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- J-REIT制度改正への期待~規制の虜にならないガバナンスの重要性~
今年3月より、J-REIT(不動産投資信託)市場の課題を幅広く取り上げて議論し、投信法改正に向けて検討を進めてきた金融審議会の「投資信託・投資法人法制の見直しに関するワーキング・グループ(WG)」が、7月に中間論点整理を公表した。中間報告書は、(1)資金調達手段の多様化を含めた財務基盤の安定性の向上、(2)投資家からより信頼されるための運営や取引の透明性の確保を骨子に、(1)については、ライツ・オファリング(投資主割当増資)や無償減資、自己投資口取得の導入、(2)については、鑑定評価額の算出根拠に係る情報開示やインサイダー取引規制の適用などの対応方針を明らかにしている。今後は、9月に再開するWGで細部にわたる具体的な議論を行い、年内に最終報告をとりまとめる予定だ。
今回の改正案ではいずれの論点も、投資家利益保護の充実と海外REIT制度とのイーコール・フッティング(同一の競争条件)を意図した内容となっている。例えば、J-REITの増資は、現状、公募増資か第三者割当増資に限定されているが、ライツ・オファリングは、時価よりも低い価格で株式を購入できる権利を既存投資家に無償で割当て、投資家の権利行使により新株を発行する制度である。2008年の金融危機では、資金調達に窮したJ-REIT1社が経営破綻し多数の個人投資家が損失を蒙ったが、資金調達手段の広がりにより、資金繰りの問題から破綻するリスクは相当程度低下することになる。また、同制度が欧州・アジア市場で既存投資家の持分希薄化を回避する増資手法として定着しているように、これまで問題視されてきた希薄化増資への牽制効果も期待できそうだ。
一方、J-REITのガバナンスのあり方については、運用上の規制緩和にあわせて市場の規律を高める不断の取り組みが求められる。「規制の虜」とは、福島原発事故を検証する国会事故調査委員会が「事故の根源的原因」と指摘し注目を集めた言葉で、「規制する側」が専門知識や情報量に劣ることで「規制される側」に取り込まれることを意味する。こうした情報の非対称性から双方の立場が逆転し、監視・監督機能がうまく働かない構図は、規制官庁と事業者の関係だけに限らない。資産運用においても、お金を提供する「委託者」とお金を運用する「受託者」の間で生じうる光景である。AIJ投資顧問による年金資産消失事件は、委託者が受託者の提示する架空の高利回りや巧みな弁舌、あるいは接待の虜となり、委託者としての注意を怠り被害を受けたケースと言えるかもしれない。
J-REITは、不動産運用に関する専門性とあらゆる情報、裁量を有する資産運用会社に対して、投資家によるガバナンスのコストを抑えた簡素な仕組みである。それゆえ、資産運用会社は投資家への説明責任や情報開示などの受託者責任が課せられているが、投資家サイドにも、運用者に対する敬意と信頼を前提に、規制の虜にならない厳しい監視姿勢が求められる。そして、市場の持続的発展のためには、運用の失敗や利益相反行為を想定外とせず、投資家利益保護に向けた一段の環境整備が大切になると思われる。
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