コラム
2009年11月25日

人口減少問題に対する「日本の奇跡」への願い

竹内 一雅

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自宅近くに小さな喫茶店があり、この店には、毎日のように多くの若者が集まり、サークルの話や、試験・レポート対策、女の子たちの恋話(コイバナ)など、歓声や笑い声が閉店の夜11時まで絶えることがありませんでした。その活気ある喫茶店が、十年後の今、お客さんの主体は若者からお年寄りに代わり、夜にお客さんはほとんど来ないため、店主は閉店時間を9時前にしようかと悩み、現在の収入減から10年後にはどうなるのだろうかと心配しています。これまで日本の多くの都市で起きてきたことが、現在もマンションが次々に建つ、東京の住宅地でも見られるようになりました。

人口減少や少子高齢化は、全く怖くはない、それどころかより幸福な社会になるという意見があります。確かに、将来の一時点をとると、需要が供給を上回るため、例えば若者の失業はなくなり、富を分配する人数が減少するので、そのような意見が出るのでしょう。ただ、そうした社会に到達するまでに、様々な問題が出てくるように思えます。現在、30歳代半ばとなった団塊ジュニア世代と比べ、その10歳下の世代は人口が25%少なく、20歳下の世代は40%少ないのです。簡単な推計をしてみると、2005年に比べ2030年の消費支出の総額は7%程度の減少にすぎませんでしたが、40歳未満の世帯では全体で34%の大幅な減少が予測されました。不動産で言えば、住宅需要の減少にともなう住宅着工戸数の減少、空家の増加、人の住まない住宅や使われなくなった(特に若者向け)施設の増加、人通りの少ない歯抜け商店街のいっそうの増加などが見られるようになると思われます。同時に、需要の減少に伴う売上高や利益の減少、特に大企業との生き残り競争の激化による倒産の増加なども、日常のことになるのではないかと思うのです。

現在、人口の減少や、高齢社会に向けた対策が様々なところで考えられ、実施に移され始めています。年金問題や介護問題、高齢者雇用問題など、眼前の問題への対策は喫緊の課題です。しかし、人口減少自体を、克服すべき最大の問題として解決しようという意志や行動に、いまひとつ力強さが足りないように見えるのです。人口減少は日本の活力を減退させる可能性が高いのではないでしょうか。子どもや青年人口が増えれば、経済面での需要の増加や将来の生産力の拡大というだけでなく、日本の活力を取り戻し、将来の可能性を創造することにつながるようにわたしには思えます。今回、民主党のマニフェストに沿い、平成22年度からの「子ども手当」の導入や高校教育の実質無償化等の実施に向けた「子ども・子育てビジョン(仮称)」(新たな少子化社会対策大綱)の策定が進められていますが、より広く、より強く、国民全体で取り組む動きになってもいいのではないかと感じます。

団塊ジュニア世代が30歳代の後半に入ってしまいました。人口増加策を本気で取り組んだとしても、すでに施策としては遅すぎるかもしれません。でも、まだ間に合います。あと5年後、団塊ジュニア層が40歳代に入ってしまっては、その効果はさらに大きく減じられてしまいます。今すぐに、30歳代後半や40歳代でも、あるいは単身者やひとり親であっても安心して子どもを生み、育てられる社会を作ることはできないでしょうか。人口の減少や高齢社会の到来は20年以上前から明確に分かっていたことです。日本は、ただ、手をこまぬいて人口減少と高齢社会を到来させてしまいました。生活習慣病を放置してきたようなこの症状は、海外からは「日本病」とでも呼ばれるのではないでしょうか。

近い将来、同様の人口減少や高齢化は、韓国や中国などでも大きな問題となります。そのときに、当面の対策に追われただけの「日本病」になるなと他山の石とされるのか、政治・経済・社会をあげての必死の対応により出生率を上昇させ、それまで以上の活力をとりもどした「日本の奇跡」として尊敬されるのか。できれば後者であって欲しいと願うのです。
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竹内 一雅

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