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日本の株式新規公開(Initial Public Offering:以下IPO)は依然不振から抜け出せない。2000年以降の新規公開株ブームといわれた時期には毎年100社以上のIPOが続いたが、2006年のライブドアショックを境に様相は一変し、2009年度のIPOは19社まで落ち込んだ。新興市場から投資家の資金が流出する中で、東証マザーズ指数は2006年の高値から約3年間で概ね十分の一となった。
新興市場では、ビジネス上での失敗に起因する株価下落のみならず、社会的に問題のある企業行動が露呈した結果の株価急落・市場からの退出が目に付く。足許の半導体製造装置メーカーFOIのケースに至っては公開前の決算で粉飾を行っており、それを隠したまま公開し、上場から7ヶ月で上場廃止した。
投資家は、ビジネスでの成功や失敗のリスクを取って株式投資に臨むとしても、企業が一般市民や投資家を欺くという倫理的な側面に関して極端なリスクを取っている意識は希薄だったと思われる。やはり、実際に企業の反社会的行動を見せられると他の既上場企業までも一括りで印象悪化し、また、そのような行動を取る企業を審査し公開させた新興市場そのものの印象も悪化することとなった。
新興市場は、日本にイノベーションをもたらす可能性のある若い企業に資金調達の道を拓き、世の中に送り出す装置である。また、IPOは創業者やそれまで経営支援してきたベンチャーキャピタル(以下VC)がキャピタルゲインを手にする機会でもある。
新興市場あるいはIPOの不振は、ベンチャー企業経営の活力を弱める。不祥事を起こす企業が出たことで新興市場の上場審査は厳しくなり、準備には手間もコストも以前よりも余分にかかる。そのうえ、IPOできても、人気が離散した市場では期待したような株価がつかず、キャピタルゲインも地味になるとなれば元気も出てこない。イノベーション創出に向けての現場の活力減退は日本の国力にとっての脅威だ。
加えて、新興市場あるいはIPOの不振は、VCのイノベーション創出支援機能を弱める。日本のVCはIPOで資金回収するのが一般的であるが、新興市場不振は投資採算を悪化させ、新規ファンド募集不振につながり、結局、資金を必要とするベンチャー企業に資金が行き渡らなくなる。VCも投資が減ればイノベーション創出に向けての経営支援活動が鈍ってくる。
新興市場の建て直しに向けて市場の統合など市場関係者の努力は続く。日本のイノベーション創出に空白期間を作らぬよう必死の動きだ。望むらくは、新興市場不振にはマクロ的な要素も絡むことから、市場関係者任せにせぬ幅広な戦略パッケージの策定と実行である。
常務取締役理事
神座 保彦 (じんざ やすひこ)
研究・専門分野
ソーシャルベンチャー、ソーシャルアントレプレナー
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