1998年10月13日

介護サービス契約のあり方に関する一試論 -消費者保護にかかる8つのポイント-

法政大学 社会学部 長沼 建一郎

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1.介護保険の下では、介護サービスは事業者と利用者との契約により提供される。したがって、介護サービスの適正さ、「質」を確保するためには、消費者保護の観点から、介護サービス契約のあり方にかかる最低限のルールづくりを行う必要がある。そこで本稿ではとくに在宅介護サービスを念頭に置いて、具体的な検討を試みた。

2.まず契約締結過程においては、
(1)利用者からの申し込みがあれば、原則として事業者は契約を拒否できない(いわゆる締約強制)ものとするべきである。ただし、例外的に契約を拒否できる場合を事前に明確に類型化しておく必要がある。
(2)契約書は必ず作成すべきであるが、記載内容の標準化を図る必要がある。また、ケアプランとの関係の整理が課題である。
(3)利用者への事前の情報提供の充実が図らなければならないが、契約プロセスの段階(サービス選定段階/事業者選定段階/契約締結段階/サービス提供段階/サービス終了後)にあわせた適切な情報の選定・選別を行う必要がある。

3.つぎに契約内容については、
(1)契約文書・条項を通じた「質」の確保に関しては局面を分けて考える必要がある。とくに「損害発生」に対しては、事業者は高い注意義務を負うべきである。他方「不十分な履行」についての解決は、むしろ事前の情報提供や事後の市場評価に委ねられるべき部分が大きい。
(2)契約内容はある程度規制され、とくに訪問型サービスにおいて、付随的条項を通じた事業者側の責任の軽減については、法令等により厳しく制限される必要がある。
(3)利用者側にはサービス提供に対する一定の協力義務があると考えられるが、そこに過大な法的効果を負わせるべきではなく、また高齢者本人の意向に十分配慮する必要がある。

4.さらに紛争処理のあり方については、
(1)不適正なサービスに対する救済方法としては、完全履行(やり直し)の請求や、契約の取消も考えられるが、サービスの「質」に関する紛争においては、契約離脱の自由を確保しつつ、むしろ損害賠償の請求を基本とすべきである。
(2)救済手続きとしては、国家賠償等も考えられるが、むしろ行政の監視機能・事後的な是正措置との連携の下で、事業者への民事的な対抗手段を基本に考えるべきである。また訴訟等の前段階として、苦情処理手続の充実を図る必要がある。

5.これらの介護サービス契約自体にかかるルールづくりとあわせて、より制度的な問題―サービス評価、モニタリング、高齢者へのサポートシステム等々―にも取り組んでいく必要がある。

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法政大学 社会学部

長沼 建一郎

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