2015年12月29日

日韓比較(12):医療保険制度-その5 混合診療―なぜ韓国は混合診療を導入したのか、日本へのインプリケーションは?―

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中

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また、前述の通り、選択診療を担当する指定医師の割合を既存の80%から2015年9月からは67%に縮小したが、さらに2016年からはこの割合を33%に縮小し、2017年には医療保険が適用されない選択診療を完全に廃止する方針である。しかしながら、選択診療を担当する指定医師の割合をある程度維持すべきだという、選択診療の完全廃止に対する反対の意見も少なくない。特に選択診療の廃止による医療機関の収入減少や医療サービスの質の低下を懸念する声が高い。その対策として、韓国政府は、高度の手術や処置、機能検査等に対する診療報酬を引き上げることで、選択診療の段階的な縮小による医療機関の収入減少を補填する計画である。また、重症患者を対象にする医療サービスの診療報酬も引き上げ、「医療の質向上のための分担金」や「患者の安全のための診療報酬」を新設する。「医療の質向上のための分担金」は、医療機関をいくつかの基準により評価13し、その成績により決まった予算を等級別に支給する制度である。「医療の質向上のための分担金」は2015年に1,000億ウォン(105億円)規模で始まり、2016年には5,000億ウォン(525億円)まで拡大する計画である。また、「患者の安全のための診療報酬」は、医療機関が診療、手術をする過程で患者の安全を強化する措置を行った場合、助成金を支払う仕組みであり、年間730億ウォン(77億円)の予算規模で実施される。

2番目は差額室料の改善である。差額室料の改善作業の基本方向は、差額室料が適用されない一般病室を拡大し、患者の医療費負担を軽減させることである。差額室料とは、医療保険適用の範囲外で患者に請求される病室の費用のことである。差額室料の改善作業により、2014年9月以降一般病室の基準が6人部屋から4人部屋に拡大された。また、2015年9月から上級総合病院や総合病院における全病室に占める一般病室の割合を既存の50%から70%に拡大した。実際に、2013年における一般病室の割合は、病院が78%であることに比べて、上級総合病院(上位5大病院)は59%に過ぎない(図3)。さらに、差額室料は医療機関の規模が大きくなるほど高く設定されていた。例えば1人室の場合、病院が9.3万ウォン(日額)であることに比べて、上位5大病院は32.4万ウォン(日額)で約3.5倍の差もある(図4)。一般病室の空きがないのが原因で、仕方なく上級病室を利用している患者やその家族にとって、差額室料は大きな負担になっていたのに違いない。
図3 医療機関別一般病室と上級病室の割合(2013年)
最後は、看病サービスの仕組みの改正である。韓国では家族が患者を看病する独特の医療文化が残っており、家族が仕事等で患者の看病ができない場合には看病人を雇って患者の身の回りの世話をさせている。看病にかかる費用は医療保険が適用されず、患者やその家族にとって大きな負担になっている。この問題を解決する目的で今後は看護師や看護補助人材を増員し、病院内で看護サービスや看病サービスが両方提供できる包括的看護サービス(医療保険が適用)を段階的に拡大・実施する方針である。現在、モデル事業が実施中である包括的看護サービスは、2017年には地方病院や中小病院に、2018年以降は首都圏を含めたすべての病院に拡大する計画である(図5)。
 
図4 医療機関別差額室料(2013年)/図5 看病サービスの改善前後の仕組み
 
13 総合病院給以上の医療機関を五つの領域にわたる37指標で評価し、その結果により病院別診療報酬を算定する。
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生活研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

金 明中 (きむ みょんじゅん)

研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
    独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職

    ・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
    ・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
    ・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
    ・2021年~ 専修大学非常勤講師
    ・2021年~ 日本大学非常勤講師
    ・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
    ・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
    ・2024年~ 関東学院大学非常勤講師

    ・2019年  労働政策研究会議準備委員会準備委員
           東アジア経済経営学会理事
    ・2021年  第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員

    【加入団体等】
    ・日本経済学会
    ・日本労務学会
    ・社会政策学会
    ・日本労使関係研究協会
    ・東アジア経済経営学会
    ・現代韓国朝鮮学会
    ・韓国人事管理学会
    ・博士(慶應義塾大学、商学)

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