2015年12月09日

米国経済の見通し-個人消費主導の底堅い成長が持続、政策金利引き上げの影響は限定的と予想。

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

文字サイズ

2.実体経済の動向

(個人消費)労働市場、消費に一段の回復余地

米国の雇用者数は増加基調が持続しているものの、労働参加率2は77年以来の水準に低迷しており、金融危機からの回復がみられていない(図表7)。さらに、就業率3についても働き盛りである25-54歳をはじめ危機前の水準に戻っていない。これらは人口対比で職が十分でなく、職探しを諦めて労働市場から退出した人の割合が依然として高いことを示しており、一段の雇用増加余地を示唆している。

一方、企業の採用計画は、大企業では足元で採用意欲が低下してきているものの、これまで採用に慎重だった中小企業の採用意欲は強くなっている(図表8)。このため、雇用回復の裾野は広がっており中小企業を中心に今後も雇用増加が期待できる。
(図表7)就業率および労働参加率/(図表8)大企業、中小企業の採用計画
次に可処分所得と消費支出(3ヵ月移動平均、3ヵ月前比)をみると、可処分所得の伸びに比べて消費が抑制されているため、足元で貯蓄率は金融危機前に比べて高止まりしている(図表9)。この間、消費者センチメントは高い水準を維持しているものの、回復が頭打ちとなっているため、消費者が消費にやや慎重になっている可能性を示している(図表10)。センチメントが足踏み状態となっている背景として、株式市場や雇用が夏場に一時的に悪化したことが影響している可能性が考えられる。もっとも、これらの悪材料は相当程度解消しているため、今後はセンチメント回復に伴う消費の拡大も期待される。
 
(図表9)実質可処分所得・消費支出、貯蓄率/(図表10)消費者センチメントおよび米株価指数
米国では11月から12月にかけての2ヵ月間で年間売上高の2割を占める重要なホリデシーズンを迎えている。全米小売業協会(NRF)は今年のホリデーセールの売上高が前年比+3.7%(前年+4.1%)と、昨年を若干下回るものの、堅調な伸びを見込んでいる。NRFは11月下旬の感謝祭後の売上は概ね予想通りとしており、ホリデーセールは順調な滑り出しとなっているようだ。
 
 
2 生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。
3 生産年齢人口に対する就業者数の比率。
(設備投資)3期連続で資源関連の建設投資が下押し、当面は緩やかな伸びに留まる

民間企業設備投資では、7-9月期の資源関連の建設投資が前期比年率▲47.1%と大幅に減少した。これだけで設備投資の伸びを▲2.4%ポイント押下げており、15年に入って3期連続で押下げ要因となっている(図表11)。資源関連の雇用者数は好調だった11月の雇用統計でも減少しており、厳しい状況が持続している。

実際、原油価格の下落基調が持続する中で、油田の稼働リグ数の減少に歯止めがかかっていない(図表12)。このため、10-12月期も資源関連の建設投資の減少は持続するとみられる。もっとも、16年以降は、原油価格の反発に伴い建設投資の減少には歯止めがかかる見通しである。
 
(図表11)民間設備投資(寄与度)/(図表12)原油価格と稼動リグ数
一方、資源関連以外に目を転じると、鉱工業生産指数(3ヵ月移動平均、3ヵ月前比)の伸びはプラス圏に戻っているものの、回復に力強さを欠いているほか、設備稼働率は低下基調が持続している(図表13)。さらに、設備投資の先行指標である国防・航空を除く資本財受注(3ヶ月移動平均、3ヶ月前比)も、15年前半にみられた大幅なマイナスからプラスに転じているものの、やはり力強さに欠けている(図表14)。このため、民間設備投資は当面緩やかな伸びに留まるとみられる。
 
(図表13)鉱工業生産指数および設備稼働率/(図表14)米国製造業の耐久財受注・出荷と設備投資
(図表15)住宅着工・許可件数と住宅投資 (住宅投資)住宅市場は利上げ開始後も回復の腰折れは回避

住宅市場は好調を維持しているものの、住宅着工・許可件数(3ヵ月移動平均、3ヵ月前比)は、15年春先からやや過熱気味となっていた反動で、足元のモメンタムは低下している(図表15)。

米国では利上げが開始されることもあり、住宅市場の回復ペースは鈍化するとみられる。もっとも、雇用不安が後退する中で、引上げペースも当面緩やかとみられることから、大幅な鈍化の可能性は低いと判断している。
建設業者のセンチメントを示す住宅市場指数は05年以来の高さとなっているが、とくに今後6ヶ月の新築住宅販売見込みは高くなっており、楽観的な販売見通しが示されている(図表16)。

また、住宅価格や金利水準を加味して住宅取得に必要な所得が実際の所得をどの程度上回っているかを示す住宅取得能力指数は160台で推移しており、足元の所得水準が必要な最低レベルを6割超上回っていることを示している(図表17)。さらに、住宅価格が今後1割上昇し、住宅ローン金利が1%ポイント上昇すると仮定して試算した同指数は130台と、1%の金利上昇後でも依然として最低レベルを3割上回るとみられる。このため、政策金利の引き上げ開始後も住宅市場が腰折れする可能性は低いと判断している。
 
(図表16)住宅市場指数(項目別)/(図表17)住宅取得能力指数
Xでシェアする Facebookでシェアする

経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【米国経済の見通し-個人消費主導の底堅い成長が持続、政策金利引き上げの影響は限定的と予想。】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

米国経済の見通し-個人消費主導の底堅い成長が持続、政策金利引き上げの影響は限定的と予想。のレポート Topへ