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2024年04月16日

金融分野におけるグリーンウォッシングの規制にむけて(欧州)-EIOPAと欧州保険協会の意見表明

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩

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1――グリーンウォッシング規制の全体の流れ

欧州保険・企業年金監督機構(EIOPA)が行なっている、保険・年金セクターのグリーンクレームとグリーンウォッシングの監督に関する市中協議に対し、2024年3月19日、欧州保険協会が回答1した。
 
欧州におけるグリーンウォッシュの規制全般については、さる2月20日に欧州理事会において、ある種の禁止法が採択され、今後各国の法令に反映される流れとなっている。この規制は金融の世界に限らず、全ての業界についてグリーンウォッシングによるマーケティングを禁止することで、消費者が正しい情報を得たうえで各種の製品を購買できるようにするためのものである。
 
保険・年金分野の状況についてみる前に、欧州の産業全体に関わるこの規制を簡単にみておく。この規制案においては、製品の環境や社会への影響、耐久性や修理可能性に関わる情報を、消費者に誤解を与えてはならない製品情報、とまず位置付ける。

その上で、環境に与える影響については、測定可能な目標や達成期限の計画について、独立した第三者機関による定期的な検証を受けることを必要とする。もしも客観的・明確・検証可能な要素がない場合、それは「誤解を招くマーケティング手法」とみなされ禁止される。
 
具体的な例としてあげられているのは、

・実証できない一般的な環境訴求の禁止
例えば、「環境に優しい」「自然に優しい」「エコロジカル」「グリーン」「エネルギー効率がよい」「生分解性」「バイオベース」などの表示は禁止

・製品や企業活動の一部にのみ該当する環境訴求を使って、製品全体や企業全体に関する環境訴求を行うことは禁止

・カーボン・オフセット2のみに基づいて、会社が環境への影響を軽減したと訴求することの禁止

・公的機関による承認を得ないサステナビリティに関するラベルの表示の禁止
 
このほかに、製品の耐久性に関する規則もあり、以下のようなことは禁止される(金融商品にはあまり当てはまらないかもしれない)。

・通常の使用条件下における耐用期間・強度などに関する虚偽の遡及

・必要な時期より早い段階での消耗品の交換を促すこと

・「製品の製造元以外が提供する消耗品や部品を使用すると故障する」などの虚偽の遡及

・機能性向上だけの目的のソフトウェアアップデートを、必要不可欠なものと提示すること
 
1 Joint Insurance Europe and CRO  Forum response to EIOPA’s consultation on the Opinion on sustainability claims and greenwashing in the insurance and pensions sectors
 https://insuranceeurope.eu/publications/3068/joint-insurance-europe-and-cro-forum-response-to-eiopa-s-consultation-on-the-opinion-on-sustainability-claims-and-greenwashing-in-the-insurance-and-pensions-sectors/download
(報告書の翻訳や内容の説明は、筆者の解釈や理解に基づいている。)
2 カーボン・オフセットとは、企業活動等において温室効果ガスの排出は避けられないとしても、まずその削減努力を行い、どうしても埋めきれない部分については、別の温室効果ガス削減活動に投資するなどして、埋め合わせることをいう。ここの文脈では「ごまかし」の一種のようにみられているようでもあるが、一般にも広く行われているものである。

2――保険・年金分野における動き

2――保険・年金分野における動き

さて、保険・年金分野をみても、当然こうした規制の影響を受ける。欧州では、すでにEIOPAが、グリーンウォッシングをどう規制するかについて欧州委員会から諮問を受けており、2023年11月に市中協議に入り、広く意見を求めている段階にあって、2024年5月に最終報告書が公表される予定となっている。

規制の考え方として、以下の4つの原則が挙げられている。すなわち、サステナビリティに関する商品供給者サイドの主張は

1.正確であり、かつ全体のビジネスモデルや商品と整合的であること

2.明確な根拠をもとにタイムリーに変更されるべきであり、常に最新状態にアップデートされていること

3.明確な理由があって、事実に基づいて実証できるものであること

4.その裏付けとともに、利害関係者が理解しやすいものであること
 
これに対し、3月に公表されたのが、今回紹介する欧州保険協会が公表した意見書である。内容はおおむね以下のようなものである。
 
〇規制の制定自体については賛同するが、EU全体のサステナビリティ関連法制を考慮し全体に一貫性があるようにすることが重要である。
 
〇上記の、欧州理事会でグリーンウォッシングの規制が採択される前から、EIOPA草案が示されていることから、その前後関係が心配であり、最終的には全体の整合性のある規則となることを要望する。
 
〇保険ベース投資商品(IBIPs)が保険と投資の両方の要素を兼ね備えていることを考慮すると、特に商品の命名に関して、保険サイドだけでなく、証券サイド(欧州証券市場監督機構:ESMA)との調整が必要である。
 
〇保険販売指令の保険商品・監視ガバナンスや適合性評価が既にあるが、EIOPAは監督原則のみ提示し、各国の監督当局が状況に応じて対応すべきである。
 
〇「誤解を招く表現」というのは、それぞれの保険・年金商品のセールスポイントや競争上の優位性を得る目的の部分のみチェックの対象とすべきで、一般の訴求(経営方針などのことか?)にまでは対象とすべきではない。
(筆者注:といってもグリーンウォッシングの大もとの規制がそうなっているのだから、どうしようもないと思われるが?)
 
〇一般に保険会社は、消費者に馴染みのない専門用語を用いて法的な正確性を保持できている部分がある。そこを消費者に分かりやすくするために、あえて一般用語を用いたあいまいな表現をしたりする場合もある。正確であることと、利害関係者の受入れやすさ両方を満たすように、こうしたことはどの程度認められるのかといった線引きを、ガイドラインなどとして定めておく必要があるのではないか。

3――おわりに

3――おわりに

わが国の状況をみても、近年はなにかにつけ、製品が環境に配慮したものであること、あるいは企業が環境問題に取り組んでいることがアピールされる。これまで具体的な規制のない中では、やや抽象的な企業方針の中で、部分的にでも「環境に優し」ければそれでよかっただろう。特に金融分野、保険分野では、テレビCMなどにおいて、具体的な保険商品の内容というよりは企業イメージをアピールすることが多いように思われる。

さて、上記のような欧州の動向がわが国にも起きるとすれば、これまでに比べかなり厳しい制限になるのではないかと思われる。例えばある製品やある企業が「環境に優しい」かどうかといったことは、検証が難しいことであろう。かといって技術的に検証可能なわずかな部分だけアピールしても、それは果たして消費者が知って購買を判断できるようなことなのだろうか。技術的に過ぎることになりはしないか。
 
先に述べたように、EIOPAにおいては2024年5月にグリーンウォッシングの規制に関する最終報告書を公表し、規制に関する枠組みにつき勧告を行う予定となっている。欧州においては気候変動や環境への配慮など別途検討されている規制に、またこうした規制が加わるということで、本当にうまくやっていけるのか心配になってくるが、今後の動きや我が国の同様の状況については、引き続き報告していきたい。
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保険研究部   主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任

安井 義浩 (やすい よしひろ)

研究・専門分野
保険会計・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1987年 日本生命保険相互会社入社
     ・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
     2012年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2024年04月16日「保険・年金フォーカス」)

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