コラム
2010年03月19日

オフィス市場、我慢の年にすべきこと

松村 徹

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弊社が行った最新の将来予測では、東京都心3区の大規模ビルの新規契約賃料は、2010年半ばに底を打って2011年には穏やかに上昇する。都心の大規模ビルに限るとはいえ、2008年から大幅に下落している賃料のボトムラインが見えたことは、ビル事業者や投資家にとって久しぶりの明るいニュースかもしれない。

もっとも、下落した新規賃料に対して既存テナントの継続賃料が高止まりしているため、契約更新時の減額改定の動きは当分続き、キャッシュフローの減少が止まる時期はやや遅れるとみられる。いずれにしても、ビル事業者やオフィス系J-REIT運用者にとって、少なくとも2010年は「我慢の年」ということになるが、景気の回復を座して待つのではなく、むしろ次の成長局面を見据えた布石を打つ好機と捉えるべきだろう。

改正省エネ法や都条例によるビルの環境規制強化、テナント企業側の情報リテラシーの向上、オフィス需要の景気感応度の高まりやワークスタイル多様化の動き、また東京一極集中と地方経済の長期低迷トレンドなど、ビル事業を取り巻く環境はゆっくりだが確実に変化してきている。長期的に需要の拡大が望めない中、これまでのように景気循環に追随していくだけでは、いずれ時代に取り残されてしまう可能性が高いであろう。

すでに、不動産・建設業界では、新たな成長の種となりそうな意欲的な取り組みが見られる。たとえば、新しい内装によりオフィス内での省エネと生産性向上を目指す実験、発電時にCO2を発生しないグリーン電力の購入、大幅なCO2削減が可能な小型ビルの提案、分譲マンションで培ったブランド戦略のビルへの応用、企業のグループ力や運用アセットの厚みを活かしたリーシング活動などである。

今後は、ファンドブームで短期志向が強まり過ぎた反省から、テナントとの安定的で良好な関係を再構築する動きも増えてくるであろう。また、リサイクルやCO2削減のトレンドもあり、ファンドブームの過熱で脇に追いやられた老朽ビルのリノベーションやコンバージョン(用途転換)・ビジネスの復活もありそうだ。さらに、恒常的に抱えている空室を無料の会議室などテナント向け利便施設に転用する動き、一部高級マンションや大型物流施設で見られる特定顧客のニーズを取り入れた建築・設備仕様を持つBTS(ビルド・トゥ・スーツ)型ビル、賃料は安いが基本性能は落とさないユニクロ型ビル、あるいはアジアからのビジネスマン専用の賃貸マンションを併設したビルなどが登場する可能性もあるだろう。

もちろん、このような新しい取り組みを評価する投資家や、資金面でバックアップする金融機関の存在も不可欠である。特に、さまざまなリスクを言い募って不動産関連のファイナンスに対して判断の先送りや静観を決め込む「レンダー」ではなく、ボトムラインが見えた今こそ、こういった未来に投資する企業を評価して融資を行う、真の「バンカー」の登場に期待したい。


(注)不動産経済研究所『不動産経済ファンドレビュー』2010年3月15日号に寄稿した内容を加筆修正したものです。
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