NEW
2024年04月25日

欧州大手保険グループの地域別の事業展開状況-2023年決算数値等に基づく現状分析-

文字サイズ

1―はじめに

欧州大手保険グループの2023年決算数値が、2024年2月から3月にかけてプレスリリースされて、投資家向けのプレゼンテーション資料やAnnual Report等の形で公表されている。今回のレポートでは、2023年決算に関わる各社の決算数値等に基づいて、欧州大手保険グループの(生命)保険事業を中心とした地域別の事業展開の状況について報告する。

欧州大手保険グループを巡る経営環境は、世界的な金融緩和の長期化に伴う低金利環境の継続、その後の急激な金利上昇に加えて、2016年1月にスタートしたソルベンシーIIをはじめとした各種の規制強化・整備への対応、2023年1月に開始する事業年度から適用されることになった新たな保険契約会計基準IFRS第17号への対応等、数多くの課題を抱えている状況にある。さらには、気候変動、パンデミック、DX(デジタルトランスフォーメーション)等といった新たな課題への対応やサステナビリティ経営への取組等も従前以上に求められてきている状況にある。各社ともこうした環境下で、それぞれの戦略に基づいた海外事業展開の拡大・再編等を進め、収益基盤の再構築を図ってきている。

昨年の基礎研レポートでは、欧州大手保険グループの地域別の事業展開状況について、2022年決算数値等に基づく現状分析を報告した1

これまでの基礎研レポートでも述べてきたが、以下の報告においては、例えば、分析用に開示されている保険料や保険収益等の収入指標や営業利益2のベースや地域別の区分の考え方が、各社によって異なっており、各社の公表データのベースも必ずしも統一されていない。さらに、セグメント情報の提供において、必ずしも生命保険事業と損害保険事業を区分していない会社もあり、各種の規制の動向等も踏まえて、これまでとは異なる経営指標や評価基準に基づく開示内容に変更してきている会社もある。

特に、2023年からは新たな保険契約の国際会計基準であるIFRS第17号が適用になったことから、各社とも2022年決算数値を含めて、新たな会計基準に基づく数値を報告してきている。例えば、これまで各社とも収入の主要な基礎数値として「保険料(Gross Written Premium)」を開示してきたが、これに代わって、主として「保険収益(Insurance Revenue)」に基づいた情報を開示してきている3(ただし、例えば、地域別内訳は引き続き保険料のみで行っている会社もある)。さらには、新たに、将来利益の現在価値に相当する「CSM(Contractual Service Margin:契約上のサービスマージン)」の残高等の情報を提供してきているが、これについてもグループ全体の数値のみで、地域別には開示していない会社も多い。

以上のような理由から、今回の分析については、各種制約下で、各社間比較等も必ずしも十分なものとはなっていないが、筆者の判断で各種前提を置いて、一定比較可能と思われる数値を作成して分析を行っている。そのため、各社がそれぞれの考え方に基づいて開示している地域別の事業状況等の数値が、このレポートで筆者が独自に採用したベースとは必ずしも一致していないケースもあることを述べておく。

なお、今回のレポートは、あくまでも地域別の事業展開に焦点を当てており、新契約実績や収益状況等の詳細については、別途のレポートで報告する。
 
1 なお、2023年末のソルベンシーの状況については、筆者による、基礎研レポート「欧州大手保険グループの2023年末SCR比率等の状況-ソルベンシーII等に基づく数値結果報告と資本管理等に関係するトピック-」(2024.4.3)を参照していただきたい。
2 各社のKPI(重要業績評価指標)となっている「営業利益」についても標準的な用語や定義はない。各社によって、Operating Profit、Operating result、Underlying Earnings等と英語の名称が異なるものを、(必ずしも正確ではなく、厳密な意味での同等な比較にはなっておらず、また本来的には「基礎利益」等と表現することがより適切なケースもあるかもしれないが)以下では、基本的には「営業利益」との表現で使用している。なお、IFRS第17号の適用により、さらに各社によって、営業利益に何を含めるか等の取扱いが異なっている可能性がある。
3 IFRS第17号では、企業が受け取った保険料を受取り時に「保険料」として計上するのではなく、保険契約に基づくカバーその他のサービスの提供と交換に企業が権利を得ると見込まれる対価を反映した金額を「保険収益」として報告する。さらに、保険収益からは、保険契約者の投資要素を除くことが求められている。

2―欧州大手保険グループの各社間比較

2―欧州大手保険グループの各社間比較-全体の業績と地域別業績について-

欧州大手保険グループとしては、欧州の主要国を代表する保険グループとして、AXA(フランス)、Allianz(ドイツ)、Generali(イタリア)、Aviva(英国)、Aegon(オランダ)4、Zurich(スイス)の6社を対象にしている。さらには、Prudentialについては、2019年10月に、アジアと米国における保険事業を展開するPrudential plcと欧州における保険事業と投資管理事業を展開するM&G plcに分割され、さらに2021年9月には米国子会社だったJackson Nationalも完全に分離されているが、Prudential は引き続き世界を代表する保険グループとして重要なポジションを有しているので、今回のレポートの対象として加えている(以下、このレポートでは、Prudentialを含めて、欧州大手保険グループと称している)。

これらの7社は、IAIS(保険監督者国際機構)によるIAIG(Internationally Active Insurance Group:国際的に活動する保険グループ)に指定されており、文字通り「国際的に有意なレベルで保険事業活動を展開している保険グループ」となっている5

なお、このレポートにおける以下の図表の数値は、特に断りがない限り、各社の公表資料に基づいている。
 
4 AegonのGWS(グループ監督者)は、2023年10月から、BMA(バミューダ金融管理局)となっており、その意味ではバミューダの会社になっているが、本社はオランダのままでオランダの税務居住者でもあることから、ここではオランダの会社としている。
5 なお、M&G plcもIAIGに指定されているが、その数値等については、Prudentialの報告において、触れている。
1|会社全体の業績
以下の図表は、欧州大手保険グループの保険収益等(保険収益又は保険料)と営業利益の事業別内訳を示している。

これからわかるように、今回報告の対象としている欧州大手保険グループは、生命保険事業と損害保険事業を展開し、さらにいくつかのグループは資産管理事業も大きな位置付けを占めるようになってきている。ただし、グループ全体における生命保険事業と損害保険事業等のウェイトは、会社毎に異なっており、例えばAegonの場合、損害保険事業のウェイトは限定されている。

以下の分析では、(生命)保険事業に焦点を当てて、各社の数値比較等を行っていくこととするが、例えばZurichの「Farmers」については分析の対象に含めていない。また、比較のため、各社が採用している経営指標等の数値に関わらず、営業利益に関しては基本的には「税引き前」ベースに相当する数値を使用している。
欧州大手保険グループの生命保険・損害保険等の事業別内訳(2023年)
以下の図表は、各社がグループ全体の指標として提示しているROE(Return on Equity:資本収益率)の状況を示している。このROEの数値の算出方法等についても、各社間で統一されているわけではないが、あくまでも会社によっては経営目標の1つとなって、その達成の有無が取締役の報酬等にも関係する項目となっているので、参考として掲載しておく。
欧州大手保険グループのROE(資本収益率)
ROEについて、Generali以外の各社がグループ全体の数値を開示している。生命保険事業以外のウェイトもかなり高い4社のうち、AllianzとAvivaが生命保険事業の数値も公表している。

これによれば、2023年の各社のグループ全体のROEは14%以上となっている。2022年との比較では、各社ともほぼ水準が上昇している。

2|保険事業の地域別業績
ここでは、各社のセグメント情報に基づいて、保険事業に関する保険収益等と営業利益の地域別内訳を見ている6,7
 
6 地域区分は、基本的に引受会社の所属国に基づいている。
7 2023年.において、会社によっては、地域別のセグメントの変更や算出方法等の変更を行っているケースもある。
2-1.保険収益等の状況
まずは、保険収益等(保険収益又は保険料)の地域別内訳を見てみる。先に述べたように、これまで各社とも収入の主要な基礎数値として「保険料(Gross Written Premium)」を開示してきたが、IFRS第17号の適用に伴い、これに代わって「保険収益(Insurance Revenue)」での内訳を開示してきている。ただし、Generaliについては、保険収益の地域別の内訳を開示していないため、従前の保険料を使用している。

(1) 2023年の結果
これによれば、各社毎に状況は異なっているが、各社とも自国(親会社国)以外からの保険収益等が一定の規模を有しており、自国以外での事業が大きな位置付けを有している。なお、Avivaの場合、欧州大陸での事業の売却により、欧州事業は英国&アイルランドで展開されている。Aegonはオランダの事業をa.s.r.(以下、ASRと記載)に移管しており、現在はこの会社の持分を所有しているのみであるので、以下の図表にはオランダの事業は反映されていない。

各社の地域別の構成比の概要は、以下の通りとなっている。

AXAは、生損保の合計で、自国のフランスが26%、フランス以外の欧州が37%、米州が22%、アジア・太平洋が13%となっている。

Allianzの生保は、自国のドイツで42%、ドイツ以外の欧州で34%となっているが、米国中心の米州やアジア・太平洋も1割程度と有意な水準となっている。一方で、損保では、「その他」に国際部門や再保険の数値が含まれていることから、その割合が21%と高くなっている。

Generaliの生保は、自国のイタリアが36%、イタリア以外の欧州で50%と高くなっており、欧州以外の構成比は14%に留まっている。一方で、損保では、よりグローバルに分散してはいるが、イタリアは28%で他社に比べて相対的に高い水準となっている。

Avivaは、基本的には英国&アイルランド以外の欧州事業を売却しているため、英国&アイルランドから構成される欧州の合計が78%、カナダの損保事業である米州が22%となっている。

Aegonは、オランダの保険事業をASRに売却した結果、英国を含む欧州は6%となっており、米国及び中南米8を含む米州が91%と、かなり高い水準になっている。

Zurichの生保は、自国のスイスが12%、スイス以外の欧州が42%であるのに対して、中南米を中心とした米州が26%、アジア・太平洋も21%で、これらの2つの地域における構成比が他社に比べて高くなっている。一方で、損保は、スイスが9%、スイス以外の欧州が32%、アジア・太平洋が8%であるのに対して、米州が55%とかなり高い水準になっている。

保険収益等という指標で見た場合、アジア・太平洋の構成比は、近年上昇傾向にあり、AXAとZurichの生保では1割を超える水準で、Allianzの生保とGeneraliの生保においても1割程度になっている。
欧州大手保険グループの保険収益等の地域別内訳(2023年)
 
8 このレポートでは、厳密に言えば正確ではないが、「ラテンアメリカ(Latin America)」につき、「中南米」と称している。

(2) 2022年との比較
基本的には保険収益等の進展が収益の拡大に結びついていくものとなっているため、その(報告数値ベースでの)2022年との比較を見てみると、以下の図表の通りとなっている。

各社とも事業地域の再編等を行っていることもあり、前年との単純な比較が難しくなっている。また決算数値を前年と比較する場合においては、為替レートの変化による影響も小さくないことに注意が必要になる。そのため、多くの会社が、Annual Report等の業績説明においては、同等ベース(連結範囲・為替等を一定)とした場合の進展率の数値等で説明を行っている。
欧州大手保険グループの保険収益等の地域別内訳(2022年から2023年に向けての増加額と進展率)
Xでシェアする Facebookでシェアする

中村 亮一

研究・専門分野

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【欧州大手保険グループの地域別の事業展開状況-2023年決算数値等に基づく現状分析-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

欧州大手保険グループの地域別の事業展開状況-2023年決算数値等に基づく現状分析-のレポート Topへ