コラム
2010年04月01日

逆バリの人材採用

金融研究部 主席研究員 チーフ株式ストラテジスト 井出 真吾

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先日、ある会社の社長が言っていた。「うちみたいな小さな会社に、こんなに優秀な人材がたくさん来てくれるものかと驚いている」。多くの企業が採用を抑制しているため、それまであまり見向きされなかった同社に就職を望む人が増えたというのだ。

3月30日に総務省が発表した2月の雇用統計によると、完全失業率(季節調整値)は4.9%と前月に比べて横ばい、厚生労働省がまとめた2月の有効求人倍率(同)は同0.01ポイント上昇の0.47倍と、最悪期(それぞれ昨年7月の5.6%、同8月の0.42倍)より改善したものの、依然として厳しい状況が続いている。また、今春卒業予定の大学生の就職内定率は80.0%で前年同期を6.3ポイント下回った(2月1日時点、厚生労働省・文部科学省調べ)。実に、大学生の5人に1人(推計人数は8万人強)が、卒業を目前に控えてもなお就職先が決まっていない計算になる。無論、企業側もいたずらに採用を抑制している訳ではなく、今後の事業戦略や業務の効率化など区々の考えがあって採用数を調整しているのだろうが、それでも全体的に見れば足元の景気が悪いから抑え気味になっている面もあろう。

ところで、株式投資の用語に「逆バリ・順バリ」というものがある。逆バリとは、株価が下がっているときに買い、上がってきたら売る手法のことで、順バリはその反対の手法だ。一般に、短期投資(投機?)には順バリが、中長期投資には逆バリが有効とされる。米国の著名な投資家であるウォーレン・バフェット氏は、2001年の米同時多発テロの直後、急落した株式を大量に買い、後に大きな利益を得たそうだ。まさに逆バリである。

冒頭に紹介した社長だが、実は株式投資のプロで、運用成績がすこぶる良い。大企業の採用抑制という絶好のチャンスが到来したとみて、ここ最近、積極的に人材を確保しているそうだ。人材確保と株式投資を一緒にするのは無理があるかも知れないが、中長期的なビジョンで意思決定する面では共通点もあるのだろう。就職人気ランキング上位などの企業は別として、成長戦略を持ちながら人材確保に苦労している企業にとっては、逆バリの人材採用戦略が有効かもしれない。
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井出 真吾 (いで しんご)

研究・専門分野
株式市場・株式投資・マクロ経済・資産形成

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