コラム
2010年09月06日

助け合いはお金から!-相互扶助と資金循環のしくみづくりを考える

柄田 明美

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先日、沖縄の友人宅で夏休みを過ごしてきた。沖縄では、豊年祭や海神祭など数多くの伝統的な祭事が行われ、町内会・自治会でも折にふれて集まりが開催されているが、沖縄のコミュニティを語る際、忘れてはならないのが「模合(もあい)」であるという。

「模合」とは、信頼関係を基盤とした金銭的な相互扶助システムのことで、「無尽(むじん)」あるいは「頼母子講(たのもしこう)」とほぼ同じ意味を持つ。

「無尽」は鎌倉時代に始まり、江戸時代に大流行したと言われる。地域コミュニティの顔が見える範囲内でのものから、一つのアソシエイション(特定の関心や目的を持つ人々がそれらを達成するために意識的に形成する集団のこと)のメンバーによるものまで幅広く、江戸時代以降には、民間の金融手段として大規模な事業者も生まれた。これら無尽業者の多くが、明治以降の金融制度改革の中で、無尽会社、相互銀行へという変遷を経ていることは、ご存知の方も多いだろう。

近年、地方銀行や信用金庫などの地域密着型の金融機関では、地域経済の活性化、環境保護・保全、子育て支援などへの寄付を盛り込んだ定期預金商品の販売を積極的に行っている。こうした商品は、使用目的が明確でかつ寄付内容にも特徴のあるものが多い。

一つユニークなものを紹介すると、広島銀行では、新広島市民球場の建設資金に支援をするため、平成19年に「新球場建設寄付金付き定期預金 Hiroshima's Dream」を販売した。この「Hiroshima's Dream」は、新球場オープン後も市民からの支持が高く、「<ひろぎん>カープを応援しよう!定期預金(愛称:Hiroshima's Dream)」として今年も販売が行われている。商品の内容をみると、寄付を謳いつつも、その一方、今シーズンの広島東洋カープ主催ゲームでの観客動員数の前年対比増加率、および広島東洋カープの成績により、最大で年利0.3%の金利を上乗せする商品となっており、カープの活躍による地域社会の盛り上がり・活性化を目指したユニークなものである。

その他の寄付金付き商品をみても、店頭表示利率に上乗せし、定期預金の満期時に受取利息のうち数パーセントを寄付するしくみが多く、寄付への賛同のみならず、この「上乗せ」が商品購入の大きなインセンティブになっている。

こうした寄付つきの定期預金商品は、継続して販売されているものが多く、一時的なブームとしてではなく、継続的かつ発展的な取組みにしていこうとする金融機関の意思とともに、「お金」を通じて地域の資源の維持や未来に関与していこうと考える住民の意思もうかがえる。

今、地域には、まちづくり、教育、高齢者や子どもの見守り、環境保全など多様な分野で役割を発揮することが求められている。しかし、地域課題の解決は、活動者の熱意と善意だけでは継続できない。地域の中で、課題の解決に必要な資金循環のしくみを作っていくことが、地域を支えるためには不可欠だ。お金は大切なのである。

そうした視点からみると、こうした地域密着型の金融機関の取り組みは、かつて相互扶助を事業の始まりとした組織のまさに本業であり、社会的な意義と効果の大きいものであるといえよう。

ところで、現代の沖縄の模合は、金融制度とは別の方向で独自の広がりを見せており、小口金融を通じた相互扶助もさることながら、メンバーが定期的に親交を深めるための積み立て式、あるいは会費制のしくみとなっているようだ。琉球新報には「ザ・モアイ(模合)」という連載欄がある。模合を行っているグループを紹介する記事なのだが、その内容をみると、学校の同級生で、あるいはクラブの仲間で、あるいは職場のOBでとその形態は自由なものになっている。また、お金が親交をつなぐ媒介になっているが、それをどう使うかはバリエーションも豊富である。

実は、ボランティア活動の行動者率(平成17年「国勢調査」)をみると、最も行動者率が低いのは沖縄県である。ボランティア活動という形をとらずとも、普通の近所づきあいによる相互扶助が地域コミュニティを支えているという前向きな一面があるのかもしれない。
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