1997年10月25日

「国際機関」

細見 卓

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戦後発足した国際連合とその諸機関・ブレトンウッズ機関 (世銀・IMF 等)・GATT等は、 時の国際問題に対処するためのものであり、 またそれを処理する力を持ち合わせていた。しかし最近になり、 先進国首脳会議・同蔵相中央銀行総裁会議・4極通商会議等世界を網羅する国際機構の数は大きくなり、 さらには欧州・南北アメリカ・東南アジア・中東等においても、 その地域国の首脳や有力閣僚が参加する会議が数多く開かれるようになった。
つまり、 それは戦後の国際機関が十分な役割をそれだけで果たすことができなくなっているという現状をあらわしているとも言える。


国際機関の分散化傾向
また、 国際問題の決定については、 いきなり責任者同士の会合にその処理が委ねられるという傾向もでてきた。 かつて英国のウイルソン首相は、 EC 内の些細なことがらの決定のためにパリに呼び集められた時 「この程度のことで首脳会議に呼び出されるのであれば、 毎月のようにヨーロッパ参りをしなければならないが、 それが英国首相か」 と皮肉ったと言われている。 国際問題の処理機関が分散化する傾向はますます激しくなっているようである。
こうした現状をあらわすかの如く、 9月に香港で開催された世銀・IMF 総会においても、 増資に関することを除き画期的な展開が図られることなく、 各国が引き続き国際開発援助・金融問題に取り組むことを約束し合い、 今回のアジア地域の通貨不安に対しても、 より一層の連絡と IMF の指導を決めることに終わった。


国際機関の機能低下の背景
固定平価制の下での IMF はその厳格な規律で各国の為替変更のわがままを許さない厳しい存在であった。 しかし、 米国が金/ドルの交換の規制を停止し、 変動相場制に移行すると共に、 為替相場の変動は大変激しいものとなった。
通貨秩序の安定化が困難となっているのは、 金融取引の完全自由化と流動性増大により、 通貨がある意味で2種類のものになったことが背景にある。 すなわち、 一方は日常の貿易決済・価値交換基準・価値保存手段というような伝統的概念の通貨であり、 他方は通貨取引のみによって造出される新しい通貨である。 後者は、 その取引が現実のファイナンスに用いられるものではなく、 いわゆるヴァーチャル (仮想) なものであり、 瞬時に巨額の調達も国際移動も可能である。 この新しい型の通貨の量は、 一日の取引額だけでも貿易決済の年間所要額を上回り、 新しい金融手段として市場に現れている。
従って、 IMFあるいは各国政府の介入等の金融手段のみで安定を図るということは期待できず、 かつてのメキシコ通貨危機や今回の東南アジアの通貨変動においても、 世界経済的な観点からその経済バランスが回復した時 (いわゆる"ファンダメンタルズ"が改善した時) にのみ、 通貨の安定は実現可能であるということがますます明確になりつつある。
われわれ日本人がとかく抱きがちな 「日本の通貨の国際的価値は日本経済の国内的事情を中心に決定される」 という考え方は、 もはや通用せず 「世界経済という観点から見た日本経済の評価が為替相場のあり方を決める」 という新しい現実に目覚める必要があろう。 このような現実を前に、 在来のブレトンウッズ機関は、 通貨安定機構としてそれ自体だけで十全なものではなくなってきていると言えるのではないか。


国際世論形成における国際機関の役割
国際機関はその機能においては限定的になって行かざるをえないのが現実であるが、 国際機関が加盟国の政治や経済の評価の上で果たす役割は何ら変わるところではない。
日本は多数が出席する国際会議において自己主張を実現することについては、 甚だ見劣りすると言われてきた。 国際機関が果たす国際世論形成の重要性を鑑みれば、 それとの関与は長期的・持続的に全力を挙げて取り組まなければならないものである。 まして、 最近議論されている安全保障・環境問題のように、 ことがらが全て国際化してしまうという問題の処理にあたっては、 国際機関の果たす役割はますます大きなものになるはずである。
京都会議もあるが、 われわれは国際機関に本腰を入れて取り組み、 国際世論の好転に絶えず努力する必要があろう。 孤立化を避けるのは生やさしい仕事ではない。

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