コラム
2008年05月07日

デフレ脱却宣言はなぜ出ない?

櫨(はじ) 浩一

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1.上昇する物価

4月末に発表された3月の全国の消費者物価指数では、もっとも注目される「生鮮食品を除く総合」で前年同月比1.2%の上昇となった。

これまでの物価上昇は、原油価格の高騰を背景とした石油製品の値上がりによるものだったため、原油価格の先行き次第では消費者物価の上昇率は再びマイナスになりかねない状況だった。しかし、状況が変りつつあることを示す動きが随所にみられるようになった。依然として消費者物価上昇率のほとんどは石油製品や食料品の値上がりによるものだが、3月の結果では、それ以外の部分にも価格上昇の動きが広がっていることが明確になった。

同時に発表された4月の東京都の消費者物価では、上昇率が3月の0.6%から0.7%へと高まった。ガソリン税(揮発油税)の暫定税率期限切れによる影響で、石油製品の価格が下落したものの、それ以外の部分での価格上昇が加速したためである。

東京都の石油製品のウエイトは全国に比べて小さく、寄与度の変化は約0.2%ポイントの下落であった。これに対して全国では0.4%ポイント程度下落すると見られるので、4月の全国の消費者物価指数では上昇率は3月を下回ることになるだろう。しかしそれでも消費者物価の上昇率は1%程度の水準が続くことになると見込まれる。暫定税率が復活したので、この調子でいけば5月の消費者物価上昇率は1%台の半ばというかなり高いものになる可能性が高い。

こうした状況にも関わらず、依然として政府はデフレ脱却宣言をしない。2002年の「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2002」(いわゆる「骨太の方針」)では、デフレからの脱却を最重要課題と呼んでいた。消費者物価がここまで上昇すれば、そろそろデフレ脱却宣言をしても良さそうなものである。

2.下落するGDPデフレーター

消費者物価や企業物価は上昇しているものの、GDPの物価指数であるGDPデフレーターは、2007年10-12月期は前年同期比▲1.3%の下落と、7-9月期の▲0.6%よりもマイナス幅が拡大している。08年1-3月期も前年比のマイナス幅がさらに拡大する可能性が高い。

GDPデフレーターは、もともと消費者物価指数や企業物価指数に比べて上昇率が低くなる性質がある。また、消費者物価指数などと違って、GDPデフレーターは海外からの輸入品の価格変動を除去して、国内の要因で起こった(ホームメードの)物価変動だけを計算している。このため最近のように、原油価格高騰で国内のガソリン価格が上昇しているというような場合には、輸入している原油価格の上昇による部分を除去してしまうので、GDPデフレーターは消費者物価指数などに比べて上昇率が低くなる。

消費者物価の上昇率は高くなったが、国内要因による変化分だけを取り出したGDPデフレーターの上昇率はマイナスなのだから、最近の物価上昇は明らかに海外からの輸入インフレによるものだ。

3.デフレ脱却宣言はいつか?

デフレ脱却の姿として期待されていたのは、需要の低迷によって下落していた物価が、国内の需要回復によって上昇するようになるというものだった。こうした形であれば、企業では収益が増加し、家計は物価上昇を上回る賃金の増加となっているはずで、行き過ぎなければ「良い物価上昇」だ。

しかし現実には、原材料価格の上昇で企業収益は圧迫されており、法人企業統計季報では、2007年7-9月期以降、経常利益は前年比でマイナスとなっている。賃金も物価上昇を補うほどには上昇していない。消費者物価は明確に上昇し始めたが、海外からの輸入原材料価格上昇によるコスト上昇を企業が吸収しきれなくなって製品価格を引き上げているという、いわゆる「悪い物価上昇」による部分が大きい。下落していた物価が上昇するようになったのだが、その姿は期待外れなのだ。

政府はいつデフレ脱却宣言をするだろうか?どこかで日本経済がデフレとは言えない状況となったことを認めるだろう。しかし、期待外れの形で日本経済がデフレではなくなってしまったことで、晴れがましい「デフレ脱却宣言」は永久に出せないのではないだろうか。
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