コラム
2012年12月27日

軽減税率導入の目的は何か~欧州諸国 : 逆進性の緩和よりも、国民生活にとって最も必要で重要な財の負担を軽減~

社会研究部 土地・住宅政策室長 篠原 二三夫

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新政権が誕生し、補正予算の検討とともに税制調査会の設置などが進められている。消費増税については3党合意が守られ、粛々と増税に向けた詳細制度が構築されることとなる。自民党は2010年の参院選の時点から、消費増税に際しては複数税率で低所得者に配慮するとし、軽減税率の導入に前向きであった。公明党も消費税を8%に引き上げる時点で軽減税率を導入すべきとしていた。

学識経験者の間では、軽減税率の導入は、限定的であることと高所得者にも及ぶため、消費税の逆進性をいくぶん緩和するものの、その効果は少ないという指摘がある。また、所得は生涯でみるならば必ず消費されるため(遺産として残さない場合)、消費税は生涯所得に対する比例税であり逆進的にはならないとの見方などもある。

この点、筆者が、最近英国やイタリア、カナダを訪問した際に、0%税率や軽減税率の運用、あるいは給付制度を導入した目的を各国の財務省の担当者から聞いた結果は、実に意表を突かれるものであった。英国とイタリア財務省からの回答の趣旨は「0%税率や軽減税率を適用する財の基準は、国民生活にとって最も必要かつ重要な財であるかどうかによる」とのことである。こうした財について国民の負担を軽減するのが、0%税率や軽減税率の役割だという。同じ考え方により、非課税扱いが適用される場合もあるが、それらの措置に逆進性への配慮を重視するとの理由付けは得られなかった。

一般的な食料品や飲料水、書籍・新聞・雑誌、医療、福祉、公共交通、高価ではあるが国民生活の基盤である住宅などが、各国なりの事情によって0%税率や軽減税率の対象として取り扱われている。カナダではこうした観点から食料品の多くに0%税率が適用される一方で、逆進性を効果的に緩和するため、一定所得以下の世帯には、所得税からの給付制度が併せて運用されている。国民の重要資産である住宅への消費税の直接還付制度も運用され、住宅建設主や取得者の負担を軽減している。

新政権による今後の軽減税率や給付制度の構築にあたっては、逆進性の緩和だけにとらわれることなく、豊かな生活を維持し確保していくことを念頭に、最も必要で重要な財が何かという根本的な問いかけを広く国民に行い、適切な措置を講じていくことを期待したい。EU諸国やカナダなどでは、こうしたプロセスを通じ、国民の理解を得ながら政治的に困難な増税を実現してきた経緯がある。

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社会研究部   土地・住宅政策室長

篠原 二三夫 (しのはら ふみお)

研究・専門分野
土地・住宅政策、都市・地域計画、不動産市場

経歴
  • 【職歴】
     1975年 丸紅(株)入社
     1990年 (株)ニッセイ基礎研究所入社 都市開発部(99年より社会研究部門)
     2001年より現職

    【加入団体等】
     ・日本都市計画学会(1991年‐)           ・武蔵野NPOネットワーク役員
     ・日本不動産学会(1996年‐)            ・首都圏定期借地借家件推進機構会員
     ・日本テレワーク学会 顧問(2001年‐)
     ・市民まちづくり会議・むさしの 理事長(2005年4月‐)
     ・日米Urban Land Institute 国際会員(1999年‐)
     ・米国American Real Estate Finance and Economics Association国際会員(2000年‐)
     ・米国National Association of Real Estate Investment Trust国際会員(1999年‐)
     ・英国Association of Mortgage Intermediaries準国際会員待遇(2004年‐)
     ・米国American Planning Association国際会員(2004年‐)
     ・米国Pension Real Estate Association正会員(2005年‐)

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