1990年12月01日

新たな首都圏像について考える

田中 信也

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■見出し

はじめに
1.業務核都市構想の概要
2.首都圏の構造変化と業務核都市整備による問題点
3.業務核都市への業務機能集積の実態
4.今後の首都圏整備の方向性
おわりに

■はじめに

近年、首都圏では経済のソフト化・サービス化や国際化・情報化の進展を背景にした東京都区部への企業の中枢・管理機能の集中が進行している。加えて、金融業を中心とする外資系企業の東京進出も目覚ましく、東京一極集中に拍車をかけている。

このような東京への人口や諸機能の過度な集中は、さまざまな社会問題を引き起こしてきた。大幅な地価高騰による住宅価格の高騰、それに伴って住宅地が遠隔化することによる通勤の長時間化、通勤条件の劣悪化もその一例であろう。わが国の経済的繁栄が、必ずしも個人の暮らしのレベル向上に結びついていないと言われる所以である。また、地価高騰にともなう「持てる者」「持たざる者」の資産格差の問題、インフラ整備の立ち遅れ、ゴミ処理や水・電気の供給などの都市問題、東京にすべての機能が集中することによる地震など自然災害に対する脆弱性の問題なども増大している。

また厚生省の推計によると、昭和60年から75年(西暦2000年)の間に、東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県をあわせた1都3県の人口は、さらに300~500万人増加すると予測されている。そのため、今後も上記の社会問題が多岐にわたり深刻化する可能性は大きい。

このような問題を抱えながら、昭和62年6月、四全総が閣議決定され、西暦2000年に向けたわが国の国土づくりの基本方針が正式に策定されるに至った。その基本目標は東京一極集中の是正であり、東京圏と他圏域のバランスのとれた発展、東京圏内における都心部への集中緩和、に関する方針が定められた。東京圏内における整備方針は以下のとおりである。

『東京圏は、我が国の首都としてのみならず、金融、情報等の面で世界の中枢都市の一つとして、我が国及び国際経済社会の発展に寄与する。そのため、国際金融等の都心部での展開に伴う要請に対応し、都心部及び東京臨海部の総合的整備を進める。また、都心部に集中しがちな業務機能等を圏域全体で適切に受け止めるよう、業務核都市等への諸機能の選択的分散等地域構造の改編を推進するとともに、通勤の利便性の向上も図りつつ、良好な住宅の供給を図る等東京圏の居住環境の改善を進める。・・・』

このような整備方針のもと、大宮駅西口地区、幕張新都心地区、横浜MM21地区など業務核都市の代表的プロジェクトが本格的に動き始めた。

本稿は、東京への一極集中を抑制し真に豊かな都市づくりを目指すという前提に立ち、(1)東京圏内における分散政策である業務核都市構想に着目し、(2)まず首都圏(1都7県)の人口・産業面における構造変化を把握するとともに業務核都市整備による問題点を分析する(3)つぎに現実に整備の行われた大宮・川崎の事例から、業務機能の分散実態について考察するそのうえで、(4)今後の首都圏整備の方向性について考える、というものである。

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