1992年07月01日

持続可能な開発

細見 卓

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地球規模での環境問題の重要性が再び大きく取り上げられて、世界の各地から百に及ぶ国や各種の団体の代表が多数出席した国連環境開発会議(地球サミット)が、リオデジャネイロで開催された。このことは、地球環境問題に関する世界全体の認識や対策を進める上で画期的な出来事であった。

最近の動きとして、あらゆる開発を差し止めてでも環境の保全を図るべきだとする極端な自然保護至上主義者の数も徐々に増えてきて、マスコミ等の紙上を見ても大きな影響力を持ってきているようだ。日本では地球環境問題の論議が盛んになっできたとはいえ、これまで工場公害問題が主で、一般国民には環境破壊に対する自己責任の感覚は薄く、漸くゴミ・排水問題やエネルギー節約といった形で切実に認識されはじめてきたところである。我が国は地理的に隣接国から隔離されており、他国の環境破壊によってもたらされる被害からは、殆ど無縁であった。チェルノブイリ原発事故、酸性雨による湖沼・森林被害、上流諸国の有害化学物質による河川の水質汚染等といった他国に起因する環境汚染被害からは、当面は比較的影響が少ないものと考えられている。しかしながら、地球環境問題の特徴の一つは、国境を超えてその影響が他国に及ぶことであり、中国大陸、朝鮮半島、シベリヤ地域等での環境破壊は、日本にとっても重大な影響を与えることは間違いない。今後日本だけが環境汚染から隔離し続けることは不可能であり、既に欧州諸国等が直面しているのと同様に、他国を含めた地球規模的な環境汚染対策をより一層真剣に推進せざるをえないであろう。

一方、地球環境の破壊を防ぐためにあらゆる開発を抑えるべきであるという意見は、開発途上国からは「先進国のエゴ」という批判もあり、開発途上国の開発の権利を守ることを地球環境憲章に盛り込むべきであるとする声も大きい。COの増加に伴う地球温暖化が南北両極の氷の融解をもたらし、海水位の上昇がオランダやインド洋の島嶼等多くの低地の水害を招くというような議論については、未だ科学的な論証を得るには至っておらず、又、オゾン層の破壊に伴う問題にしてもその影響は、なお研究課題となっている。

このように未確定要素が多いとはいえ、こうした地球規模での環境汚染がこのまま進めばもはや元の状態に戻すことができないのが、この問題の深刻さの由縁である。地球の破局をもたらすような事態が到来するか否かは、容易に断言することはできないが、我々が避けることのできない現実として次の二つの事柄は、緊急課題として直ちに取り組まねばならないであろう。

まず一つ目は、世界の人口増加の問題である。20世紀に入って急激に増大し続ける世界人口は、21世紀の半ばには九十億にも達するといわれている。今まで比較的順調に伸びてきた食糧生産も、この人口爆発に見合う形で増加することは困難と思われる。マルサスの原理が妥当か否かは、学者の判断に委ねるとしても、主として貧困地域に増加する人口をこの地球が支えていくには、よほどの工夫がない限り不可能であり、そのための準備は今から始めなければならない。一説に因れば、人口の増加抑制は、生活水準の向上や女子高等教育の普及が有用であるといわれるけれども、その成否は定かでない。

もう一つの問題は先にも触れたが、環境と開発の相互関係の問題である。増加する人口を支えつつ環境を保全する為には、新しい技術の開発、あるいは灌漑・治水の普及、都市の再開発等結果的には経済成長に繋がる新しい投資や開発が必要であり、このことが更なる環境悪化を招くという危倶である。勿論、これまでのようなエネルギー多消費・資源浪費型の経済成長指向を根本的に改めなければならないことは明らかであるが、よりグリーンな技術の開発にあたっても一方である程度の「環境の破壊とエネルギー消費」なしには達成しえないことも銘記すべきであろう。リオデジャネイロの会議でも取り上げられたように、よりグリーンな環境にやさしく、しかも持続可能な開発を具体的にどのように確保できるのか、問題の解決は一刻の猶予も許されない事態を迎えている。

もはや地球環境問題は、「人類が20年周期で引き起こすヒステリー」だけではすまされなくなってきているようだ。

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