2016年01月25日

EUソルベンシーIIの動向-各社のSCR算出のための内部モデルの適用申請等はどのような結果になったのか(1)-

中村 亮一

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2|ドイツにおける状況

(1)全体の状況
ドイツにおいては、Allianz、Talanx、Munich Re、Hannover Re等が監督当局のBaFin(連邦金融監督庁:Bundesanstalt fur Finanzdienstleistungsaufsicht)から、内部モデルの使用の承認を得たことを公表している。

(2)Talanx-オペレーショナル・リスクについて標準的方式を採用-
Talanx6は、11月23日に内部モデルの承認を得た、とプレス・リリースしている。

これによれば、2014年度末において、ソルベンシーⅡによるSCR比率は182%、エコノミック・ソルベンシー比率は271%、ソルベンシーⅠによるSCR比率は228%となる、としている。

Talanxは、Hannover Reを含む保険グループであり、ドイツでAllianz、Munich Reに次ぐ第3位の保険グループであるが、2007年からモデルの開発に取り組んできた。モデルの不確実性に加えて、エマージングや戦略的リスクに備えるために、自ら10%の資本バッファーを課しており、それが2014年度末で約 17億ユーロとなっている。Talanxは、この内部モデルをリスク管理と企業管理に数年間使用してきた、としている。

なお、Hannover Reは8月5日に、オペレーショナル・リスクを除く引受けリスクや市場リスク等に内部モデルを使用する部分内部モデル使用の承認を得たことを公表しているが、Talanxもオペレーショナル・リスクについては、標準的方式を採用している。

3|フランスにおける状況

(1)全体の状況
フランスにおいては、AXAやSCOR等が監督当局のACPR(健全性規制・破綻処理庁:Autorité de contrôle prudentiel et de résolution)から内部モデル使用の承認を得ている。

(2)SCOR-2万ページを超える文書を提出-
SCOR7は11月4日に、完全内部モデルの使用の承認を得たとプレス・リリースしている。最適なSCR比率を185%~220%の範囲に設定しており、2014年度末は202%、2015年第3四半期末は208%になると述べている。

SCORは、過去10年以上にわたって、内部モデルの開発を進めてきており、2011年に事前申請をスタートしてから、監督当局による広範囲にわたるレビュー・プロセスを経てきており、5月22日には、2万ページを超える文書が提出された、と述べている。SCORの内部モデルは、生保・損保の引受けリスク、市場リスク、信用リスク及びオペレーショナル・リスクを含む全てのリスクをカバーしている。SCORは、内部モデルをリスク管理、資本配分、ソルベンシー、グループ戦略決定等多くの事柄に使用し、さらに戦略計画、資本シールド戦略やプライシング等の分野に使用している、としているる。

4|オランダにおける状況

(1)全体の状況
DNB(オランダ中央銀行:De Nederlandsche Bank )は、他の監督当局よりもより厳密にソルベンシーIIのルールを適用している、と述べている。例えば、保険会社がソルベンシーIIへの移行に伴う資本要件の増加を16年間に亘って滑らかにすることを可能にする「経過措置」について、英国やドイツでは「かなり大規模」に使用されているが、オランダの保険会社は「殆どあるいは全く使用」していない、としている。

さらに、DNBは、保険負債評価において、ソルベンシーIIによるソルベンシー水準を遵守するために4.2%のUFR(終局フォワードレート)に依存している保険会社については、その配当支払を禁止している、とも言われている。

(2)N.N.(Nationale-Nederlanden)-部分内部モデルを使用-
N.N.8は、12月21日にDNBから部分内部モデルの承認を得たことをプレス・リリースした。合わせて、9月末のSCR比率が247%になることを公表した。ただし、SCR比率については、主要な不確実性として、税金の取扱に関するソルベンシーⅡ規制の最終解釈に依存している、ことを挙げた。

また、N.N.は、11月19日のN.N. Group Capital Markets Dayにおいて、9月末の標準的方式によるSCR比率が(会社のソルベンシーⅡ規制の解釈に基づけば)214%になると公表していた。
この時の資料によれば、部分内部モデルの内容等については、例えば、以下のように説明している。

オランダの生保・損保・再保険の子会社及びグループのソルベンシー要件の算出に、部分内部モデルを適用している。オランダ以外の欧州事業であるInsurance Europeユニットに対しては標準的方式を適用し、日本の生命保険会社(エヌエヌ生命)については、同等性ベースで評価している。

ボラティリティ調整を適用する。AAAのソブリン債に対して、リスク・ウェイトを課している。株式のリスク係数に対する経過措置が、グループのソルベンシー比率を13ポイント上昇させる。欧州の子会社のいくつかにおいて、技術的準備金に関する経過措置を適用する。ハイブリッド資本等に対して、グランド・ファザールールを適用している。UFRが3.2%に引き下げられた場合、SCR比率は20%ポイント低下する。

(3)Delta Lloyd -内部モデルの申請を取り下げ-
Delta Lloyd9は、11月30日に、内部モデルの申請を取り下げて、標準モデルを使用する、方針であることを公表した。DNBとの議論によって、モデルのいくつかの部分を拒否されたことから、断念せざるを得なくなったことによるもの、と言われている。会社は、内部モデルにおいて観測されたボラティリティを今回の内部モデル申請取り下げ決定の理由に挙げている。

これに伴い、会社のソルベンシー比率が大きく低下し、かなりの資本獲得の必要性を懸念せざるを得ない状況に追い込まれていたため、この日、2月下旬に約10億ユーロのライツイシュー(rights issue)10を予定していることをリリースした。会社は、この資本増強策及びその他の会社の施策により、ソルベンシー比率が、9月末の136%から、140%~180%の目標レンジの上限近くの175%~180%の水準に増加する、と説明している。因みに、ソルベンシーⅠベースのソルベンシー比率は181%だった。

また、会社は、独立した第3者のアドバイスを受けて、安定性にフォーカスした内部モデルの改善を図り、2016年において、そのレビューを行うとしている。

なお、ボラティリティ調整を適用している。また、UFRが3.2%に引き下げられた場合、SCR比率は27%ポイント低下する、としている。
 
6 2014年度の収入保険料28,994百万ユーロ、2014年度末の総資産147,298百万ユーロ
7 2014年度の収入保険料11,316百万ユーロ、2014年度末の総資産  37,166百万ユーロ
8 2014年度の収入保険料9,340百万ユーロ、2014年度末の総資産165,481百万ユーロ
9 オランダで約1割程度の市場シェアを有する保険会社グループ(オランダ、ベルギー、ドイツで事業展開)
2014年度の収入保険料3,963百万ユーロ、2014年度末の総資産89,979百万ユーロ
10新株予約権無償割当」とも呼ばれ、株主割当増資による企業の増資方法の1つであり、既存株主に対して、新株を買える権利(新株予約権=ライツ)を無償で割り当てる(発行=イシュー)資本調達の仕組みである。

4―内部モデルの承認による効果

殆どの場合、内部モデルの使用により、標準的方式による場合に比べて、資本要件は低くなる。

標準的方式は、特に、長寿リスクと大災害リスクに対して大きなエクスポージャーを持つ会社にとって、厳しいものになっている、と言われている。例えば、年金を主力としている会社やロイズ市場における会社のように大災害による支払いを行う保険会社は、内部モデルを使用することを強く追求していた。

標準的方式と内部モデルのアプローチの違いの程度は、各企業のリスク・プロファイルに応じて異なる。EIOPAのQIS5(第5回定量的影響度調査)11の結果報告によれば、標準的方式と内部モデルによる結果数値を比較してみると、両方式で計算したSCR の平均値は、単体保険会社(236社)ではほぼ同水準、保険グループ(29グループ)では内部モデルの方が20%低い値となっていた。

さらには、英国の保険監督当局であるPRAの2014年の影響調査によると、資本要件は、内部モデルの場合に、平均して19%低くなり、ソルベンシー資本比率という点では、標準算式の下で158%の数値が、内部モデルの下で195%に上昇する、ということになっていた。
 
11 EIOPAによるQIS5(第5回定量的影響度調査)は、2010年8月から11月にかけて行われ、2011年3月にレポートが公表された。
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中村 亮一

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