コラム
2014年03月17日

“都市景観”というオリンピック・レガシーの創造-東京五輪2020の都市像(その3)

土堤内 昭雄

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近年の五輪開催にあたり重視されるのが、オリンピック・レガシーである。オリンピック・レガシーとは、五輪開催都市や開催国が長期にわたり継承・享受できるオリンピックの社会的・経済的・文化的恩恵のことだ。2020年東京五輪の立候補ファイルにも『ビジョン、レガシー及びコミュニケーション』という項目があり、『包括的な一連の物理的、社会的、環境的、国際的なオリンピック・レガシーの取組が、2020年大会の東京開催から生まれる』と記載されている。

64年のオリンピック当時、日本は高度経済成長の中にあり、当時建設された都市インフラはその後の日本の経済成長の基盤となった。2020年の五輪は64年大会のレガシーである既存施設を有効活用し、コンパクトな大会を目指している。前回の五輪から半世紀が経過して社会経済環境も大きく変化した今日、2020年五輪が新たに創造するオリンピック・レガシーとはどのようなものだろう。

物理的なレガシーとして新国立競技場が建設される。そのデザインを巡っては、建築家の間からもさまざまな評価があり、巨大なスケール感に対する批判もある。エッフェル塔も建設当初は賛否両論あったが、今ではパリの象徴にもなっているように、時間の経過とともに時代の評価がどう変わるか予測は難しい。いずれにしても“神宮の森”に相応しい新国立競技場になって欲しいものだ。

私は美しい都市景観も重要なオリンピック・レガシーのひとつだと思う。東京はじめ日本の都市景観がヨーロッパなどの都市に比べて醜悪な理由のひとつは、路上に立ち並ぶ無数の電柱と、クモの巣のように張り巡らされた空を横切る電線だろう。無電柱化率はロンドンやパリの100%、ニューヨークの83%に比べると、東京23区内の市街地等の幹線道路でも48%とかなり立ち遅れている*

さらに、一般の住宅地の生活道路に至ってはほとんど電線の地中化は進んでいない。先日、私の家の前の道路の電線が地中化され、景観は見違えるようにすっきりした。都心のビジネス街はもちろんだが、住宅地の生活道路の無電柱化が、いかに美しい街並みを形成するかを改めて実感した。

2020年大会ではオリンピック・レガシー委員会が創設され、物理的レガシーのほかに、スポーツ、教育、社会政策、環境などに関するレガシーの評価と助言をハードとソフトの両面から行うという。一方、レガシーの創造には市民参加が不可欠で、多様な価値観を有する人々が暮らす巨大都市・東京のオリンピック・レガシーとは何かを問う国民的議論が必要だ。2020年五輪のレガシーのひとつとして、日本の美しい都市景観の創造があったと将来世代から評価されることを期待したい。




 
* 国土交通省ホームページ<http://www.mlit.go.jp/road/road/traffic/chicyuka/genjo_01.htm
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(2014年03月17日「研究員の眼」)

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