2015年12月29日

日韓比較(12):医療保険制度-その5 混合診療―なぜ韓国は混合診療を導入したのか、日本へのインプリケーションは?―

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中

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2014年12月末現在、選択診療は、病院級以上の医療機関2,243施設のうち、18.1%に当たる405施設(漢方病院や歯科病院を含めて)で実施されている(表2)。また、医療機関における選択診療を担当する医師の指定比率は上級総合病院7が79%で最も高く、次は総合病院8(69%)、病院(52%)の順である。
表2 選択診療を実施している医療機関の現状(2014年12月31日基準)  
2013年に選択診療を利用した経験のある患者の割合は、40%であったものの、上位5大病院の場合は76.2%で平均を大きく上回っており、病院の規模が大きいほど選択診療の利用率が高く現れた。
 
図2 選択診療の利用経験のある患者の比率
医療機関の選択診療収入は2004年の4,368億ウォン(461億円9)から2012年には1兆3,170億ウォン(1,383億円)に3.3倍(医療機関総収入の6.5%)も増加した。選択診療収入の内訳を診療項目別に見ると、処置・手術料が37.2%で最も高く、次は影像診断(20.2%)、検査料(13.5%)、診察料(10.8%)、入院料(9.1%)、麻酔(7.7%)、精神療法(1.3%)の順である。
 
図2からも分かるように重病でより大きい病院を利用せざるを得ない患者、例えば上位5大病院を利用する患者の場合は約8割弱が選択診療を利用した経験がある。選択診療を選択した患者は、健康保険が適用されない自由診療に対する費用を負担するだけではなく、診療項目が表3の追加費用算定規準に該当する場合、本来、保険診療の対象となっている医療行為についても追加の費用負担が必要となり、選択診療を選択していない患者に比べてより高い費用を負担しなければならない。上限額は一定の範囲内で医療機関の機関長が決めることになっており、病院の規模が大きくなるほど追加費用が高く、患者やその家族にとっては大きな経済的な負担になっている。そこで、韓国政府は混合診療の実施による患者の負担を減らす目的で「医療保険の3大非給付」に対する改善作業を実施することになった。その詳細は次節の通りである。
表3 追加費用算定基準
2選択診療制を含む医療保険の3大非給付の改善

現在、韓国政府は、患者の医療費負担を減らす目的で、医療保険が適用されない選択診療費、差額室料(上級病室料)10、看病費用11という「医療保険の3大非給付」に対する改善作業を推進している。3大非給付改善は、(1)患者負担の軽減を最優先とし、健康保険の財政水準等を考慮して段階的に推進する、(2)4大重症疾患12に限らず、すべての疾患に適用する、(3)医療機関の損失を全額補填し、医療サービスの質が向上されるように健康保険の給付体系を設計する、(4)ソウルを中心とする首都圏の大型病院に患者が集中する現象を防止するための制度改善を並行することを基本方向に設定している。

まず、最初に選択診療の改善内容について説明したい。韓国政府は選択診療費を段階的に縮小・廃止する目的で、患者が選択診療を選択したことにより健康保険が適用される診療費に追加的に支払う「追加費用算定基準」を2014年8月から既存の20~100%から15~50%に引き下げた(表4)。
表4 項目別追加費用算定基準の改正
 
7 上級総合病院は、上級総合病院の指定を希望する全国52の総合病院から申請を受けて、健康保険審査評価院の書類審査と保健福祉部等の現地調査、上級総合病院評価協議会の協議を経て選定される。指定有効期間は3年で、3年間は健康保険の診療報酬が30%加算(総合病院は25%が加算、病院は20%が加算)され支給される。2015年から2017年までに3年間適用される上級総合病院は43施設。
8 韓国における「総合病院」とは、医師、歯科医師、漢医師が患者に医療を提供する施設のことで、医療法の定義では、患者100人以上の入院施設を有するものとされている。
9 為替レート 1 ウォン=0.105 円(2015 年11月5日現在)。
10 医療保険適用の範囲外で患者に請求される病室の費用。
11 韓国では家族が患者を看病する独特の医療文化が残っている。家族が仕事等で患者の看病ができない場合には看病人を雇って患者の身の回りの世話をさせる。看病にかかる費用は医療保険が適用されず、患者やその家族には大きな負担になっている。
12 癌・心血管疾患・脳血管疾患・稀少難治疾患。
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生活研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

金 明中 (きむ みょんじゅん)

研究・専門分野
労働経済学、社会保障論、日・韓における社会政策や経済の比較分析

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
    独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職

    ・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
    ・2015年~  日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
    ・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
    ・2021年~ 専修大学非常勤講師
    ・2021年~ 日本大学非常勤講師
    ・2019年  労働政策研究会議準備委員会準備委員
           東アジア経済経営学会理事
    ・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
    ・2021年  第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員

    【加入団体等】
    ・日本経済学会
    ・日本労務学会
    ・社会政策学会
    ・日本労使関係研究協会
    ・東アジア経済経営学会
    ・現代韓国朝鮮学会
    ・韓国人事管理学会
    ・博士(慶應義塾大学、商学)

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