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2017年10月17日開催

パネルディスカッション

国際情勢はどうなるか「世界がどう変わっていくのか」

パネリスト
國分 良成氏 防衛大学校 学校長
川﨑 研一氏 政策研究大学院大学 特任教授
古屋 明氏 伊藤忠中国総合研究所 顧問
吉岡 桂子氏 朝日新聞 編集委員
コーディネーター
櫨(はじ) 浩一 専務理事 エグゼクティブ・フェロー

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2017年10月17日「中国のこれからと国際情勢」をテーマにニッセイ基礎研シンポジウムを開催しました。
 
基調講演では防衛大学校 学校長 國分 良成氏をお招きして「中国習体制の今後と東アジア」をテーマに講演頂きました。
 
パネルディスカッションでは「国際情勢はどうなるか」をテーマに活発な議論を行っていただきました。

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5——世界がどう変わっていくのか

■櫨
それでは、討論に移りたいと思います。討論のテーマとして、まず、世界がどのように変わっていくのかということ、次にそれを受けて、日本経済にどのようなインパクトがあるのかということを議論していただいて、最後に皆さまから一言ずつ、日本はどのように対応していったら良いのか、あるいは日本の企業はどのように対応していったら良いのかということをご発言いただいて、終わりにしたいと思います。

最初に、世界はどのように変わっていくのかということについて、皆さんからお話を伺いたいと思います。

世界は欧米型の政治経済体制、民主主義と市場主義に変わっていく、そういう期待をソ連が崩壊した後に多くの人が抱いたわけです。だからこそ、中国市場が非常に魅力的に見えたという様にも、私は思っているのですが、國分先生の基調講演、それから、今お三方のプレゼンテーションをお伺いすると、この予想は大きく外れていて、今の習近平政権では逆の方向に向かいつつあるということでした。そして、欧米系型の民主主義、市場主義に中国が近付いてくるのではなくて、中国経済が巨大化すると、中国のスタンダード、規格をむしろわれわれが受け入れなくてはいけないようになっていく可能性があると、今の吉岡様のお話だと聞こえました。その辺も含めてどのように考えたらいいのかということについて、最初に國分先生から、今のパネリストの方々のお話についてのご感想を交えてご意見を頂ければと思います。よろしくお願いいたします。
5—1.中国というのは国なのか、地域なのか 
■國分
ありがとうございます。パネリストの方々のご意見を伺っていると、共通項があるなと思いました。国際情勢を振り返ると、冷戦が終焉してから、グローバル化が90年代を中心に非常に進み、「ヒト・モノ・カネ」が流動化していきました。しかしグローバル化というのは、国民国家を否定するわけではなかったということです。国民国家が再び、その中で自己主張を始めているというのが、今の国際情勢だと思います。

イギリスのBREXITもそうでしょうし、「アメリカファースト」という言葉もそうでしょうけれども、中国もある意味ではそういう傾向がある。それは国内のオーディエンスに対して、きちんと説明しなくてはいけないからです。説明責任を持つようになってきた中で、どのように国民国家を守るかということで、国内デモクラシーとグローバル化との駆け引き現象が起こってきていると思うのです。

昔、国際関係の教科書を読んだときに、それぞれの国の相互依存が深まってくると、国際関係はだんだん緩和し、協調体制が生まれると習いました。しかし現実には、例えば日中関係を見ても、日中の相互依存関係が深まれば深まるほど、溝も深まってきたのです。

つまり、1972年に国交が正常化して、特に歴史問題等々で溝が増えていったのは1995年からだと私は思っています。今、中国と韓国の関係を見ても、ここまで、相互依存というよりはむしろ中国依存が大きくなってしまった。その中で摩擦が相当増えてきています。1992年に中韓の国交正常化があって、ちょうど二十数年経っていますが、大体同じようなパターンです。グローバル化や相互依存ということで、国境がなくなればなくなるほど、本来的にはそれに応じて、先ほどの川.先生が提起されたような形になっていくのが理想形なのです。けれども、現実には国家の顔が非常に大きくなってきている。中国もまさにそうです。

中国は海外からの直接投資によって成長してきたわけですが、ここで起こってきている最大のテーマというのは、中国というのは国なのか、地域なのかということです。元々中国というのは巨大な地域であり、そして鄧小平氏の成長路線というのは地方の活性化、そして地方の多様性を重視する形で、海外投資をどんどん呼び込んでやってきたのです。

それが今、国家の顔の方が相当にもたげているということではないか。あまりに地域を開放した結果として、これ以上いくと政治の体制まで影響を与えかねないという心配が出てきたからです。そこから、今や中国では閉鎖性が増してくるようになり、出てくる声は大国主義というか、そういう一種のナショナリズム強化の側面が前面に出てきていると思います。

■櫨
どうもありがとうございました。  
5—2.反グローバル化の動きについて 
■櫨
それでは、続いて川﨑先生にご意見を伺いたいとおもいます。川﨑先生は重要な国際協定の各種会議に出られていらっしゃいますが、反グローバル化という話もありましたが、その辺のところも含めてご感想を伺えればと思います。 

■川﨑
確かに最初に申し上げたように、地域統合を進めようという一方でBREXITがあり、米国大統領が替わるということで、まさにグローバリゼーションに対する反グローバリゼーションの動き、あるいは地域統合に関する不確実性が高まっていることは、先ほど申し上げたところです。そんな中で、これからどのように進んでいくのか申し上げさせていただくと、先ほど吉岡様からありましたが、世界的な基準のようなものを作っていくときに、中国のものが世界基準になるのか、あるいは日本が中心になってマルチで作っていくのか、そういったことは非常にグローバリゼーションの中でビジネスにとっても重要な課題かと思うのです。

そこで一つ申し上げたいこと、先ほどの補足をさせていただきたい点があります。結論から申し上げると、特にビジネスの方にご注意いただきたいのは、TPPでいろいろな制度が変わることがあり得ると思いますが、これは中国との貿易も無関係ではないということだけは、肝に銘じていただきたいと思います。

何を申し上げているかというと、先ほど貿易協定は関税と非関税措置の二つに大きく分けてお話をしましたが、関税の引き下げというのは、貿易協定を結ぶ国の間同士でしか関税は下がりません。日本とオーストラリアだったら日本とオーストラリアの貿易だけ、TPPだったらTPPに参加している国の間だけ、アメリカが抜ければアメリカからの関税は下げないけれども、アメリカも日本の関税は下げない。ただ、そのメンバーの中だけで関税は下がります。

問題は非関税措置です。これは基本的に、全ての国との貿易に対して変わる可能性があります。特に日本の場合、一国二制度ということはありませんので、例えばTPPで決まった薬品の知的所有権は延長する、短くするということは、中国からの輸入であれ、EUからの輸入であれ適用されることになります。著作権の延長も同じです。

TPPの中で例外的に、医薬品の安全性の検査については、そのデータをTPP各国の試験機関の間だけで相互認証しようということになりましたので、これはアメリカが入らなければ、その他のTPP各国間だけということになります。その他の分野では、かなりの部分がTPPで決めたのか、あるいは日EUのEPAで決めたのか、あるいは、これからRCEPで決めたのか、どこで決めたのかという場にはかかわらず、全ての国との貿易において適用される可能性があります。

ですから、このグローバリゼーションをどのように進めていくかというときに、WTO(世界貿易機関)が中心になっていろいろな制度を進めていくことが一番望ましいと思いますが、現実なかなかジュネーブで話が進まない。そこに、いわゆるメガEPAというTPPや、RCEP、TTIPなどの交渉グループもできてきたわけです。これは地域で議論はしていますが、その決まったことは、その国の間だけの貿易ではなく、全ての世界に対して及ぶ可能性がある。ということは、地域地域で、ある程度の規模で議論が進んでいけば、これはグローバルに世の中が変わっていくことにつながっていくのだということで、中国を注目されている方も、ぜひTPPで何が変わるのかというようなことも見ておいていただきたいと思います。

■櫨
ありがとうございました。  
5—3.中国の市場としての魅力について 
■櫨
それでは次に古屋様ですけれども、先ほど習近平政権の中、中国市場はだんだん締め付けが厳しくなり、国際市場的なルールから遠ざかっているように見えるというお話もありました。市場としては確かに非常に大きな市場であるわけですが、ビジネスとして出て行く投資先として、今までのように中国市場、中国という地域が世界にとって魅力的な場所であり続けるのか。輸出はしたいけれども、中国で本格的にビジネスはやりたくない、そういうふうになってしまう可能性はあるのかどうかということも交えて、ご意見を伺えればと思います。

■古屋
海外からの対中投資もそうなのですが、日本の対中投資が大きく減っています。昨年、一昨年、大幅に減少しましたが、今年の1月から9月までの海外からの対中投資を見ますと1.6%しか増えていない。世界の流れが、中国一辺倒から、ここ2、3年で随分変わってきているという印象を受けます。

習政権になって経済成長率が随分下がってきました。2012年秋、ちょうど5年前に習政権は誕生しましたが、その前の2011年から中国の経済成長率は下降しています。今は6%台まで下がっていますが、5、6年前は9%台でした。経済が大変苦境に陥っています。

中国がなぜ経済発展したかというと、それは既存の国際秩序から恩恵を受けたということと、外資の対中投資が年々増えたという、この二つです。最近はこの二つがどうも具合が良くない。その結果、中国の経済は減速傾向にあります。いろいろな人の話を聞くと、成長率は今後減っていくことが予想されます。

ただ私が思うのは、成長率の追求よりもっと大事なことは、改革が進んでいるかどうかという点です。毎年、成長率を追いかけて企業や地方政府にノルマ達成を義務付けるというやり方では、不正が起きる原因になります。地方から中央に上げる数字が、だいぶ水増しされているとよく聞きます。成長率よりも改革の進度が問われるべきです。例えばこのレジュメにもありますが、国有企業の過剰生産力の問題が非常に大きい。早く解消するために大胆な改革が必要です。企業は過剰生産力の問題を抱えているため、新規投資がなかなかできない。お金を借りても借金の返済に回ってしまっているからです。ですから中国経済の問題は、やはり国有企業の問題だと思うのです。わけても過剰生産力の問題を早く解決しないと、中国という国はこれから世界に向かって伸びていけないのではないかと危惧します。

国内の経済体制を見ると、民間企業が育っていないという状況があります。民間企業の投資が非常に減少している。本来なら民間企業が市場経済のメインプレーヤーであるべきですが、国有企業だけが突出しています。習氏も国有企業の合併や再編を進めて、より強い国有企業をつくろうとしています。

国有企業ばかりだと、国家の意思がすごく全面に出てきます。先ほどルールの話がありましたが、国有企業は国際社会に出て行くときに、国家の意思を背負って出るものですから非常に怖い状況が、国際経済の中に現れるのではないかと懸念します。

中国国内には、「国進民退」という現象があります。国有企業が発展して民間企業が衰退するという現象です。レジュメにも書きましたが、習氏の経済ブレーンになっている劉鶴氏が、「中国には純粋な経済学は存在しない。あるのは『政治経済学』だ。全ての経済人に求められるのは『党中央に従う』ことだ」と、語っています。

国家の意思が前面に出た、企業という名の国家がどんどん国際社会に出てくるということは、ルールも含めて、国際経済社会で大きな問題になるのではないかと思うわけです。

■櫨
どうもありがとうございました。  
5—4.「一帯一路」と中国の援助について 
■櫨
それでは吉岡様。今、古屋様から過剰生産力の対策というような話がありまして、私は「一帯一路」についても、援助を通じてそのお金で中国製品を買ってもらおうという、援助が輸出のための援助になっているのではないかという印象も受けているのですが、その辺も含めてどのようになるかという話をお話しいただければと思います。

■吉岡
中国の援助を担当している方に聞いたことがありますが、「中国の政策の目的は複数ある」と。二つも三つもあります。相手の国を支援して外交力を強化すると同時に、自分の余っている鉄も売る。どちらも目的でしょう。

アジアや、ジョージアに一帯一路の出張で取材に行ったときにも感じました。首都トビリシで中国の四川省や貴州省など、地方都市でよく見られる、デベロッパーの不動産開発が進められていました。中国っぽいマンション、その中の公園、あるいはスーパーなど、これは本当に中国ではないかと思うような風景が見られました。ガラスや呼び鈴、トイレの便器まで中国製でした。

つい1週間ぐらい前に行ったカンボジアでも、中国の材料を使って建設されている、大きな開発区がありました。そういう意味では「一帯一路」が、中国の過剰生産を吐かせる場所になり得る一つの政策目標だというのは間違いないと思います。ただ、発展が遅れた場所にはそれなりに理由があります。危険だとか人口が少ないとか。ある意味リスクが高い所も、一帯一路はカバーしています。高い投資リスクを抱えた戦略であることも間違いありません。これは外交力で片付く問題ではないでしょう。

私自身記者として取材していて心配しているのは、カンボジアだけではなく、今東南アジアのあちこちで、言論の自由や人権が後退しています。これは将来大きな問題になってくると思います。例えばカンボジアで、昭和天皇を単独インタビューした、日本にも縁が深い記者の方が立ち上げた「カンボジア・デイリー」という英字紙があったのですが、9月に廃刊になりました。他にもラジオ、NGO、あるいは野党の党首が突然逮捕されたりしたのです。フン・セン首相への反対意見を書いたり、言ったりした人たちです。

その背景が地元でどのように語られていたかというと、カンボジア内戦後もずっと貧しいので、お金を世界銀行や欧州、アメリカや日本から援助を受けなければならなかったのだけれども、今は欧米流の普遍的価値に反しても中国がいます、と。中国がいるので、先進国の「財布」を気にしなくてよくなったという言い方がされているのです。

トランプ大統領が人権や言論の自由を気にしない態度をとっていることと共鳴しながら、タイやフィリピン、それからマレーシアでも似たような形で言論の規制は強まっています。さっきの両天秤ではないのですけれど、もう一つの財布が出てきたということが、権力側にいる、時の政権にいる人たちにとっては居心地の良い状態になっている。この言論の問題や人権の問題について、中国が今後大きな影響を及ぼしていくのではないかと心配しています。

■櫨
どうもありがとうございました。  

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