コラム
2015年03月30日

約款の数字 1から1095まで-第2回 「2」について(告知義務違反による解除の除斥期間)

小林 雅史

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さて、第2回は、「2」について。

「2」は、告知義務違反による解除の「除斥期間」である「2年」である。

すなわち、保険契約締結の際、告知義務違反があると、本来保険契約は解除され、保険金や給付金などは支払われないが、2年を経過すれば、告知義務違反があっても保険契約は解除されない。

告知義務は、多数の人が保険料を拠出して相互に保障するという保険制度の大原則である加入者間の公平性(保険会社側からみれば、加入者個々人の死亡や入院などの保険事故発生の可能性に対応した保険の引き受け)を保つために設けられている。

具体的には、契約者または被保険者が、保険事故の発生に関する重要事項[保険会社が設定した、過去の傷病歴(傷病名や治療期間など)、現在の健康状態、現在の職業など]について、告知書や保険会社の指定した医師の質問に、事実をありのままに告げるべきことをいう。

保険会社は、この告知された内容にもとづいて、保険引き受けの可否を判断する。

契約者または被保険者が、故意または重大な過失により、事実を告知しなかった(不告知)場合や、事実と異なる告知をした(不実告知)場合は、告知義務違反となり、契約全体または特約などが解除され、保険金や給付金などを受け取ることができない。

告知は告知書への記載や、保険会社の指定した医師の質問に対する回答として行う必要があり、営業職員や代理店などに「実は2年前に胃潰瘍で手術した」と口頭で告げたとしても、保険会社に告知したことにはならない。

ただし、営業職員や代理店などが告知を妨げた(告知妨害)ときや、告知をしないことを勧めた(不告知教唆)ときなどは、保険会社は告知義務違反による解除を行うことができず、保険金や給付金などが支払われる

そもそも保険法においては、告知義務違反があった場合も、保険会社が知ってから1か月経過したときや、保険契約締結から5年を経過したときは、保険会社は保険契約を解除できないと規定されている。

損害保険の約款においては保険法の規定どおり「5年」であるが、生命保険の約款においては、除斥期間を「5年」から「2年」に短縮している(一部の損保会社が発売している医療保険などは「2年」としている)。

経緯としては、生命保険会社協会(現生命保険協会)が作成した「模範普通保険約款」(1911年10 月)では、当時の商法の規定どおり除斥期間を「5年」としていたが、「模範普通保険約款」草案(1927年8月)では、「3年」に短縮された

さらに、法務省の諮問に応じた生命保険協会の商法改正に関する意見書(1954年8月)の原案においては、当時の約款では除斥期間を「2年」または「3年」としており、「契約者保護のため又は立証問題、死亡率の観点より5年は長きに失する」として、生命保険については商法の規定も「3年」と改正するよう提言した

現在の生保会社の約款で除斥期間を「2年」としている趣旨も、同様に、「保険契約を長期にわたり不安定な状態に置くことが適切でないことと、告知義務違反があったとしても2年間保険事故が発生しなかった以上事故の発生率に影響を及ぼさなかったものと考えてよいということ」とされている。

なお、海外においては、米国ニューヨーク州では、契約締結後2年経過した場合、生命保険契約は不可争となり、たとえ告知義務違反があったとしても保険契約は有効であるとされている

一方英国では、告知義務違反があった場合、保険契約は解除となるが、日本のような除斥期間は設定されていない。また、フランスでは、告知義務違反があった場合、契約締結後何年経過していても、保険契約は無効となる。

ただ、英国、フランスとも、救済措置として、プロ・ラタ主義(たとえば軽微な告知義務違反の場合、正確な告知があった場合の保険会社の引受内容により、保険金を比例的に削減支払する制度)が採用されている



 
 1 「除斥期間」とは、権利関係をすみやかに確定させるため、一定の権利(この場合、保険会社側の告知義務違反による解除の権利)について、一定期間の経過により消滅させる期間を指す。
 2 2010年4月施行の保険法によって、告知義務に関する法律上の規定は大きく改正され、告知義務は「自発的申告義務」から「質問応答義務」となり、顧客は、重要事項のうち保険会社から告知を求められた事項のみ告知すればよいこととなった。また、上述のとおり、保険募集人による告知の妨害や不告知の教唆があった場合は、保険会社は解除できないとの規定が新設された。
 3  詳細については、小著「約款の平明化について−これまでの経緯と今後の方向性−」『ニッセイ基礎研所報』vol.58、2009年7月参照。
 4 生命保険協会『昭和生命保険資料第6巻 回復期』、保険研究所印刷部、1974年3月、298ページ。
 5 山下友信、米山高生編『保険法解説-生命保険・傷害疾病定額保険』、有斐閣、2010年4月、546ページ。
 6 ニューヨーク州法第3203条(a)項(3)、岩崎稜監訳、クロフォード、ビードルズ原著『法と生命保険契約』、生命保険文化研究所、1993年12月、531~537ページ。
 7 詳細については、小著「英国での消費者保険契約法制定動向」『生命保険経営』第80巻第1号、2012年1月参照。
 8 プロ・ラタ(pro-rate)とは、案分比例の意味のラテン語。
 9 わが国における保険法検討時にもプロ・ラタ主義の導入が検討されたが、消費者サイドからのルールが複雑でわかりにくいとの意見や、告知のインセンティブ低下(正直に告知したことにより保険に加入できないケースに比べ、告知義務違反によって加入し、保険事故発生時に判明しても場合によっては保険金が一部支払われるケースが発生することは不平等)を懸念する声などがあり、採用されなかった。
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(2015年03月30日「研究員の眼」)

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