1990年08月01日

経済の動き

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<米国経済>

米国経済は依然としてまだら模様の感を呈している。製造業は底入れし、経済全体としては緩やかな拡大を続けていると思われるが、経済指標は景気の堅調さを明確に示すものもそれほどなく、一方で、物価の基調は未だ安心できる状況ではないことからFRB(米連邦準備制度理事会)は金融緩和に対して慎重なスタンスを変えていない。

家計関連の指標をみると、5月の小売売上高は前月比▲0.7%と3ヵ月連続して減少、5月の実質個人消費支出も▲0.3%と低迷している。また5月の往宅着工件数も前月比▲1.4%と4月に比べ減少幅は縮小したものの、2月以降減少傾向が続いている。

生産関係の指標を見ると、鉱工業生産指数は2月、3月と前月比で伸びが鈍化し、4月に横這いとなった後、5月は0.6%増となった。5月の増加は主として乗用車生産によるところが大きく、これを除くベースでは、0.2%増にとどまっている。設備投資の先行指標とされる非国防資本財受注は、5月前月比▲1.5%ちと2ヵ月連続して減少した。

一方、6月の失業率は5.2%と前月比べ、0.1%低下した。非農業部門の雇用者増加数を見ると、全体で4万人、国勢調査要員を除くと、9万7千人(5月は15万6千人に上方修正)と6月の数値自体は力強さはないものの、5月の上方修正が大幅だったため、景気は予想外に底堅いとの見方が広がった。

貿易収支をみると、4月分は輸出、輸入とも減少したが、輸入の方が減少幅が大きかったため赤字は69億ドルと前月に比べ縮小した。

物価動向をみると、5月は消費者物価が前月比0.2%上昇、生産者物価が同0.3%上昇した。冬の寒波等による食料品、エネルー製品急騰の影響が無くなり、今後は、食料品、エネルギー除きのコア・インフレの動向が注目されよう。5月の消費者物価のコア部分の前年同月比は4.8%となっており依然として楽観視できない状況と言え、引き続きFRBの政策スタンスが注目されよう。



<日本経済>

○景気は引き続き堅調

日本経済はトリプル安の影響を乗り越え、順調に推移している。4月の景気動向指数(先行指数)は50.0で、3月に続き50以上となった。生産は4月には一般機械、電気機械の輸出が落ち込むなど、年度末(3月)の増産の反動が出て前月比1.0%減であったが、5月は乗用車、トラックなどを中心に内需が好調で、対象14業種中13業種のすべてで増加し、同2.4%に盛り返した。

消費関係の指標では、大型小売店販売額が5月に前年比10.4%と2ケタの伸びを示し、また新車登録台数も高級車を中心に5月は前年比6.1%、6月は同5.6%と好調だった。

設備投資は日銀・短観(5月)によれば、主要企業の2年度設備投資計画が、前回(2月)比かなり上方修正され、前年度比で製造業は16.5%、非製造業は同7.9%の増加となっており、昨年度ほどではないものの、堅調であると予想される。

○引き締まる労働市場

雇用情勢はさらに逼迫している。有効求人倍率(季調済)は4月の1.34倍から5月は1.41倍へ上昇し、16年ぶり(昭和49年3月に1.46倍)の高水準となった。

○物価は安定基調だが、上昇圧力は引き続き強い状態

5月の卸売物価は、総合で前月比0.3%下落(前年同月比は1.7%上昇)。これは、(1)国内卸売物価が同0.1%上昇(同0.6%上昇)した一方、(2)輸出物価が、円高のため同1.5%下落(同5.4%上昇)し、(3)輸入物価は円高と輸入原油安により同2.2%下落(同7.0%上昇)したためである。

消費者物価は、好調な消費や生鮮食品の価格上昇などにより、5月に全国で前月比0.8%上昇した(前年同月比は2.7%上昇)。6月の東京都区部の消費者物価(中旬・速報値)は、同0.6%下落(同2.2%上昇)した。

物価は今後も基本的には安定基調で推移すると思われるが、労働・製品需給の逼迫の中で、物倒上昇圧力は引き続き強い状態を保とう。



<イギリス経済>

イギリス経済は、政府の金融引き締め政策の影響もあり、'89年半ば頃から成長率は鈍化傾向にある。'90年第1QのGDP(アベレージベース)は'89年第3Qに前期比O.8%増、第4Qに同0.5%増となった後、'90年第1Qも同0.5%増(前年同期比1.9%増)にとどまった。しかしこの内訳を見ると、個人消費が前期比1.4%増、設備投資が同5.1%増、輸入等が同5.5%増となっており、国内需要が比較的堅調であることがうかがわれる。足下の動きを見ても小売売上数量は'90年第1Qの前期比0.9%増の後、4月は前月比1.2%増、5月は同1.4%増と増勢傾向にある。

鉱工業生産は'90年第1Qに前引き0.1%となった後、4月にはエネルギー部門の回復から、前月比0.5%増(前年比0.6%増)となった。

小売物価で見た物価上昇率は'90年第1Qに前年同期比で7.8%増の後、4月には個別物品税引き上げ、人頭税の導入、住宅ローン金利の引き上げなどから前月比3.0%(前年比9.4%)、5月は同0.9%(前年比9.7%)と大幅に上昇している。

失業者数の減少を背景に年率10%程度の賃金上げが続いており、労働コスト上昇による物価上昇圧力が根強く残っている。このように物価動向には改善傾向が見られないものの、ポンドのERM(為替相場メカニズム)早期参加期待から5月以来ポンドは堅調に推移している。



<西ドイツ経済>

西ドイツ経済は好調に推移している。西ドイツのGNPは、'89年には4.0%と'80年代で最高の経済成長率となった後、'90年第1Qも前期比2.5%と大幅に上昇した。

中でも建設投資が非常に好調で、前期比19.4%もの急増となった('89年第4Qは同3.0%増)。また企業の設備投資も同6.4%増と好調であった('89年第4Qは同3.8%増)。個人消費についても'89年後半から回復し、同年第4Qに前期比1.0%増の後、'90年第1Qは同2.5%の大幅増となった。

この様に西ドイツ経済が拡大しているのは、(1)'90年年初から大幅な減税が実施されたことや、(2)昨年秋頃からの移民の大量流入により人口が増加していること等による影響である。今後もこうした影響が続くことに加え春からは賃上げが実施されたこともあり、内需を中心に西ドイツの景気は好調に推移しよう。'90年全体では3.5~4.0%程度の成長が見込まれる。

物価動向について見ると、このところ落ち着いた推移を続けている。昨年からのマルク高や、今年に入ってからの原油価格の軟化等から、輸入物価は大幅に低下(4月は前年比4.3%減)しており、5月の生計費(消費者物価に相当)前年比上昇率は2.3%となり、4月と同じ水準にとどまった。また金融情勢をみると、M3の伸びは'89年第4Q比年率で4月に4.3%の後、5月は4.0%と'90年の目標値である4~6%の範囲の下限にある。



<カナダ経済>

カナダ経済は景気減速傾向が強まっている。

3月の小売売上は前月比0.4%増となったが、これは自動車販売の増加による要因が大きいと言えよう。また、5月の住宅着工件数は年率20.4万戸で前月比2.0%増加したが、前年同月比では減少しており底這い状態を脱していないと判断できょう。生産面では、稼働率の低下、企業収益の低迷が見られる。

一方、5月の失業率は7.6%で前月比0.4%昇した。

物価動向を見ると、5月の消費者物価は前月比0.5%と比較的大きく上昇したが前年同月比では4.5%の上昇に鈍化している。一方、4月の卸売物価は前月比0.1%下落、前年同月比では0.1%の上昇に止まった。インフレ率にやや鎮静化の動きが見られるが、依然充分な警戒が必要と言えよう。

4月の貿易収支は3月の10.9億加ドルの黒字から1.31億加ドルの黒字に縮少した。当面現状程度の推移となろう。

カナダ銀行は、当面、高金利政策を基本的に維持せざるを得ないであろう。来年1月には、財・サービス税導入によるインフレ圧力の高まりも懸念され、大幅な金融緩和は難しいと言えよう。



<オーストラリア経済>

オーストラリアの経済は、'89年の金融政策引き締めの影響で、景気の鈍化が深まっていると見られている。

'90年第1Qの国民所得統計では、GDPの前期比は1.8%と大幅に増加したものの、内容を見ると一過性の要因が多かったと判断できょう。特に、(1)自動車販売は、高級車税の導入直前の駆け込み需要によって急増したとと、(2)サービス部門は、パイロット・ストが終了したことで一過的に増加したこと、(3)政府部門は機械投資を中心に大幅に増加したこと等が挙げられる。一方、主な民間部門について見ると、小売売上がほぼ横這いに推移しており、設備投資、住宅投資とも昨年の高金利の影響で、引き続き落ち込んでいる。

景気の鈍化が進んでいる中、失業率が6.3%へと若干上昇している。又、当局に注目されている国際収支とインフレは、改善傾向にある。

1990年に入ってから、豪州準備銀行は、景気の鈍化を認め、金融政策緩和を徐々に実施してきた。景気、インフレ、経常収支等の動向によっては、今後さらなる実施も見込まれる。

為替について、豪ドルは最近、ファンダメンタルズの悪さにも係わらず、高金利によって堅調に推移している。金融緩和のさらなる実施により、豪ドルがやや弱含みとなることも予想される。

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