2022年03月22日

ミャンマーの生命保険市場(2020年)

保険研究部 上席研究員 兼 気候変動リサーチセンター 気候変動調査部長 有村 寛

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1―はじめに

ミャンマーは、南北2000キロ、東西925キロに及ぶ国土を有し、67万6577平方キロ(日本の約1.8倍)の面積を持つ、インドシナ半島最大の国である。人口は5441万人、GDPは約838億米ドル、一人当たりGDPは1413ドルとなっている。

首都はネーピードーで、人口は約50万人である。なお、人口最多のヤンゴンの人口は約515万人である。主要民族は人口の約7割を占めるビルマ族で、その他多くの少数民族が存在する。

1962年以降、軍事政権下にあったが、1997年のASEAN加盟後も欧米から経済制裁を受ける等、国際社会からも半ば孤立した状態が続き、経済発展も他のASEAN諸国に比べて遅れていたが、2015年の総選挙で、2016年に、アウン・サン・スー・チー氏率いる国民民主連盟(NLD)による政権が発足、民主化の進行とともに、経済も順調に発展し、「アジア最後のフロンティア」として諸外国からも高い注目を浴びていた。

2020年11月の総選挙で、NLDが圧倒的勝利を収め、今後、より一層の民主化が予想されたが、そういった中、2021年2月1日、ミャンマー国軍によるクーデターが勃発、状況が一転した。スー・チー氏はじめとする政権幹部が拘束され、ミン・アウン・フライン国軍総司令官が立法・行政・司法の全権を掌握しており、直近でも企業撤退も相次ぐ等、先が見通せない混沌とした状況が続いている。

生保市場については、経済の発展が遅れていたこともあり、未発達で、2020年時点の浸透率(GDPに対する生保収入保険料の割合)は0.05%と、他のASEAN諸国と比べても著しく低い。統計も整備されておらず、限られた情報の中ではあるが1、ミャンマーの生保市場につき、概観することとしたい。
 
1 ミャンマーの保険事情については、独立行政法人国際協力機構(JICA)、SOMPOリスケアマネジメント株式会社「ミャンマー連邦共和国民間保険分野に係る情報収集・確認調査ファイナル・レポート」2017年6月に、詳細に紹介されている。当レポート執筆にあたっては、上記ファイナル・レポートに加え、特に直近の状況やデータについては、AXCO Insurance Services “LIFE AND BENEFITS INSURANCE MARKET REPORTS”(Update October 2021) を幅広く参照している。

2―ミャンマーの生保市場概況

2―ミャンマーの生保市場概況

ミャンマーでは、1962年の軍事クーデターに伴い、翌1963年のすべての外国保険会社の国有化等を経て、国営保険会社による独占体制が続いた。

1996年、ミャンマー保険業法(The Insurance Business Law)が公布され、民間保険会社の設立、保険監督理事会(Insurance Business Supervisory Board) 2の設置が規定された。その後、2012年、民間保険会社12社の設立が承認され、国営保険会社の独占体制が終了し、2019年に外国保険会社5社(AIA、チャブ、英プルデンシャル、第一生命、マニュライフ)が100%子会社にて、3社(太陽生命、タイライフ、日本生命)が現地企業との合弁会社の形で認可されている。

2020年における生保浸透率(GDPに対する生保収入保険料の割合)は0.05%、一人当たり保険料は0.72ドル(2020年)と近隣諸国と比較しても著しく低い(表1)。
【表1】主なASEAN諸国の生命保険浸透率(2020年)
AXCO Insurance Servicesによれば、2020年の収入保険料(暫定値)は、生命保険527億5631万チャット(約35億円)、損害保険3110億7475万チャット(約206.5億円)となっており、損害保険の方がかなり大きい。

経済成長に伴い、生命保険の収入保険料も対前年比で大幅な増加が続いていたが、2020年は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大による実質GDPの対前年増加率の急減に伴い、収入保険料も対前年マイナス(▲7.1%)となった(表2)。
【表2】ミャンマーの生保収入保険料の推移
 
2 保険監督理事会は、2014年に保険事業規制理事会(Insurance Business Regulatory Board)に名称変更している。

3―収入保険料の内訳

3―収入保険料の内訳

ミャンマーでは、保険関係の統計は整備されておらず、具体的な商品ごとの販売動向は把握できないが、AXCO Insurance Servicesによれば2018年の生命保険会社の収入保険料合計の内訳は、(1)団体生命保険、(2)個人生命保険、(3)傷害・医療保険、(4)その他の割合は、(1)77.0%、(2)5.0%、(3)17.1%、(4)0.9%となっている(表3)。具体的な取扱商品は、保険会社によって異なるが、生命保険、養老保険、学資保険、医療保険、傷害保険等3があげられる。
【表3】生保収入保険料内訳(2018年)
 
3 小林直人「ミャンマーの保険事情」『保険・年金フォーカス』2019年7月16日では、国営のミャンマー保険と民間生保11社が、2019年にミャンマー初で取り扱いを開始した学資保険の概要について、また、同「ミャンマーの保険商品-健康保険の内容-」『保険・年金フォーカス』2020年7月21日ならびに同「ミャンマーの保険商品-健康保険の申込書の健康状態等に関する質問内容-」『保険・年金フォーカス』2020年9月4日では、健康保険の商品概要、告知書の記載内容について紹介している。

4―販売チャネル

4―販売チャネル

保険販売は、保険会社の社員を通じて直接、もしくは保険代理店を経由して行われている。2019年には保険代理店として2000人が認められていたとの情報もあるが、そのうち活動しているのはわずかである模様。保険業法上は保険ブローカーも認められているが、現在、保険ブローカーは存在しない。

5―競合状況

5―競合状況

先述の通り、国営のミャンマー保険が長らく市場を独占していたが、2012年に民間保険会社12社の設立が承認された。現在では、国営のミャンマー保険、国内生命保険会社8社、外国保険会社の100%子会社5社(AIA、チャブ、英プルデンシャル、第一生命、マニュライフ)、外国保険会社(太陽生命、タイライフ、日本生命)との合弁会社3社の計17社が生命保険事業を営んでいる。

個々の保険会社の市場シェアに関する公式な統計は存在しないが、国営のミャンマー保険とAung Myint Moh Min Insurance Companyの2社で市場シェアの大半(2018年実績では85%以上)を占めているようである。

6―おわりに

6―おわりに

ミャンマーは、ほぼ1年前までは安定的に高水準での経済成長を続ける中、「アジア最後のフロンティア」と言われ、日本も官民一体となって支援を表明4する等、諸外国からの期待も大きかったが、クーデター発生により状況が一変してしまい、現在でも先が見えない状況が続いている。

各種報道の通り、日本を含めた海外企業の市場からの撤退も続いており、この状態が長引けば、再び経済が停滞する懸念も考えられる。日本の保険会社からの進出も少なくない中、状況については、引き続き、注視していきたい。
 
4 小林直人「ミャンマーの保険事情(その後)」『保険・年金フォーカス』2020年2月28日では、日本が官民一体となって策定した「ミャンマー保険セクター支援計画: COMPASS for the Future of Myanmar's Insurance Sector」の進捗報告書を日本からミャンマーへ手交したことが紹介されている。
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保険研究部   上席研究員 兼 気候変動リサーチセンター 気候変動調査部長

有村 寛 (ありむら ひろし)

研究・専門分野
保険商品・制度

(2022年03月22日「保険・年金フォーカス」)

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