コラム
2013年04月08日

“サクラサク”、“サクラチル”に込められた「想い」-通信技術の進歩とコミュニケーション

山田 善志夫

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昭和50年代後半までは、大学入試の合否連絡のひとつとして電報が使われていた。この「合格電報」は、昭和31年、早稲田大学で最初に登場し、その時の電文が「サクラサク」と「サクラチル」であった。それ以降、「合格電報」は全国の大学に広まり、各大学が創意工夫を凝らした、ユニークな電文が使われ始めた。

電文には、「エルムハマネク」(北海道大学合格)、「ツガルノユキフカシ」(弘前大学不合格)、「ボウソウノナミハハルオツゲ キミオマツ」(千葉大学合格)、「フユノノトナミタカシ サイキキス」(金沢大学不合格)、「ダイブツノメニナミダ サイキコウ」(奈良教育大学不合格)、「クジラシオフク」(高知大学合格)、「マリアホホエム」(長崎大学合格)等々、簡潔で味わい深く、心に残る名文が揃っている。金沢大学や奈良教育大学のように、不合格の電文の最後に、「サイキキス(再起期す)」や「サイキコウ(再起乞う)」等の励ましの言葉が添えられている「合格電報」も多い。

そもそも、「合格電報」は大学による正式な合否連絡ではなく、部活動の資金を捻出するために学生が始めたものだと言われている。合格、不合格にかかわらず、電文が心に残るのは、同じ大学入試を体験した先輩からのお祝いと励ましの「想い」が詰まっているからであろう。実は、私も不合格電報を受取った経験を持っている。私が受取った電報にも「再起を期せ」と書かれており、この言葉で、第二志望に行こうかどうか悩んでいた気持ちがふっ切れ、翌年の入試に再挑戦する意欲が沸き立ったことを、今でも鮮明に覚えている。

現在の合否発表は、大学のホームページへの掲載やメールでの連絡が主流となっている。間違いもあったと言われる「合格電報」に比べれば、圧倒的に正確かつ迅速である。一方で、インターネット等での合否発表は、無味乾燥で味気ないという言う声も聞かれる。多分、かつての「合格電報」に込められていた「想い」が感じられないからであろう。

日本郵便の年賀状の広告に「人の心が、年の初めに届く国」というキャッチコピーが使われている。人と人とのコミュニケーションの本質は心の中の「想い」を相手に届けることである。インターネットやスマートフォン、携帯電話等の普及により、コミュニケーションの手段や手法は大きく変化し、利便性や効率性も飛躍的に高まっている。通信技術の進歩や環境の変化に応じて、「想い」を相手にどう届けるかがますます重要になっているのではないだろうか。




 
*  NTT東日本ホームページより引用
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