2015年12月09日

米国経済の見通し-個人消費主導の底堅い成長が持続、政策金利引き上げの影響は限定的と予想。

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.経済概況・見通し

(経済概況)7-9月期は成長率が低下したものの、個人消費主導の底堅い成長が持続

米国の7-9月期実質GDP成長率(以下、成長率)は前期比年率+2.1%に留まり、4-6月期の+3.9%から大幅に低下した。需要項目別にみると、労働市場の回復を背景に個人消費は+3.0%(前期:+3.6%)と底堅い伸びが持続したほか、住宅投資も同様に+7.3%(前期:+9.3%)と高い伸びとなった。一方、民間設備投資が+2.4%(前期:+4.1%)となったほか、政府支出も+1.7%(前期:+2.6)に留まり、前期から伸びが鈍化した。さらに、純輸出(輸出-輸入)の成長率寄与度が▲0.22%ポイント(前期:+0.18%ポイント)と前期からマイナスに転じたほか、在庫投資の成長率寄与度は▲0.59%ポイント(前期:+0.02%ポイン)と大幅なマイナス寄与となった。在庫投資と外需を除いた国内最終需要では+2.9%(前期:+3.7%)と前期からの低下幅は緩やかになっており、当期は在庫投資の落ち込みが成長率低下の主な要因となっている。

7-9月期は、中国経済の減速懸念が強まったこともあり、海外経済の減速等が米国の実体経済に与える影響が懸念されていた。9月のレポート1で指摘した通り、海外要因を嫌気して米国資本市場の不安定な状況が長期化する場合には実体経済に影響するとみていたが、当研究所の予想通り中国経済のハードランディングが回避されたほか、8月下旬に大幅下落した株式市場も安定を取り戻したことから、影響は限定的であった。米国では労働市場の回復を背景に、個人消費主導の底堅い成長が持続していると評価できる。
(図表2)米国の雇用動向(非農業部門雇用増と失業率) 実際、労働市場と消費の状況を確認すると、労働市場では非農業部門雇用者数の伸びが8月から2ヵ月連続で大幅に鈍化し懸念されたが、10月以降再び加速した(図表2)。この結果、年初来の月間平均増加数は21万人となり、99年以来の水準となった14年(26万人)からは低下しているものの、依然として20万人超の好調なペースが持続している。また、失業率についても11月は5.0%とFRBが目標とする4.9%に近づくなど、低下基調が持続している。
 
一方、消費は雇用不安の後退を背景に、自動車や住宅といった高額消費が好調である。自動車販売台数は、ガソリン価格の下落に伴う多目的スポーツ車(SUV)需要の高まりもあり、00年以来となる18百万台超となっている(図表3)。さらに、住宅販売件数も主力の中古住宅販売が07年以来となる500万件台半ばとなっているほか、新築住宅も08年以来の50万件近辺で推移している(図表4)。とくに中古住宅では需要の強さを反映して在庫水準も低下している。
 
(図表3)自動車販売台数と伸び率/(図表4)住宅販売件数(中古、新築)
 
1 Weeklyエコノミスト・レター(2015年9月9日)「米国経済の見通し-国内要因からは底堅い成長の持続を予想。懸念される海外経済動向と米資本市場への影響」http://www.nli-research.co.jp/report/econo_letter/2015/we150909us.html
(経済見通し)成長率は16年+2.6%、17年+2.5%を予想

10-12月期の成長率(前期比年率)は+2.8%への加速を見込んでいる(図表1、5)。10-12月期は在庫投資の大幅なマイナス寄与が緩和されるほか、雇用者増加ペースの再加速から個人消費や住宅投資の底堅い伸びが期待できる。この結果、15年通年の成長率(前年比)は+2.5%と14年(+2.4%)から小幅な加速となろう。

さて、16年以降の経済見通しだが、17年にかけても個人消費主導の成長が持続すると予想している。労働市場は、回復ペースが鈍化するものの、予測期間を通じて回復基調が持続するとみている。このため、個人消費は17年10-12月期に+2.5%まで鈍化するものの、今後も底堅い伸びが持続しよう。さらに、住宅市場についても政策金利の引き上げに伴い、回復ペースは鈍化するものの、利上げ幅が限定的とみられることから、腰折れの可能性は低いとみている。

一方、民間設備投資は、ドル高を背景に製造業を中心に設備投資の増加が見込み難いものの、15年の成長率を押下げてきた資源関連の建設投資については、原油価格の反転に伴い、マイナス寄与は緩やかに解消すると予想している。

外需は、ドル高や米国経済が相対的に好調な状況が暫く続くことから、16年前半はマイナス寄与が持続するものの、日本やユーロ圏の景気持ち直しや、ドル高の緩和に伴い年央以降はマイナス幅の縮小を予想している。

最後に政府支出は、基本的に景気に中立の状況が持続するとみられるが、17年以降は、来年の大統領選挙の結果によって大きく変わる可能性があるため、選挙結果が注目される。
 

物価は、当面上昇圧力が抑制された状況が持続しそうだ。当研究所では、これまで物価を押下げてきた原油価格は16年以降に緩やかな上昇基調に転じると予想しているが、17年末でも50ドル台半ばに留まるとみているため、原油価格上昇に伴う物価上昇圧力は限定的とみている。
 

一方、金融政策は12月に政策金利引き上げを開始した後、16年は3回(75bps)、17年は4回(100bps)の利上げを予想している。これは、前回の利上げ局面やFOMC参加者の予想を若干下回るペースである。物価が抑制される中で利上げペースは緩やかに留まろう。このため、政策金利引き上げによる米経済や新興国など海外経済に与える影響も限定的と予想している。
 

最後に長期金利は、政策金利が引き上げられることもあり、緩やかに上昇すると見込んでいる。もっとも、物価の上昇ペースは緩やかとなることから金利の上昇幅も限定となろう。
(図表5)米国経済の見通し
(図表6)大統領有力候補者の政治信条・スタンス 上記見通しに対するリスク要因としては、中国経済のハードランディングなど海外経済の減速が米経済に影響するリスクに加え、17年には米国で8年ぶりとなる政権交代が実現するため、新政権の政治リスクが挙げられる。

大統領候補者の政治信条・スタンスは民主党と共和党で大きく異なっている。On The Issues.orgは「個人の権利」から「防衛・外交」まで選挙の争点になりそうな20項目を挙げ、それぞれについて過去の発言や議員としての投票記録などから、各候補者の政治スタンスを評価している(図表6)。これをみるとオバマケア、富裕層に対する課税、自由貿易、軍備拡大などの重要項目をはじめ民主党、共和党候補者のスタンスが大きく異なっていることが分かる。

民主党から大統領が選出される場合には、自由貿易を除いて基本的に現政権との政策スタンスに違いはないとみられるものの、共和党から選出される場合には政策が大幅に変更される可能性が高い。このため、16年の大統領選挙が混戦となる場合には新政権の政策に対する予見性が低下することから、企業や消費者の意思決定に影響する可能性には注意したい。
 
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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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