2021年11月25日

北米・英国の子どもの誕生日パーティー事情-お子さんの誕生日会はいくらかかりましたか?-

生活研究部 研究員 廣瀨 涼

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1――洋画でよく見る光景

先日誕生日を迎え、また一つ歳をとった。永遠に若くいられないこと自体は残念ではあるが、誕生日という特別な日は何歳になってもうれしいモノである。筆者自身、海外留学経験や、北米への強い憧れから海外かぶれなこともあり、誕生日というと、アメリカの子どもたちの盛大な誕生日文化を想起する。読者の中にも、海外ドラマや洋画で、子どもたちの誕生日をゲームセンターやレストランを貸し切ったり、ピエロやエンターテイナーを呼んで盛り上げたりといったシーンを見たことがある人がいるのではないだろうか。あれは決して画面の中の誇張された出来事ではなく、実際に特に北米において、子どもの誕生日は重大なイベントとして位置づけられており、盛大に祝われているのである。

2――子どもの1回の誕生日パーティーにかかる費用はいくらなのか

2――子どもの1回の誕生日パーティーにかかる費用はいくらなのか

北米の育児情報サイトであるBabyCenterが5,000人以上の保護者を対象とした調査1によると、1歳の赤ちゃんの誕生日パーティーにかける金額は、50ドル以下から500ドル以上まであり、その内61%が200ドル以下、25%が200ドルから500ドル、11%が500ドル以上の予算を使っていたという。元々主に北米においては16歳のスウィート・シックスティーンをはじめ、18歳、21歳、50歳の誕生日にはマイルストーンイベント2が開催されているが、1歳の誕生日もそれらのイベント同様に重要な位置づけとなりつつある。例えば2020年の夏にはニューヨークのパーティー企画会社ClafoutisによってワシントンDCの歴史的建造物であるアンダーソン・ハウスで1歳を祝うパーティープランが企画され、生花で花冠を作るブース、パントマイム、クレープステーション、敷地内の池で子どもたちが遊べる電動ミニボート、バルーンアーティストなど総額が10万ドル(1,000万円以上)を超えたという例もある3。これは特殊な例ではあるが、同社の一般家庭向けの誕生日パーティーパックは$6,000(日本円で約60万円)が最低価格であり、一般家庭においても高い費用を払ってでも豪華なパーティーを企画したいと思う保護者のニーズがあることを垣間見ることができる。

他の調査も観てみよう。英国のソーシャルマネーアプリPingitが、1歳から18歳までの子どもを持つ親2,000人を対象に行った「誕生日パーティー費用の調査」によると、1歳の誕生日パーティーに平均して207ポンド(約32,000円)、5歳と10歳のパーティーでは160ポンド前後(約25,000円)、スイート・シックスティーンでは198ポンド(約30,000円)の費用をかけていたという。同調査によると、子どもの誕生日のための新しい洋服、装飾、パーソナライズされたケーキなどの準備のために、両親は通常、平均3カ月間貯金をしていることもわかっている4

また英国の節約情報サイトのvouchercloudが、18歳以上の英国人2,104人のうち、4歳から10歳までの子どもがいると答えた人を対象とした、「子どもにかけるお金の額について」の調査5,6によれば、3分の2以上の親が、毎年子どもの誕生日パーティーを開いていることが明らかになっており、平均的な誕生日パーティーの費用は320.50ポンド(約50,000円)で、さらに誕生日プレゼントに175.80ポンド(約27,000円)が費やされていることがわかっている。単純計算でもパーティーの費用と誕生日プレゼントの総額は496.30ポンド(約77,000円)にもなる。なお調査対象の88%がパーティーを開く動機として、「子どもがパーティーが好きだから」、44%が「子どもがパーティーをしたいと言ってきたから」、38%が「子どもがより多くのプレゼントをもらえるから」と回答している。

北米の投資運用会社T. Rowe Price が8歳から14歳の子どもを持つ親1,086人に行った「Parents, Kids&Money Survey(2016)」7,8では「子どもの誕生日パーティーで、過去12カ月に親がいくら使ったか」聞いたところ、対象者の33%が100ドル以下、26%が100~199ドル、18%が200~299ドル、23%が300ドル以上支払っていたことがわかっている。更に、「子どもの誕生日プレゼントに過去12カ月間にどれくらい使ったか」という項目においては31%が100ドル以下、28%が100~199ドル、17%が200~299ドル、24%が300ドル以上となっている。

では、子どもたちが大人になるまでにかかる誕生日パーティーの費用はどのくらいになるのだろうか。英国スーパーマーケットチェーンのASADが行った調査9によると、平均的な英国の親は21歳までの子どもの誕生日パーティーに28,000ドル(約320万円)もの大金を費やしているという。養育費や学費以外にこれだけの金額が使われていると考えると、北米や英国の親は大変だなと、感じてしまうのは筆者だけだろうか。
 
1 Dana Dubinsky “Celebrating your baby's first birthday”, Baby Center,2019/01/11 https://www.babycenter.com/family/birthdays/celebrating-your-babys-first-birthday_1493204
2 重大なイベントの事。日本では20歳(成人式)がマイルストーンイベントとして位置づけられる。
3 Alisa Wolfson “Some toddler birthday parties now cost as much as weddings. Parents are dropping hundreds of thousands — because their kids only turn 3 once.” 2020/01/29
https://www.businessinsider.com/wealthy-parents-spend-weddings-instagram-perfect-kid-birthdays-2020-1
4 Heart Radio(Global Media & Entertainment Ltd) “New parents spend over £200 on their kid’s first birthday party, research reveals”2020/06/11
https://www.heart.co.uk/lifestyle/parenting/200-kids-first-birthday/
5 vouchercloud “The Average British Child’s Birthday Party Costs Over £320”
https://www.vouchercloud.com/resources/cost-of-childrens-parties
6 NAOMI GREENAWAY “ Parents admit they spend an average of £320 on their child's birthday party - and that's before the £175 splashed on a gift”, MAILONLINE, 2016/01/19
https://www.dailymail.co.uk/femail/article-3406274/Parents-admit-spend-average-320-child-s-birthday-party.html
7 T. Rowe Price “Parents Show No Reluctance To Overspend On Kids But Are Reluctant To Discuss Money With Them” 2016/03/29
https://www.troweprice.com/corporate/jp/en/press/t--rowe-price--parents-show-no-reluctance-to-overspend-on-kids-b.html
7 T. Rowe Price “2016 Parents, Kids and Money Survey Results”,slide10-11.
https://www.slideshare.net/TRowePrice/2016-parents-kids-and-money-survey-results-59896270
8 Nicole Lyn Pesce “You won’t believe how much money parents are now spending on their kids’ birthday parties”, MarketWatch, 2017/07/17.
https://www.marketwatch.com/story/you-wont-believe-how-much-money-parents-are-now-spending-on-their-kids-birthday-parties-2017-07-17-1088523

3――日本の誕生日会は?

3――日本の誕生日会は?

では、日本の家庭では子どもの誕生日会にいくら費やすのだろうか。米国や英国と比べて調査自体が少ないためあくまで参考値ではあるが、育児情報サイト「あんふぁん」10が読者150人を対象とした「誕生日会の規模」の調査11をみると、全体の82%が家族だけで祝うと回答しており、友達を招待する家庭は18%であった。そのため、開催するパーティー自体も北米や英国と異なり、ピエロや過度な装飾も必要もないことから、“0~3,000円”が25%、“3,001~5,000円”が42%、“5,001~10,000円”が27%、10,001~15,000円“が6%と、5,000円代が最も多い。また、株式会社ベネッセコーポレーションが1,323人を対象にした「家族のお祝いとは別に「誕生会」をしますか?」という調査12では、全体の92%が友達と誕生日会を開催しないと回答している。
図1 家族のお祝いとは別に「誕生会」をしますか? (N:1,323, 単位%)
この背景には、「共働きの家庭が増えた」、「放課後は習い事や塾などで友達同士が集まりづらくなった」など、家庭(生活)環境が要因にあると考えられるが、そもそも私たちの生活を振り返った時、あなたは年間何回のホームパーティーを開催しているだろうか?私自身は全く開くことはないし、呼ばれることもない。読者の皆さんもそうではないだろうか。そうです。我々日本人はホームパーティー慣れしていないのだ。例えば北米ではクリスマス、感謝祭、復活祭などのイベントはもちろん、幼少期からSlumber party(パジャマパーティ)や、教会や地域コミュニティでのPotluck party(持ち寄り型パーティー)、両親が不在の時の羽目を外しすぎるホームパーティーなど、パーティーを開くという文化の中で子どもたちは育っていく。また、その親も日々の生活の中でパーティーをしながら育ってきたのである。家庭環境の違いはもちろんあるが、パーティー慣れをしているか、いないかという文化の違いが大きな要因なのである。
 
10 幼稚園で配布されているフリーマガジンであるため、主な読者層は3~6歳児をもつ保護者である。
11 あんふぁんWeb「子どもの誕生日、友だち招待派は2割以下!? 費用1万円以上は少数派!?」2015/11/09
https://enfant.living.jp/mama/mamnews/hayashimika/305530/
12 株式会社ベネッセコーポレーション「92%が「誕生日会」を友達とはやらない、と回答」2009/03/19
https://benesse.jp/kyouiku/200903/20090319-2a.html

4――なぜ子どもは豪華な誕生日パーティーを開きたいのか

4――なぜ子どもは豪華な誕生日パーティーを開きたいのか

もちろん、保護者の子どもの誕生日を祝いたいという気持ちが大前提にあるが、それ以外の要因もあると筆者は考える。まず、子どもにとっては「プレゼントをたくさんもらえる」、「豪勢な方が楽しい」といった直接的な効用が動機にあるのは確かであるが、誕生日パーティーの質が自身のスクールカーストの階層に直結するため、人より豪華に、人より楽しいパーティーを開きたいと考える子どもも多いのではないかと、筆者は考える。残念ながら日本にもイケてるグループとイケていないグループといった形でスクールカーストと呼ばれる学校内やクラス内における人気の序列が存在している。しかし、特に北米におけるスクールカースト(英語ではSchool clique)はより顕著なもので、カーストが上位であるほど学校生活は充実したものとなり、カーストが下の者ほどイジメの対象となってしまう。Jock(ジョック)と呼ばれるアメフトやバスケットボールのスター選手が学校の中心で、Queen bee(クイーン ビー)と呼ばれるチアリーダーやお洒落な女の子がその周りにいて、Nerd(ナード)やTarget(ターゲット)と呼ばれる人気のない学生が彼らにいじめられるという、学校内の人間関係模様を洋画やドラマで見たことのある読者もいるのではないだろうか。子どもたちにとっては、如何に人気者と仲良くするか、如何に自分をイケてるやつだと他の生徒たちにアピールできるかが重要であり、誕生日パーティーはこれをアピールできる絶好の機会なのである。従って、人気者ほど呼ばれる誕生日会の数は多く、誕生日会のクオリティを比較することができるため、子どもたちは人気者にアピールできるように他の子どもよりもいっそう豪華に、楽しいパーティーを開催することを親にねだる。また、親世代にとっても自身も同様の経験をしてきたことであり、子どもの気持ちがわかることから、極力叶えてあげたいと思うわけである。

5――なぜ親は豪華な誕生日パーティーを開きたいのか

5――なぜ親は豪華な誕生日パーティーを開きたいのか

一方で親起点でも豪華な誕生日パーティーが増えているようである。前述したPingitの調査によれば、調査対象の多くがソーシャルメディア(30%)、家族(25%)、有名人(18%)といった他人からの影響を受けていることを認めている。また全体の約20%は、ソーシャルメディアのインフルエンサーや有名人が主催するパーティーを真似しようとしたことを認め、10%は他の親よりも優れたパーティーにしようとしたことがあると答えている。子どもたちのパーティーを開くこと自体がSNSに投稿する目的になっており、子どものためのパーティーというよりも、ママ友や親戚にどれほど素晴らしいパーティーを開くことができたかをアピールするための、親自身の承認欲求充足の場となっているのである。特に昨今の北米においてはSNSにアップされていなければ、何も起こっていないのと同様」という消費文化が日本よりも強く定着してきており、誕生日というイベントは様々な産業を巻き込む一大マーケットとなっているのである。従来のように友達と家でケーキやピザを食べたり、ピザショップやゲームセンターを貸し切ったりといったシンプルな誕生日パーティーは、Amazonのおかげでより豪華な装飾品が揃い、Instagramのおかげで競い合う場の対象となり、更にパーティープランナーのおかげで家庭“的”から手が離れ、セレブ達が開くようなGALA(セレブリティが集結するパーティー)のように煌びやかに、遂には子どもを祝うという本質から離れた空虚なモノへと変化しているのである。そのため、前述したアンダーソン・ハウスで開かれた1歳児の誕生日パーティーのように、子ども自身にとっては価値が全く分からず、将来的にも全く覚えていないと思われる誕生日パーティーが競い合うように開かれているわけである。(親自身にとっても子どもの誕生日は、親になってから〇年という記念日であるため、自身を労う意味で開かれているならばそれを否定する気はない。)

米国労働統計局によると、ミーティング、コンベンション、イベントプランナーの雇用は、2020年から2030年にかけて18%成長すると予測されており13、ますますパーティープランナーの需要は高まっていくと思われる。一方で、このような豪華な誕生日パーティーが「普通」へと変化していく中で、誕生日パーティーを開くことにストレスやプレッシャーを感じている消費者がいることも確かである。前述したvouchercloudの調査においても「毎年子どもの誕生日パーティーをしていない」と回答した35%の調査対象全員にその理由を尋ねたところ、47%が「毎年パーティーを準備するのは大変だから」、41%が「お金をかける余裕がないから」と、多くの者が誕生日パーティーを開くこと自体に大きな負荷がかかっていると回答している。もちろん、全ての家庭が何十万円もかけて誕生日パーティーを開いているわけではないが、一部には異常すぎるほど豪華な誕生日パーティーが開かれているという事実もあり、もし自身の子どものコミュニティの中にそのような家庭で育った子どもがいるとしたら、間違いなく子どもたちの「憧れの誕生日パーティー」の基準は引き上げられてしまうだろう。同調査によると、回答者全体の71%が、「来年はいつもより費用を抑えよう」と考えてはいるものの、その内81%は、「自分の子どもに友達と比べて最高のパーティーをさせたい」と考えているため、家庭のお財布事情とは裏腹に、この「誕生日パーティー文化」はより拡大していくだろう。
 
13 “Occupational outlook handbook -Meeting, Convention, and Event Planners” ,U.S. Bureau of Labor Statistics, United States Department of Labor https://www.bls.gov/ooh/business-and-financial/meeting-convention-and-event-planners.htm#tab-1 (2021/11/18閲覧)
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生活研究部   研究員

廣瀨 涼 (ひろせ りょう)

研究・専門分野
消費文化、マーケティング、ブランド論、サブカルチャー、テーマパーク、ノスタルジア

経歴
  • 【経歴】
    2019年 大学院博士課程を経て、
          ニッセイ基礎研究所入社

    【加入団体等】
    ・経済社会学会
    ・コンテンツ文化史学会
    ・余暇ツーリズム学会
    ・コンテンツ教育学会
    ・総合観光学会

(2021年11月25日「基礎研レター」)

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【北米・英国の子どもの誕生日パーティー事情-お子さんの誕生日会はいくらかかりましたか?-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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