2005年09月25日

中高年男性の不安の構造を探る -キーワードは健康不安-

松浦 民恵

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1.
本稿の目的は、パネル・データの分析によって、中高年男性の不安の構造を明らかにすることである。中高年男性は、今後高齢社会の主役となっていく世代であり、職業生活、家庭生活、健康状態に少なからず変化がみられる年代でもある。彼らが何に不安を感じているのか、不安の変化を規定する要因は何なのか、中高年男性の不安の構造を解明することは、社会保障制度をはじめとする社会的な支援体制や、有益な自助努力のあり方を検討していく上でも、一つの重要なステップとなるだろう。
2.不安についてたずねた13の質問項目について2003年調査の結果をみると、「病気や事故」、「家族の病気や事故」、「自分の介護」で不安の割合が特に高く、03 年には約9割にのぼる一方で、「親の介護」、「ローン」、「家族」、「友人関係」は不安の割合が比較的低い。4回の調査結果で加齢効果をみると、「親の介護」、「失業」、「ローン」については、年齢が高くなるほど不安意識が弱まり、「病気や事故」、「家族の病気や事故」、「自分の介護」、「配偶者の介護」は、60 歳代後半ぐらいから不安が若干上昇する傾向がうかがえる。なお、各項目とも、調査年度(時代)による顕著な効果は読みとれない。
3.まず、不安に関する13 項目の結果をもとに、主成分分析により不安の内容を構造化したところ、健康不安因子(自分の死亡、病気や事故、家族の病気や事故、自分の介護、配偶者の介護)、経済不安因子(親の介護、老後の経済生活、失業、ローン、資産蓄え)、人間関係不安因子(情報化等、家族、友人)といった3つの因子が検出され、中でも健康不安因子が最も重要な因子として位置づけられた。また、それぞれの因子の間に有意な正の相関が認められ、1つの不安意識が別の不安意識を高めるという構造が明らかになった。次に、不安意識の持ち方によって、人単位でタイプ分けを行ったところ、健康・経済・人間関係のいずれについても不安が強い「全部不安タイプ」(03 年調査では25.8%)、健康不安が突出して強い「健康不安タイプ」(同41.9%)、全体として不安が少ない「全部安心タイプ」(同18.3%)の3つのタイプに分類された。このように、いずれの分析においても、中高年男性の不安意識の中で、健康不安はきわめて重要な位置を占めていることが確認できた。
4.調査4回分をプールしたパネル・データで不安タイプ別の特徴をみると、全部不安タイプは、(1)年齢が若い、(2)中学・高校等卒、(3)健康でない、(4)要介護の親がいる、(5)三世代同居、(6)収入や金融資産が少ない、(7)就業中もしくは無業だが就業希望がある、(8)自営業主や家族従業、(9)情報機器を利用していない、(10)家族や友人との関係に満足していない、といった人に多い。一方、全部安心タイプは概ね全部不安タイプと逆の傾向が読み取れ、不安意識の高低は、健康状態や経済状況といった客観的状況とある程度整合的であることが確認できた。ただ、健康不安タイプは、居住地域が都市の人、高学歴の人、情報機器を利用している人に多く、情報量の多さが不安を高めている可能性もある。
5.不安の変化について分析したところ、プールド・データによる特徴分析と、異なる結果もみられた。たとえば、収入や金融資産が多い人、保険を保有している人は不安が小さいが、2003 年までの変化をみる限り、収入や金融資産の増加、保険への加入が不安意識に与える影響は、必ずしも明確ではない。この結果から、不安意識を軽減するためには、若い頃から経済的基盤の強化をスタートする方が望ましいことが読みとれる。一方、老後の経済的な生活設計をたてることは、プールド・データでの特徴をみても、2003 年までの変化をみても、不安の軽減に有益であると考えられる。
6.健康保険、公的介護保険については、頼りにしている人の方が不安が大きいという傾向がみられ、 調査期間中に頼りにするように変化した人の不安が低下していることもない。不安だからこそ社会保険制度を頼りにしているのかもしれないが、頼りにしている人が安心できるような社会保険制度になっていないのではないかという懸念も残る。一方、公的年金については、頼りにしている人の方が経済不安が小さく、中高年の男性で、それも二階建ての給付が確保されている人については、公的年金が比較的経済不安の軽減に役立っていると解釈できる。
7.不安タイプの変遷をみると、4回の調査を通じて同じタイプである固定パターンは1/4程度にとどまり、多くの中高年男性は、4回の調査の間に不安タイプが変動している。
また、変動パターンについては、不安タイプの中で4割を占める健康不安を介して他のタイプに行き来するケースが多い。

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松浦 民恵

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