1996年10月01日

中国返還をむかえる香港の課題

酒井 信昭

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■見出し

(はじめに) -錯綜する議論-
I.政治・経済・社会の枠組-当面想定しにくい大きな変化-
II.経済的繁栄の条件-返還よりも重要な経済構造の転換-
III.“港人治港”の内実-香港は香港でありつづけるか-
(おわりに)-香港の将来を担うのは香港人-

■introduction

1997年7月1日、香港が約150年ぶりに英国から中国へ返還される。この香港返還をめぐって、さまざまな人がさまざまな意見を述べているが、その開差があまりにも大きすぎると感じざるをえない。即ち、一方の極には「香港の死」を述べる議論があるかと思えば、他方の極には「香港の大繁栄」を述べる意見もある。この両極の間にさまざまな意見が錯綜しつつ存在するが、総じてジャーナリズム(特に日本のジャーナリズム)は悲観的、ビジネスマン(特に香港在住のビジネスマン)は楽観的という色分けになっているように思われる。

それにしてもなぜこのような開差が生ずるのだろうか。もちろん“香港返還”が歴史上前例のない形で行なわれる-しかも、政治・経済・社会制度の全く異なる英国から中国へ返還される-ということが基本的理由であろう。

しかしながら、本来分けて議論されるべき、レベルの異なる問題が無限定に混ぜ合わされて議論されている点こそが、議論をいっそう錯綜させている原因であるように思われる。

そこで、本レポートでは、香港が直面している課題を下記の3つの層に分けて整理してみることにしたい。

(1) 政治・経済・社会の枠組みを中国返還後も大きな混乱なく維持することができるか
(2) この枠組みを前提にして経済的繁栄を維持することができるか
(3) これらを通じて、香港は香港の独自性を維持しつづけることができるか

もちろん、これらは重層的に相関しているものの、本レポートで想定している21世紀初頭までのタイムスパンの中では、(1)がいわゆる“返還問題”であり、(2)(3)はこれとは直接的には連動しない質的レベルの異なる課題であると思われる。
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