コラム
2012年04月25日

介護の社会化 ― いまさら思う、もう一つの意味

阿部 崇

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2012年度が始まって早1ヵ月が経過しようとしている。介護保険制度は4月から新しい制度と報酬で運営され、連休明けには、新報酬での介護報酬算定が控えている。サービスの提供時間区分が変更され、施設では介護職による医療対応が行われ、介護職員の処遇改善の原資が介護報酬として算定されることになるが、審議会や厚生労働省が“想定した”ように現場ではトラブルなくケア提供・事業運営が行われているのであろうか。

一方で、積み残された(先送りした)課題はあるものの、6年ごとの制度改正、3年ごとの報酬改定を終えた介護保険制度の議論は、ある意味落ち着く時期といえる。期限内に答えを導かなければならないものが当面ないこの時期、かつて議論された「2015年の高齢者介護」が描いた世界が3年後に実現されそうかどうか、といった関係者達の振り返りの機会が設けられることを望む。

さて、振り返りが許されるこのタイミングで、本稿では「介護の社会化」という馴染みのフレーズに着目したい。

介護の社会化とは、介護保険制度創設期において、“家庭内・家族が担ってきた”介護を、広く社会共通の課題として認識し、実際の介護(ケア)を担う社会資源(サービス)を、税と保険料を中心に拠出された財源によって、“社会全体が担っていく”ものと説明された。2000年のスタートから12年を経て、この意味での「介護の社会化」は一定程度進んだのではないかと感じる。ただ、昨年度の社会保障審議会(介護保険部会・介護給付費分科会)や社会保障と税の一体改革の資料や事務局説明、議論の進み方などを改めて違う角度から眺めると、「介護の社会化」のもう一つの顔、むしろ“本当の顔”が見えてくる。

介護保険制度は、医療保険制度が担っていた老人医療の一部と行政措置として行われていた老人福祉の一部が社会保険制度として再編されたものである。訪問看護や通所リハビリテーション、介護老人保健施設などは前者、訪問介護(ホームヘルプサービス)、通所介護(デイサービス)、介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)などは後者に含まれる。これらは2000年度予算において11ヶ月分の費用(介護保険給付費はサービス提供月の翌月に算定・給付されるため)として想定された3.6兆円規模であったが、それ自体が社会一般に認識されてはこなかった。

しかし、2000年以降は、毎年のように“介護費用が年間○兆円に”や“医療保険の何分の1規模に成長”、といった見出しが躍るようになった。先の審議会等の資料には、右肩上がりの棒グラフが何度となく登場し、介護保険給付を通じて介護費用を抑えなければならない、という暗黙の議論の出発点が設定されていたように感じる。

つまり、「介護の社会化」とは、ケア、サービス、時間等の“介護そのもの”を、家族固有の問題から社会全体の課題として共有する、という意味より、むしろ、高齢者介護に“どのくらいの費用がかかっているのか”を可視化する「介護費用の社会化」という、もう一つの意味が重要だったのかと今更ながらに考える。

もっとも、可視化は“費用をコントロール可能なものにする”ことであって、何も抑制していくことだけではない。世界に類をみないスピードで高齢化が進む日本が、高齢者介護について前向き(高福祉の方向)、かつ、現実的に対応していくために必要な金銭的な把握を可能にするものである。残念ながら今は、介護費用抑制の材料として使われることが多いのだが。

繰り返しになるが、ある意味、施策・制度運営が落ち着いたこの時期、かつて説明された「介護の社会化」の原点に今一度真摯に向き合い、根っこから論じるべきではないだろうか。せっかく“もう一つの”介護の社会化によって把握できた介護費用を踏まえられるのであるから、より現実路線の選択肢によって高齢者介護を社会全体で支える「介護の社会化」の議論ができるはずである。
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