、以下の通りとなっている。

(1)SCR比率等の状況
11月18日に、フランスの保険監督当局であるACPR(健全性規制・破綻処理庁:Autorité de contrôle prudentiel et de résolution)から内部モデル使用の承認が得られた。これに基づく9月末のソルベンシーIIによるSCR比率が212%になる。自己資本が610億ユーロ、SCRが290億ユーロとなる。AXAはソルベンシーII比率の目標範囲を170%~230%に設定している。

自己資本のうち、Tier1が84%を占めている。そのうち、Tier1負債が全体の16%を占めているが、配当差引後で毎年の事業から形成される資本により、次年度以降に満期を迎えるTier1負債の一部を更新することなく、Tier1負債の比率を減少させ、資本弾力性をさらに高めていくことができる、としている。

SCRの290億ユーロの内訳は、保険引受けリスク150億ユーロ、市場リスク150億ユーロ、信用リスク40億ユーロ、オペレ-ショナル・リスク20億ユーロで、これらの分散効果が▲110億ユーロとなり、税調整▲25億ユーロと併せて控除される。一方で、資産管理や銀行業務等に対する25億ユーロと米国の必要資本40億ユーロが追加される。

(2)SCR等の算出方法(内部モデルの適用状況等)
内部モデルは、(投資資産ベースで)米国を除く保険事業の97%をカバーしている。

米国は同等性評価に基づき、転換率として300%を採用している。具体的には、グループのソルベンシーIIベースの比率算出において、米国子会社について、利用可能資本であるTACはそのままグループの自己資本(AXAはAFR(Available Financial Resources)と呼んでいる)に加え、一方で、米国のRBCのCALの300%を必要資本であるSCRに加算している。

資産管理や銀行もそれぞれの規制フレームワークに基づいて含まれている。年金基金リスクも含まれている。

技術的準備金や株式リスク係数に関する経過措置は使用していない。

VA(ボラティリティ調整)を適用している。75bpsの社債スプレッドの拡大と安定的なVAを採用する場合、SCR比率は13pst低下する。VAは、欧州保険会社の資産の参照ポートフォリオにおける社債とソブリン債の重み付けを使用して算出される。AXAは参照ポートフォリオと比較して、より多くのソブリン債とより少ない社債を保持しているため、社債スプレッドの変動に対する感応度が低く、ソブリン・スプレッドの動きに対してより感応度が高い。参照ポートフォリオにおける社債の重み付けの5%の減少は、SCR比率を5pts低下させる。

全ての国債に対するスプレッドとデフォルトリスクを考慮している。

各国のSCRを超える自己資本のうちの少数株主分は、グループの自己資本に利用可能としていない。

SCRの税調整は、ソルベンシーIIのB/S(貸借対照表)において既に認識されている既存のネット繰延税金負債に限定されている。監督当局によって認められる場合に、税グループメカニズム(同じ税グループにおける会社間の損失填補能力)を使用している。

(3)SCR比率の感応度
UFRの100bpsの引き下げは、SCR比率を19pts引き下げる。 

各種の金融市場のショックに対するSCR比率の感応度(2015年度第3四半期末ベース)については、以下の通りとなる。

(1)金利          +50bps   0pt     ▲50bps  ▲8pts
(2)株式市場      +25% +2pts   ▲25%  ▲6pts
(3)社債スプレッド  +75bps   ▲1pt
(4)20年に1回のショック     ▲32pts
(5)2008年~2009年にかけての金融危機  ▲48pts
(6)1918年のスペイン風邪   ▲3pts 

(4)その他
AXAは、2000年代初期から内部モデルの開発を先導してきており、ビジネスミックスの転換やALM(資産負債管理)原則及び慎重な資本配分において証明されているように、これが過去の10年間における意思決定プロセスの中心でありつづけた、としている。さらに、内部モデルは、長年にわたって、戦略的決定やリスク原則を特徴づけ、会社が今日提供している強力で柔軟な比率に貢献してきた、としている。
 
4 以下、特に断りが無い限り、11月、12月は2015年、1月は2016年を表している。
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中村 亮一

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