2015年11月17日

2015~2017年度経済見通し(15年11月)

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

文字サイズ

1.2015年7-9月期は年率▲0.8%と2四半期連続のマイナス成長

2015年7-9月期の実質GDP(1次速報値)は、前期比▲0.2%(前期比年率▲0.8%)と2四半期連続のマイナス成長となった。4-6月期に大幅に減少した民間消費(前期比0.5%)、輸出(前期比2.6%)は増加に転じたが、設備投資の減少(前期比▲1.3%)が続いたこと、在庫調整の進展に伴い民間在庫が前期比・寄与度▲0.5%と成長率を大きく押し下げたことから、GDP全体では2四半期連続のマイナス成長となった。

実質GDP成長率への寄与度(前期比)は、国内需要が▲0.3%(うち民需▲0.3%、公需0.0%)、外需が0.1%であった。

7-9月期のGDP統計は日本経済が2015年度に入り足踏み状態が続いていることを再確認させるものとなった。ただし、4-6月期は民間在庫が成長率を前期比0.3%押し上げる中で年率▲0.7%のマイナス成長だったのに対し、7-9月期は在庫調整の進展に伴い民間在庫が成長率を前期比▲0.5%と大きく押し下げる中で年率▲0.8%のマイナス成長にとどまり、在庫を除いた最終需要は前期比で増加に転じた。成長率のマイナス幅はほとんど変わらないが、内容的には4-6月期よりも改善しているとの評価が可能だろう。
 
(景気は足踏み状態が続く)

日本経済は駆け込み需要の反動を主因として消費税率引き上げ後に急速に落ち込んだ後、反動の影響が和らぐ中でいったん持ち直しつつあったが、2015年度入り後は再び弱い動きとなっている。

景気との連動性が高い鉱工業生産は2015年4-6月期の前期比▲1.4%に続き、7-9月期も同▲1.2%と2四半期連続のマイナスとなった。現在、景気基準日付が確定している第15循環(2012年10-12月期に終了)までに、鉱工業生産と実質GDPが2四半期以上続けて前期比マイナスとなったことは6回あるが、東日本大震災を挟んだ特殊な期間(2010年10-12月期~2011年4-6月期)以外は全て事後的景気後退局面と認定されている。

ただし、過去の景気後退局面と比較すると生産、実質GDP、CI一致指数の落ち込み幅は小さい。また、企業収益が好調を維持していること、失業率が3%台前半の低水準で推移していることなどから、景気が完全に腰折れするという事態は今のところ回避されている。景気が10-12月期以降持ち直しに向かえば、消費税率が引き上げられた2014年度初めから2015年度半ばまでの約1年半は景気後退ではなく足踏み状態との評価が適当となるだろう。
 
鉱工業生産の業種別寄与度/景気動向指数・CI一致指数の推移

(個人消費の実態)

2015年7-9月期の民間消費は前期比0.5%と2四半期ぶりに増加したが、4-6月期の落ち込み(同▲0.6%)を取り戻すには至らなかった。個人消費は消費税率引き上げ後、低調な推移が続いているが、ここにきて個人消費の代表的な指標である「家計調査(総務省)」の消費支出が消費の実態を表していないのではないかとの指摘もみられる。

その際に引き合いに出されるのが、家計調査に比べて堅調に推移している商業動態統計の小売業販売額指数だが、同指数は金額ベースとなっており消費税率引き上げを含む物価上昇によって押し上げられていること、訪日外国人によるインバウンド需要が含まれること、サービス消費がほとんど含まれていないことなどには留意が必要だ。小売業販売額指数を消費者物価指数で実質化した上で、家計調査の消費水準指数(除く住居等)と比較すると、両指数とも駆け込み需要の反動で2014年4月に急速に落ち込んだ後、2014年夏場にかけて持ち直していたが、その後は一進一退を続けており、概ね似たような動きとなっている。

また、一部にはGDP速報の推計に用いられる家計調査が実態よりも弱い結果となっていることが、GDP統計の個人消費の過小推計につながっているとの見方もある。しかし、「消費財総供給」、「第3次産業活動指数の対個人サービス」(いずれも経済産業省)を加重平均して供給側の統計から試算した個人消費の動きを確認すると、四半期毎の動きに違いはあるものの、総じてみればGDP統計の個人消費とほぼ同様の動きとなっていることが分かる。消費増税後の個人消費は実態として低調に推移していると判断される。
 
家計調査と商業動態統計(実質、2012年=100)/個人消費の比較(GDP統計と供給側試算値)


(実質雇用者所得の改善が個人消費を下支え)

11/9に公表された「毎月勤労統計(厚生労働省)」の夏季賞与は前年比▲2.8%と期待外れに終わった。毎月勤労統計の夏季賞与の伸びはサンプル替えの影響で実態よりも低めに出ているとの指摘もあるが、全数調査でサンプル替えの影響がない500人以上の事業所でも前年比▲2.6%となっている。

そもそも、厚生労働省よりも早く発表される日本経済新聞社、日本経団連などのボーナス調査は大企業が中心となっているために、伸び率が高めに出る傾向がある。たとえば、2014年夏のボーナス調査では日本経団連が前年比7.19%、日本経済新聞社が同8.48%となっていたが、中小企業を多く含みカバレッジが広い毎月勤労統計の結果は前年比2.7%とこれらを大きく下回る伸びとなり、2014年冬も同様の結果であった。2015年夏のボーナス調査は2014年度の企業収益の増加率鈍化を反映し、日本経団連、日本経済新聞社の調査でも前年比2%台と2014年に比べて伸び率は大きく低下していた。賃金水準が相対的に低いパートタイム労働者、高齢者の割合が高まっていることもあり、今夏のボーナスは実態として弱かった可能性がある。

すでに発表されている日本経団連の調査では、2015年の年末賞与(第1回集計)は前年比3.13%となり第1回集計段階の金額では過去最高となっているが、伸び率は2014年の5%台から鈍化している。カバレッジが広い厚生労働省の毎月勤労統計では年末賞与も高い伸びは期待できないだろう。
 
調査毎に異なるバーナスの伸び/所定内給与の要因分解
 
実質雇用者所得の伸びはようやく水面上に 一方、2015年度の春闘で前年度を上回るベースアップが実現したことを反映し、所定内給与は着実に増加している。相対的に賃金水準が低いパートタイム労働者の割合が高まることにより労働者一人当たりの賃金水準が押し下げられる傾向は続いているが、一般労働者、パートタイム労働者それぞれの賃金上昇率が明確なプラスとなっているため、労働者一人当たりの所定内給与の伸びは2015年4~9月の平均で前年比0.3%と2014年度平均の同▲0.2%から着実に高まっている。

また、少子高齢化を背景とした企業の人手不足感の高まりもあって、労働市場は消費増税後も良好な状態を維持している。雇用者数(労働力調査ベース)は前年比1%弱の伸びを続けており、マクロベースの雇用者所得の押し上げに寄与している。さらに、原油価格下落に伴う物価上昇率の低下によって、家計が消費税率引き上げ後から苦しめられてきた物価高による実質所得の押し下げ圧力は緩和されている。

実質雇用者所得(一人当たり実質賃金×雇用者数)は円安による物価上昇を主因として消費税率引き上げ前に前年比マイナスとなった後、消費税率引き上げによって物価上昇率が大きく高まった2014年度入り後はマイナス幅が大きく拡大したが、所定内給与を中心とした名目賃金の上昇と物価上昇率の低下から2015年7-9月期には9四半期ぶりにプラスに転じた。先行きは実質ベースの雇用者所得の改善が個人消費を下支えすることが期待される。
Xでシェアする Facebookでシェアする

経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【2015~2017年度経済見通し(15年11月)】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

2015~2017年度経済見通し(15年11月)のレポート Topへ