2014年08月15日

英国の郵政事業体ロイヤルメールの上場-組織分離による上場実施と郵便局体制維持の両立-

松岡 博司

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■要旨

昨年10月、世界最古の郵政事業体である英国ロイヤルメールの株式が上場され、注目を集めた。

英国では2006年に郵便市場が完全自由化され、独占の地位を失い競争にさらされる一方で、ユニバーサルサービス提供の義務を負うロイヤルメールの経営をどのように維持・回復させるか、国民の支持を受ける郵便局ネットワークを如何に守るかが時の政府に突きつけられた難題となった。

労働党政権による独立委員会(フーパー委員会)への検討依頼(2007年)、委員会報告(2008年フーパーレポート)、郵便サービス法案の議会審議と廃案(2009年)、連立政権への政権交代(2010年)、連立政権による依頼を受けた更新版フーパーレポートの提出(2010年)、連立政権による郵便サービス法案の提出(2010年)、郵便サービス法の成立(2011年)という流れを経て、ロイヤルメールの上場に向けた条件が整った。

2012年4月、それまで郵便事業会社ロイヤルメールの子会社の立場でグループに組み込まれていた郵便局会社を、同じ持株会社傘下の兄弟会社としてロイヤルメールと並び立つ立場に置き換える郵政事業グループの組織再編が実施された。これにより郵便事業会社を上場しても、郵便局会社については政府出資100%を継続することが可能となった。

ロイヤルメールの株式は2013年10月15日に上場された。上場に先立って行われた政府保有株売出しへの応募が人気を集め、上場後の株価も高騰する等、ロイヤルメール株式の上場は成功を収めた(ただし、現在は初値近辺にまで株価は下落している)。

英国では郵便局会社を郵便事業会社の上場から切り離すことにより、収益事業化することは難しいが国民に親しまれた社会的公器である郵便局を守りつつ、郵便事業会社の上場を果たすことを可能とした。自由競争による最適化を重視するというイメージが強い英国において、このような措置が執られたことは興味深い。

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