2004年10月01日

年金基金ガバナンスの3つのモデル(Gordon Clark)

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第1のモデルは、英国のコモンローの伝統から生まれた受託者責任である。これが次第に年金や運用管理に適用され、運用の世界の黄金律(「おのれの欲するところを人に施せ」;マタイによる福音書)となった。いわゆるプルーデントマン・ルールは米国エリサ法の重要な柱になっている。このモデルの長所は、運用業務のように変化の激しい環境下でも柔軟に対応できる、普遍的な行動規範を提供してくれることである。しかも、受託者の行動の自由を束縛せず、専門家として技量を伸ばすことが奨励される。反面、解釈や裁量の余地が大きいため、結局、個人の倫理感に基づくことになり、脆弱なことが短所である。
第2のモデルは、米国エリサ法や英国年金改革法のような法律による規制である。歴史的には、法規制によって年金基金管理の質が高められてきた事実が厳然としてある。法規制には、受託者に明確な行動指針を与え、最低限のルールを守らせる強制力がある点が長所である。しかし、受託者により高い質の仕事をさせるインセンティブを与えることはできないし、運用のように変化が激しく、高い専門性を要する業務に、柔軟に対応させることは難しい。
第3のモデルは、市場規律に委ねるという考え方である。利害関係者同士が交渉の中で良き慣行を形成して行こうとするものである。年金受託者は、運用評価機関などから入手したマネージャーのパフォーマンス評価情報に基き、マネージャー選択を行う。このような市場の力を活用して資産運用業のガバナンスが実現される。また、年金基金は年金会計、運用成果などの情報を加入者、株主などに開示するが、その過程を通じて年金基金の運営の良し悪しが市場から判断され、年金ガバナンスが実現されるという。市場モデルの欠点は、受益者の利益保護に対して懸念が生ずることである。受益者に対する責任が希薄な年金受託者は、運用成果のみに関心を奪われ、リスクの高い運用に走るかもしれない。
このように、3つのモデルのそれぞれに長所、短所があり、どれか一つだけで年金ガバナンスが実現できるわけではない。その適切な組み合わせ(三角形の中心近く)に「良きガバナンス」が隠されている。

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