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- 数学記号の由来について(7)-三角関数(sin、cos、tan等)-
はじめに
第1回目は、四則演算の記号(+、-、×、÷)の由来について、第2回目は、数字の関係を表す記号(=、≒、<、>等)について、第3回目は、集合論で使用される記号(∩、∪、⊂、⊃等)について、第4回目は、論理記号(∀、∃、∴、∵等)、第5回は、べき乗(an)、平行根(√) 等、第6回目は、無限大(∞)、比例(∝)、相似(∽)等について報告した。
今回は、前回の研究員の眼で三角関数(sin、cos、tan等)の説明をしたので、その記号の由来等について報告する。なお、三角関数(sin、cos、tan等)のそれぞれの定義等については、研究員の眼「「三角関数」って、何でしたっけ?-sin(サイン)、cos(コサイン)、tan(タンジェント)-」(2020.9.8)を参照していただきたい。
1 主として、以下の文献を参考にした。
Florian Cajori「A History of Mathematical Notations」(1928、1929)の冊子の再発行版(2012)(Dover Publications,Inc)
「sin」(正弦)記号の使用及び由来
この「sin」という記号については、Cajoriによれば、1583年にデンマークの数学者であるトーマス・フィンケ(Thomas Fincke)がその著書「Geometria rotundi」で、「sin.」と短縮を示す意味での「.(ピリオド)」付きで使用しており、これが最初の三角関数の略語の使用であるとしている。その後、1624年に計算尺の発明で知られる英国の数学者であるエドマンド・ガンター(Edmund Gunter)がガンター尺を表す図の中で「sin」というピリオド無しの記号を使用したとされるが、同じ年に発行された彼の論文ではこの記号は使用されなかったとのことである。結局、1632年に、以前の研究員の眼「数学記号の由来について(1)-四則演算の記号(+、-、×、÷)-」において、「×」の記号を最初に使用した等として紹介してきたウイリアム・オートレッド(William Oughtred)が、その著書「Addition vnto the Vse of the Instrvment called the Circles of Proportion」の中で「sin」を使用し、これが最初の使用だと言われているようだ。
「cos(コサイン)」(余弦)記号の使用及び由来
この「cos」という記号については、先のトーマス・フィンケ(Thomas Fincke)の「Geometria rotundi」では、「cos.」ではなく、「com.」が使用されていた。1674年には、英国の数学者であるジョナス・ムーア(Sir Jonas Moore)が「Mathematical Compendium」で「Cos.」を使用し、サミュエル・ジーク(Samuel Jeake)が「cos.」を使用したとされる。
Cajoriによれば、「cos」を最初に使用したのは、1729年にレオンハルト・オイラー(Leonhard Euler)が「Commentarii Academiae Scient. Petropollitanae, ad annum 1729」においてである、とされているようだ。
「tan(タンジェント)」(正接)記号の使用及び由来
この「tan」という記号についても、先のトーマス・フィンケ(Thomas Fincke)が同じその著書「Geometria rotundi」で、「tan.」と「.(ピリオド)」付きで使用していた。 その後、ウイリアム・オートレッド(William Oughtred)が、その著書「The Circles of Proportion」の中で「tan」を使用し、これが最初の使用だと言われているようだ。
なぜ、日本語で「正弦」、「余弦」、「正接」と呼ばれるのか
なお、x軸の正の部分と反時計回りになす角をθとしたとき、その中心角θが切り取る弦(実際には弦の半分(半弦)、以下同様)を「正弦」、θの余角(90°-θ)によって作られる弦を「余弦」といい、中心角θによって切り取られる接線の長さを「正接」ということになる(以下の左図の通り)。
「sec(セカント)」(正割)記号の使用と由来
「sec(セカント)」は、切る、分ける、という意味を有する「secant」からきている。
この「sec」という記号については、トーマス・フィンケ(Thomas Fincke)の「Geometria rotundi」では、「sec.」と「.(ピリオド)」付きで使用されていた。その後、ウイリアム・オートレッド(William Oughtred)が、その著書「The Circles of Proportion」の中で「sec」を使用し、これが最初の使用だと言われているようだ。
「csc又はcosec(コセカント)」(余割)記号の使用と由来
この「csc(コセカント)」については、トーマス・フィンケ(Thomas Fincke)の「Geometria rotundi」では、「sec.com」が使用されていた。その後、「cosec.」や「cosec:」といった表記も使用されたが、「csc」の最初の使用は1881年になってからのようだ。
「cot(コタンジェント)」(余接)記号の使用と由来
この「cot(コタンジェント)」については、トーマス・フィンケ(Thomas Fincke)の「Geometria rotundi」では、「tan.com」が使用されていた。その後、「Cot.」や「cot.」といった表記も使用されたが、「cot」の最初の使用は1758年になってからのようだ。
逆三角関数記号の使用と由来
逆三角関数の記号については、1729年にダニエル・ベルヌーイ(Daniel Bernoulli)が「Comment. acad. sc. Petrop」の中で、arcsineに対して「AS」を使用した。さらに、レオンハルト・オイラー(Leonhard Euler)が1736年にarctangentに対して「At」を、1737年にarcsineに対して「A」を使用する等、その後も異なる数学者等がいろいろな記号を使用した。
Cajoriによると、最初に「-1」を導入したのは、1813年に英国の数学者であるジョン・フレデリック・ウィリアム・ハーシェル(John Frederick William Herschel)によってだった。完全な脚注が「cos-1e」のような使用の説明を行っていた。さらに、フランスにおいてJules Houëlが「arcsin」を使用した。
なお、1914年のジョージ・ウェントワース(George Wentworth) とデビッド・オイゲン・スミス(David Eugene Smith)による「Plane Trigonometry」の中では、「米国や英国の本では、記号sin-1 yが一般的に使用されている。欧州大陸では、arcsin yが使用されている。」と記述されている。
最後に
三角関数の記号については、基本的にはその意味する用語の略語から来ているので、比較的理解しやすいかもしれない。ただし、そうした三角関数の記号であっても、現在の記号に定着するまでには、一定の変遷を経ていることがわかった。当初は、短縮を示す意味での「.(ドット)」が付与されたりしていたが、こうした短縮記号が一定普及する中で、最終的には「.」が削除された現在の形に定着していったようである。
その意味で、欧米人にとっては、より受け入れやすい記号になっているものと思われる。三角関数については、日本語による名称も付与されており、これが本来的な意味合いを示しているものなのだが、こちらはむしろ一般の人にはあまり認識されていないように思われる。
この研究員の眼が、sin(サイン)、cos(コサイン)、tan(タンジェント)等の意味合いを再確認する契機になればと思う次第である。
中村 亮一
研究・専門分野
(2020年10月09日「研究員の眼」)
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