2015年12月18日

中国の経済構造改革とは何か~日本にとってはピンチだけでなくチャンスも!

三尾 幸吉郎

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1.2015年の経済概況(GDP)

(図表1)中国の実質成長率の推移 2015年の中国経済を振り返ると、1-9月期の経済成長率は実質で前年同期比6.9%増と2014年の同7.3%増から0.4ポイント低下、中国では経済成長率が緩やかに鈍化してきている(図表-1)。

2015年1-9月期の「6.9%」という成長率に関しては、もっと低いのでは?との見方もあって議論になっているが、開示された情報が限られる中では推測の域をでないと思われる。確かに言えることは中国経済に構造変化が起きていることで、筆者はそれを“ふたつの二極化”と表現している。
ひとつは第2次産業の伸び鈍化と第3次産業の堅調(伸び横ばい)という二極化である。中国では経済のサービス化が進行中で、3年ほど前から第3次産業の成長率が第2次産業を上回るようになってきているが、この7-9月期にはその傾向がより鮮明になった(図表-2)。第2次産業は人件費の上昇や人民元高の進行で競争力が低下してきており、今後も伸びの鈍化は避けられそうにない。一方、第3次産業にはまだ成長余地が多く残されており、最近でも8%前後の高い伸びを維持できている。中国政府の政策スタンスを見ても、第3次産業を第2次産業に代わる新たな経済成長・雇用創出の柱に育てようとしている。

もうひとつは投資の伸び鈍化と消費の堅調(伸び横ばい)という二極化である。これまで投資主導で経済成長を遂げてきた中国だが、消費主導へのエンジンの切り替えに挑戦中である。GDP統計を見ると、最終消費の寄与度が前年に続いて2015年1-9月期も小幅に上昇した一方、総資本形成(投資)の寄与度は急速に低下してきている(図表-3)。中国政府の政策スタンスを見ても、製造業の過剰投資(又は過剰設備)の解消を指導・推進するとともに、最低賃金の引き上げを通じた所得配分の調整を継続的に進めることで、投資主導から消費主導への構造転換を支援している。
 
(図表2)第2次産業と第3次産業の実質成長率/(図表3)需要別の寄与度

2.従来の成長モデルの限界

(図表4)中国の対内・対外直接投資の推移 従来の成長モデルの歴史を振り返って見ると、文化大革命を終えて改革開放に乗り出した中国は、まずは第1次産業(農業)の改革に着手、それが成功すると第2次産業(工業)の改革に乗り出した。外国資本の導入を積極化して工業生産を伸ばし、その輸出で外貨を稼いだ。稼いだ外貨は主に生産効率改善に資するインフラ整備に回され、中国は世界でも有数の生産環境を整えた。この優れた生産環境と安価な労働力を求めて、工場が世界から集まって中国は「世界の工場」と呼ばれるようになった。こうして高成長を遂げた中国だが、経済発展とともに賃金も上昇、また中国の通貨(人民元)が上昇したこともあって、賃金上昇と人民元高で中国の製造コストは急上昇した。そして、より安く生産できる製造拠点を求めて中国から後発新興国へと工場が流出し始めたことで、対内直接投資が伸び悩むとともに対外直接投資が急激に増えてきた(図表-4)。
 
従来の成長モデルが限界に達したことはGDP統計を見ても分かる。供給面から見ると、GDP全体に占める第2次産業の比率が諸外国と比べて極めて大きい一方、第3次産業の比率が小さい。第2次産業の中核を成す製造業に焦点を当てると、世界における製造業シェアは23.2%でGDPシェア(12.8%)より10.4ポイントも大きい(図表-5)。米国や欧州ではGDPシェアの方が大きいのと比べると対照的である。製造業シェアの方が大きくても製品を輸出できれば問題はない。日本も製造業シェアの方が1.0ポイント大きく、韓国は1.5ポイント、欧州の中でもドイツは1.6ポイント大きい(図表-6)。しかし、輸出できないようだと、国内では生産設備が過剰となって、設備稼働率が落ちて債務負担が重くのしかかり、雇用不安に陥ることになる。いわゆる過剰設備の問題である。従って、10ポイント超になった過大なギャップを、均衡点に向けていかにソフトランディングさせるのかが、中国の産業政策においては最大の課題となっている。
 
(図表5)GDPシェアと製造業シェア(2013年)/(図表6)製造業シェア-GDPシェア(2013年)
一方、需要面から見ると、GDP全体に占める投資(総固定資本形成)の比率が諸外国と比べて突出して大きく、2014年は44.0%となった(図表-7)。主要先進国(G7)の約2倍に達しており、経済発展が遅れたインドやインドネシアと比べても10ポイント以上高い。経済発展の初期段階では、先行的に投資を増やす場合が多いため、アジア諸国の中には過去に投資比率の高まりを経験した国が多い。1990年代のタイでは投資比率が4割前後で7年間、マレーシアでも5年間続いたことがあり、韓国でも1990年代に4割には達しなかったものの35%前後が8年間続いた。日本でも高度成長期にあった1970年前後には35%前後が6年間続いていた(図表-8)。しかし、その後の日本では、高度成長が終わるとともに投資比率も3割前後へ低下、1974年には石油危機も加わってマイナス成長に落ち込み、安定成長に移行した。韓国、タイ、マレーシアでも、アジア通貨危機でマイナス成長に落ち込んだ後、韓国の投資比率は3割前後へ低下、タイ・マレーシアでは2割台へ低下しており、前例をみれば中国の4割超も長続きしそうにない。また、石油危機やアジア通貨危機といった特殊事情があったとはいえ、4ヵ国全てで一時的ながらもマイナス成長に落ち込んだ。これがいわゆる過剰投資の問題である。
(図表7)世界の投資(総固定資本形成)の比率(2013年)/(図表8)アジア各国の投資比率の屈折
(図表9)日本のGDPシェア・製造業シェアの推移 それでは過剰設備(又は過剰投資)を解消する過程では何が起こるのだろうか。楽観と悲観のシナリオを描くことができる。楽観的に見ればGDPシェアが製造業シェアに鞘寄せする形で調整し、この場合は製造業の成長率は低下するものの第3次産業が牽引してGDPシェアが上昇する。悲観的に見れば製造業シェアがGDPシェアに鞘寄せする形で調整し、この場合は製造業の成長率が急激に低下して第3次産業だけでは支え切れず極めて低い成長率になる。

かつて日本では両者のギャップが拡大して1991-93年に約4ポイントでピークを付けた。その後このギャップは解消していくが、GDPシェアと製造業シェアがともに低下する結果となった(図表-9)。中国経済の発展段階はまだ低く、ここもと第3次産業が8%前後の高い伸びを維持していることから、悲観し過ぎてもいけないが、経済成長率を押し下げる大きな負のインパクトをもたらすことは間違いない。
 
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三尾 幸吉郎

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