2011年09月26日

BOPビジネスとイノベーション

常務取締役理事 神座 保彦

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BOP(Bottom of the Pyramid あるいはBase of the Pyramid)ビジネスに対する認知は日本でも進みつつあるようだ。かつて、C.K.プラハラード博士の著書「The Fortune at the Bottom of the Pyramid」(2004)が邦訳されて「ネクスト・マーケット-「貧困層」を「顧客」に変える次世代ビジネス戦略」(2005)としてBOPビジネスの可能性が日本に紹介された際には、多くの日本人ビジネスマンの注目を集めた。もし、世界人口を年間所得3,000ドルのところで線を引き、それ以下の層としてBOPを捉えれば、全人口の約7割にも相当する圧倒的多数派として浮上する。また、その潜在的な市場規模は5兆ドルともいわれ、ここには新たなビジネスの機会が見出せる可能性が秘められている。
海外では、いくつかBOPビジネスの先行事例が報告されている。欧州の大手食品会社がバングラデシュでヨーグルトを販売するなどは知られた例だ。ちなみに、この企業は日本の乳酸菌飲料会社と合弁会社をインドに作り、乳酸菌飲料を販売するといったことも試みている。また、欧州大手家電メーカーは、電力の供給が不十分な地域で使える家電製品の供給を試みている。太陽光パネルとLED照明を組合せ、日中に太陽光で充電しておけば数時間は使える照明器具といったものが典型例である。
これらは財務基盤が堅固で短期的な事業収支にこだわる必要のない大企業におけるBOPビジネスの例だが、そこには自社ビジネス拡大に向けた中長期的観点からの新市場創造、また、その過程を通じた新顧客層の生活水準向上への貢献という構図が見える。
その一方で、ベンチャー企業によるBOPビジネスの例も出ている。栄養失調に苦しむ子どもたちに向けて栄養失調治療食を供給する企業、トイレのインフラが未整備の地域向けに低価格の使い捨てトイレを供給し、しかも、使用済みトイレは肥料として利用できる仕組みも用意する企業といった具合だ。これらベンチャー企業での特色は、社会問題解決・社会貢献を第一の目的として考え、BOPビジネスを行っている色彩が強いことだ。その意味で、これら企業は「ソーシャル・ベンチャー」の範疇に入る。そこでは、ビジネスモデルの中に社会問題の解決のスキームが組み込まれているので、利益の追求と社会貢献成果の追求とが同時に行われている。
BOPの領域でのビジネスや社会貢献で成果を出すには、営利企業はもとより、社会貢献を第一の目標に掲げるソーシャル・ベンチャーにおいても、既存市場での成功体験や経験則のもたらす常識に囚われない新発想が必要とされよう。やはり、この場面では既存路線の延長線上から離れた形で、ビジネスモデルや社会貢献モデルの組み立てを可能とするイノベーションの創出が待望されるところだ。
まだBOPの領域にはビジネスにせよ、社会貢献にせよ、困難だがイノベーション創出へのチャレンジに値する機会が多く残され、その成果を待ち望む多くの人々が存在している。

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神座 保彦 (じんざ やすひこ)

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