1993年01月01日

経済の動き

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<米国経済>

92年7-9月期の実質GDP(暫定値)は前期比年率3.9%となり、速報値ベースの同2.7%から大幅に上方改定された。但し、今回の上方改定は在庫増や国防支出の増加等、一時的なものを合んでいることや、伸びの主因が個人消費の4-6月期からの反動増の影響が大きく、基調としては弱い景気回復との従来からの見方に変更はない。

生産関係の指標では、10月の鉱工業生産は前月比0.3%と3ヵ月ぶりに増加に転じた。但し、(1)稼働率が依然として80%を下回っていること、(2)設備投資の先行指標の一つとされる耐久財新規受注が10月に前月比3.9%の大幅増となったものの、変動の大きい輸送機器を徐いたベースではむしろ減少していることには注意が必要である。このため、今後、クリントン新大統領の財政政策、特に投資減税の内容・規模等が明らかとなるまで設備投資の本格的な回復は難しいと考えられる。

家計部門の指標では、10月の実質消費支出は前月比0.3%増となった。10月の小売売上高をみても、同0.9%増と大幅に上昇している。今後の消費動向については、10月の名目所得・実質可処分所得がそれぞれ前月比1.0%、0.6%の大幅増(ハリケーンの被害に対する農業補助金が支払われたこと等、特殊要因を除いたベースでみても名目所得は前月比0.4%増)となったことや、11月の消費者センチメントが大幅に改善していること等から、年末にかけて消費活動は底堅く推移すると予想される。

住宅関連の指標については、10月の着工件数は▲1.1%と減少した。但し、着工件数は91年1月に底を打っており、許可件数が同1.1%増となっていること、モーゲージ金利がかなり低い水準にあること等から、回復力は弱まるものの、今後も緩やかな増加傾向が続こう。

物価動向については、10月の消費者物価は総合で前月比0.4%(エネルギーと食料品を除くコア部分も同0.5%)と今年3月以来の高い伸びとなった。上昇率が高いものとしてはエネルギー価格の同0.5%、住宅費の同0.4%が挙げられる。但し、景気が持続的に潜在成長率を上回って推移することは難しいと予想されるため、当面、物価は安定的に推移しよう。

今後の金融政策については、これまでの金融緩和策はほぼ最終局面にあるとみられるものの、景気の足取りが弱いことから、いま一段の金融緩和の可能性があるものとみられる。



<日本経済>

日本経済では、(1)資産価格(株価・地価)の下落とそれに伴うデフレ効果が大きいこと、(2)世界的に景気回復が遅れていることなどを背景として、消費・設備投資等、民間内需が予想以上に落ち込んでいる。先般公表された国民所得統計速報によると、7-9月期の実質GNP成長率は前期比年率▲1.6%の減少と、円高不況の86年1-3月期(同▲3.7%)以来、約6年半振りのマイナス幅となった。内外需別の寄与度でみると、内需は前期比▲0.4%、外需は同0.0%。内需は2四半期連続のマイナスと不振が続く。主な項目では、消費が、物価の安定等により前期の減少(前期比年率▲3.3%)から同2.7%の増加に持ち直した反面、設備投資は91年10-12月期以来4四半期連続のマイナス成長(▲8.4%)となった。その他、回復傾向を示していた住宅投資は同0.3%増にとどまり、公共投資は前期の高い伸び(同34.3%)から同▲12.3%へと減少(ただし、前年同期比では12.7%と高い伸びを維持)した。

生産動向は、足もと一進一退の推移で底を探る展開をみせている。10月の鉱工業生産指数は前月比▲2.6%と減少、製品在庫指数は122.8と2か月連続で低下した。ただ、出荷指数が同▲2.8%と減少したため、製品在庫率指数は109.3とやや上昇している。在庫調整については、耐久消費財の在庫が依然高水準であるものの、資本財(除く輸送機械)や建設財では着実に進展している。製造工業生産予測指数は、11月(同▲0.5%)、12月(同▲0.1%)ともに低下、生産は年末にかけて弱含みの推移が見込まれる。

個人消費は、弱含みで推移している。関連月次指標をみると、9月の家計調査では、実質消費支出(全世帯)が前年同月比で0.8%とやや増加した。形態別には、サービス支出(同3.4%)の増加は続いているものの、耐久財の大幅減少(同▲27.2%)を中心に商品への支出(同▲2.9%)が依然として低迷している。大型小売店販売(店舗調整済)は、10月に同▲2.6%と5か月連続の減少、乗用車新車登録届出台数も同▲16.2%と大幅な減少が続いた。雇用・所得面の動向では、労働需給の緩和傾向が持続している。有効求人倍率は10月に1倍を割った(0.96倍)。10月の所定外労働時間指数は前年同月比▲17.1%と依然二桁のマイナス、雇用者数も同2.4%増と増勢鈍化傾向にあり、賃金指数(現金給与総額、事業所規模30人以上)は同2.2%と伸び幅が縮小している。

次に、設備投資の動向をみると、先行指標の機械受注(船舶・電力を除く民需)は9月、前年同月比▲8.0%と減少、10月の民間建設受注(大手50社)も同▲14.5%減と4月以来大幅なマイナスが続いている。9月の製造工業稼働率指数は96.8と小幅上昇したものの、水準は依然として低い。景気の減速から企業業績が悪化、また銀行貸出金利の下げ渋りなどから中小企業・非製造業での回復は遅れ気味、製造業の資本ストックも高水準であることなどから、環境は引き続き厳しい。

一方、住宅投資については、9月、10月の新設住宅着工戸数が年率換算140万戸近辺の推移とやや落ち着いたが、金利低下の波及効果や、生産緑地法による農地転用効果で貸家は、足もと堅調に伸びている。

物価面は、景気回復力が弱いなかで安定した推移をしている。総合卸売物価は、製品需給の緩和、稼働率が低水準で推移、輸入物価の安定等を反映して、10月は前月比▲0.7%(前年同月比▲1.3%)と弱含み。消費者物価も、これを受けて全体として落ち着いた推移となっている(前月比▲0.5%、前年同月比1.1%増)。



<ドイツ経済>

西独では、高金利による内需の不振に加え、マルク高・EMSの混乱から海外受注が減少し、景気は急速に悪化している。コール首棺は11月に西独経済のリセッション入りを公式に認めた。物価面では、これまでのマルク高の影響等から、輸入物価、生産者物価は落ち着いた推移が続いている。しかし、消費者物価についてはサービス関連を中心に高い伸びとなっており、特に9月以降は前年同月比で3%台後半にまで達している。これは、2%台を目指すドイツ連銀にとって不満足な状況にとどまっている。国際収支については、世界景気の不振による輸出の伸び悩みから、92年年初より貿易収支の黒字拡大テンポは鈍化している。このため、綬常収支赤字の縮小も足踏み状態にある。今後は、世界景気の回復にともない、貿易収支、経常収支ともにやや改善しよう。しかし、欧州の景気回復力の弱さ、7月以降のマルク高等から輸出が伸び悩むため改善は小幅にとどまろう。



<イギリス経済>

イギリスでは、90年末からの景気後退局面が続いている。消費関連の指標に一部、改善の兆しが見られるものの、CBI(英産業連盟)の景気調査結果からは、依然景況感の悪化が認められる。

一方、物価面についてみると、消費者物価は需要の低迷から落ち着いた推移を続けており、ポンド急落による物価上昇圧力は表面化していない模様である。政府の利下げに伴いモーゲージ金利が低下していることも、消費者物価押し下げ要因となっている。こうした環境下、政府は経済運営の主限を「インフレ抑制」から「景気回復」に明確に転換し、金融緩和・財政支出拡大といった景気のテコ入れ策を実施している。国際収支にいては、輸出、輸入ともに伸び悩んでいることから、貿易収支、経常収支ともに赤字額は92年年初からほぼ横這いで推移している。7-9月期の貿易収支は▲33億ポンド、経常収支は▲30億ポンドと、前期(各々▲32億ポンド、▲29億ポンド)からほぼ横這いとなっている。

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