2007年08月09日

BOE「インフレ報告」8月号~利上げバイアスを維持

経済研究部 常務理事 伊藤 さゆり

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■見出し

・インフレ警戒姿勢はやや緩めたが、利上げバイアスは維持
・年内に政策金利は6%に引上げ、その後、据え置きへ

■introduction

・フォワード・ルッキングな政策決定の根拠となる「インフレ報告」の見通し
8月8日、イングランド銀行(以下、BOE)が「インフレーション・レポート」(以下、「インフレ報告」)を公表、キング総裁の記者会見が開催された。
四半期に一度公表される「インフレ報告」は、金融政策委員会(以下、MPC)のフォワード・ルッキングな政策決定の根拠となるもので、経済情勢を詳細に分析し、市場の金利予測に基づくGDP成長率と消費者物価(以下、CPI)上昇率の見通しを、ファン・チャートと呼ばれる確率分布で示す点に特徴がある。

・余剰生産能力は縮小しており、成長鈍化が必要と認識
イギリス経済は、6期連続で長期平均を上回るペースの景気拡大が続いており、余剰生産能力の縮小は続いている。今回の「インフレ報告」では、GDP統計は上方改定されるケースが多く、余剰生産能力の縮小が想定以上に進んでいる可能性にも言及された。
CPIは、3月の前期比3.1%をピークに、ガス・電力料金の引下げの効果から着実に鈍化しているが、なお目標の2%を上回る水準にある。
予測のメイン・シナリオは、市場が織り込んでいる年内あと1回の利上げを前提に、成長率は予測期間にわたって緩やかに鈍化、CPI上昇率は目標の2%近辺に収束するというものである。
前回5月との比較では、利上げ効果の浸透による個人消費、設備投資の鈍化が見込まれることで、成長率は若干下方修正されたが、リスクは上下に均衡しているという評価は維持された。
インフレ率については、5月時点よりも、石油・ガス価格が上振れているため当面の鈍化はより緩やかなペースとなるが、その後は、需要の鈍化により、前回の予測よりも低めで推移するとされた。インフレ・リスクの判断は、前回5月の「上振れ」から「やや上振れ」に修正、インフレ警戒のトーンが幾分弱められた。前回強調された価格転嫁の圧力が高い状態が続き、インフレ期待の高まりや、マージンの引き上げが積極化するリスクへの警戒もトーン・ダウンした。
こうした修正は、まだら模様が続いた労働市場では、改善傾向が明確になったものの、賃金の抑制は続き、個人消費が緩やかな鈍化の兆しを示し、サーベイ調査でも価格転嫁の意欲やインフレ期待が幾分後退していること、流動性の指標の上振れにも歯止めが掛かったことなどが反映されたものであろう。
インフレ警戒の姿勢はトーン・ダウンしたとは言え、キング総裁が会見で、「2%というインフレ目標の達成には需要の鈍化が必要」と述べるなど、利上げバイアスは維持された。

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経済研究部   常務理事

伊藤 さゆり (いとう さゆり)

研究・専門分野
欧州の政策、国際経済・金融

経歴
  • ・ 1987年 日本興業銀行入行
    ・ 2001年 ニッセイ基礎研究所入社
    ・ 2023年7月から現職

    ・ 2011~2012年度 二松学舎大学非常勤講師
    ・ 2011~2013年度 獨協大学非常勤講師
    ・ 2015年度~ 早稲田大学商学学術院非常勤講師
    ・ 2017年度~ 日本EU学会理事
    ・ 2017年度~ 日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
    ・ 2020~2022年度 日本国際フォーラム「米中覇権競争とインド太平洋地経学」、
               「欧州政策パネル」メンバー
    ・ 2022年度~ Discuss Japan編集委員
    ・ 2023年11月~ ジェトロ情報媒体に対する外部評価委員会委員
    ・ 2023年11月~ 経済産業省 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会 委員

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