2017年10月17日開催

基調講演

中国習体制の今後と東アジア

講師 防衛大学校 学校長 國分 良成氏

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2——国内政治:19回党大会をめぐって

さて、「はじめに」が非常に長かったのですが、それは全体像を皆さんにお見せするためです。

「19回党大会をめぐって」というところで、今申し上げたことを、もう少し敷衍した別の形で言っています。ここに書いてあるように、中国共産党の最高指導者は、総書記(書記長)です。そして国家主席は、来年春に開かれる全人代(全国人民代表大会)で、5年目になります。5年で2期と憲法上規定されているのは、国家主席の任期です。総書記については特に任期はありません。1期5年ですが、何期までというのは書いていません。国家主席と総書記は同じ人物ですから、その国家主席に準じて総書記も5年2期で終わります。中央軍事委員会の主席は軍の最高ポストですが、これは党と国家にありますから、全部で四つの最高ポストを握ることになろうかと思います。江沢民氏は任期が来ても権力に固執し、特に中央軍事委員会の主席だけは2年間保持しました。それを反省した胡錦濤氏は、これを反省したのか、すべてを一挙に辞めてしまいました。でも、すべて辞めるかどうかというのも、前回の18回党大会のときは最後まで分かりませんでした。今回もそうです。内部の人事が全く見えないのです。どんどん閉鎖的になってきている感じがします。

習近平氏は、昨年の党の中央委員会総会(6中全会)で「核心」と位置づけられました。「核心」は一つなのです。一つの山に1匹のトラしかいません。これが中国の従来の姿です。しかし、鄧小平氏以降、ある種の集団指導制に変わっていったのです。それをもう一度個人独裁の形に変えていきたいということです。

問題は、独裁というのは、先ほどから申し上げているように、組織をどれぐらい掌握できるかというところにも懸かってくるのです。上だけ人事は変えていますが、今見ている限りでは、依然として、お友達内閣のようなところがあります。つまり、自分が過去に一緒に仕事をした部下をどんどん登用しているのが分かります。軍も上を軒並みクビにして、それもまた、どこかで接点のある人たちをどんどん上げる形になってきています。それが本当の強さを表すのかどうかは、もう少し観察しないと分からないと思います。

現在の中央政治局常務委員は7人ですが、今回はこのうちの前の2人(習近平氏、李克強氏)しか、いわゆる68歳定年制では残れません。喬石氏を排除するために、1997年に江沢民氏は背後で定年制を70歳と決定し、そして排除しました。そして次は2002年に、李瑞環氏という人物が、江沢民氏が辞めた後にも残って影響力があるということで、彼を排除するために68歳定年制を作ったといわれています。ですから、非常に恣意的なのですが、これによってその後は運用されています。

従って、今回もこれに準ずるとなると、習近平氏が一番盟友としている王岐山氏が69歳で残れるか残れないかということになります。李克強氏ですら一体どうなるかというのも、明確にはわかりません。今年の初めぐらいまでは、李克強氏と習近平氏が全人代で目を合わさないとか、そんな状況がありましたが、最近の李克強氏はとにかく習近平氏万歳と言っているということです。このあたりは結局妥協の産物だと思いますが、一体どうなるのか分かりません。

そして、この習近平氏、李克強氏、王岐山氏という3人を除いた4人は、どちらかというと江沢民氏に近いです。兪正声氏は若干違うかもしれないけれど、4人はどちらかというと江沢民氏に近い人たちです。これまでの習近平氏のやってきた戦いというのは、反江沢民氏派が主でしたが、同時に胡錦濤氏派もけん制していくということをやっていました。結局権力闘争の繰り返しが起こっています。

党主席制の復活は分かりません。多分難しいでしょう。それをやるとシステムがみんな変わってしまいます。つまり、1982年の段階をもって、いわゆる党の主席がなくなりました。これが復活するとなると、では総書記は誰になるのだろうか。毛沢東氏時代の総書記(秘書長)はどなたかご存じですか。毛沢東氏が中国共産党主席だったときの総書記は、鄧小平氏です。しかし、上からのランクは、秘書長ですから5.6番です。それを壊して、鄧小平氏は1982年からその上はもうつくらないと、大きく変えました。これは恐らく、文化大革命を引き起こしたような個人独裁者を2度と生まないという意味だったと思います。自分がなるのかと思ったら、鄧小平氏はなりませんでした。そして胡耀邦氏を総書記に据えました。ですから、もうその頃から、ある意味の集団指導制を、鄧小平氏は模索したのだろうと思います。

党主席が復活するのかどうかというのは、相当に大きな問題ですし、時計の針をぐるぐると回転させて後戻りする。同時にそれは党の独裁体制の強化、つまり、国家はどんどん後ろに下がっていくという、ますます普通でない国になっていくことを認めるのかどうかということになります。

習近平氏のお父さんが最も文化大革命で被害を受けた人物の一人です。毛沢東氏によって徹底的にやられたところもあります。その習仲勲氏が、中国共産党の史上では、ある意味では最もリベラルな党員だったというのは、歴史上事実です。胡耀邦氏が民主化に同調して失脚するときも、最後まで守ろうとしたのは歴史的な事実です。文革中、習近平氏も父と連座して被害を受けました。

その習仲勲氏の息子である習近平氏は、一体何を目指しているのか。権力を取らなくては何もできないという中国政治の実態はよく分かります。しかし、その間政策的には一体何を展開するのか。彼の子飼いの人たちが上に上がるのかもしれません。そして、胡錦濤氏に近い李克強氏の首相の地位は続くのかどうか。最近は汪洋氏という名前も出てきていますが、胡春華氏は結局難しくなってきました。江沢民氏派の人たちは次々となぎ倒されましたが、周永康氏の失脚が恐らくターニングポイントでした。ここまでやったときに江沢民氏派は形骸化した。あとは曽慶紅氏を宙ぶらりんにしました。権力的には、そういう形になってきただろうと思います。

問題は、ばりばりの江沢民氏派ではないかもしれないけれども、広く捉えた意味での江沢民氏グループの利益代表の1人として、曽慶紅氏か誰かが孫政才氏を推してきた。そして、胡錦濤氏・李克強氏の共青団グループは、将来の利益代表として胡春華氏を出してきた。歴史を振り返ると、習近平氏が出る前からこの2人は出ていました。その2人がつぶされそうになっています。既に孫政才氏はつぶされました。その罪状が出たのは最近ですね。何でつぶされたのか分かりません。つぶすのが目的で、罪状は後です。多かれ少なかれ、党の最高幹部はみな程度の差はあれ腐敗していますから、そこを捕まえていくのは権力があるかないかということになってしまうのです。

それで、胡春華氏が、最後のどん尻の政治局常務委員になるのかどうか知りませんけれども、いずれにしても、その辺はすでに相当にけん制されてしまったと言ってよいかと思います。よく言われるように、習近平氏はあと5年では何もできないと考え、自分の配下を次々と抜擢して、まず周囲を固めているのです。そのためにそれを保証できる地位として党主席が欲しいという話なのだろうと思います。このように中国では権力闘争に明け暮れているのですが、これは上層部に特有の話だということを繰り返し強調しておきたいと思います。

確かに習近平氏は最初の頃は、「この人はひょっとして改革者か」というところも少しありましたが、結局は一挙に党の独裁強化という方向に走っています。実は、党から国家の方に若干軸足が行ったかなと私が思ったのは、人民解放軍の改革です。人民解放軍は、もちろん今もあるのですが、人民解放軍を成していたのは四総部、つまり総参謀部や総政治部など、四つのジェネラルデパートメントでした。この四つの総部をつぶし
ました。

人民解放軍というのは、英語で言えばPeople 's Liberation Armyですから、Armyなのです。もともと陸軍なのです。この陸軍主体の230万人を、今30万人減らすと言っています。結局、陸軍の縮小化です。従来あった軍区も変えました。もう完全にリシャッフルしています。そして、上の方だけ、リーダーをバサッと切りました。そして、陸軍の縮小化を図りつつ、現在中国の軍隊は、陸海空プラス2軍の5軍隊体制になりました。これは既に始まっています。

陸軍、海軍、空軍、そしてロケット軍。ロケット軍は何かというと、核戦略とミサイル開発です。そして戦略支援部隊。戦略支援部隊というのは、戦略支援軍と言ってもいいでしょう。これは、宇宙軍と同時にサイバー軍です。従って、中国は既に3軍から5軍体制に移行しました。移行して、人民解放軍は一体どこへ行ってしまったのか。4総部を壊したら中身がない。もともと国防部は、実態が人民解放軍とイコールですから、一体どこへ行ってしまったのかというと、今、中央軍事委員会にそれを全部入れているのです。中央軍事委員会が、今や国防部のようになっているのです。中央軍事委員会の下に、15の部局ができあがりました。普通の官庁と同じになってきたけれども、それは特別に優遇され、しかも習近平氏がイニシアチブを取りやすい形になっているということだと思います。

これは数年前からやっていますが、今後どうなっているのか、実態がよく分かりません。とにかく人事で上の方をバッサリ切って、彼に近い人がどんどん登用され、党大会の直前までやっていました。そして、どういう組織図になっているのかというのも、形は分かるのですが、どう機能しているのか、よく分からないところがあります。恐らく、昔の人民解放軍の組織を半分以上使っているのだと思います。こうした大改革を始めたときに、「習近平はひょっとして党の軍隊から国の軍隊へ移行させるのかな」とも思いました。

なぜかというと、今の状態では国民を守るのではなく、党を守る軍隊です。中国の国民を守る国軍ではなくて党軍ですから、党が存亡の危機になるときは動くけれども、国民のためではない。これはおかしいのです。この議論は、もう私が中国に留学していたときからあります。1980年代に、既に国軍に変えるべきだという議論がありました。それが特に大きくなったのは天安門事件後です。天安門事件で人民に発砲してしまってから、党の軍隊から国の軍隊に変えるべきではないかという議論はしばしばあったけれど、出るたびにつぶされました。結局今も党軍なのです。

ただ党軍なのですが、中央軍事委員会というのは、党の中央軍事委員会と、国家の中央軍事委員会があります。少しファジーにしていますが、多分今後も党の中央軍事委員会に力点を置くのだろうと思います。

結局こういうことばかり考えていると、政策論争は一体どこにあるのか、それがほとんど見えてこないというのは、非常に悲しいことです。もちろん細かないろいろな議論はあるのです。しかし、どの方向へと行くのか。今度は「30年ビジョン」と言っていますが、問題は、そこにどのように持っていくかというところです。

中国はご承知のように、「一帯一路」「和諧社会」もそうですが、言葉を作るのはうまいけれども中身は後です。ですから今「30年ビジョン」も言っていますが、中身はこれからです。まだ実態はよく分かりません。今議論が起こっているのは結局、習近平思想が入るか入らないか、ここだけです。これはどんな意味があるのでしょうか。中国社会が良くなるのでしょうか。基本はそこです。それに応じた選挙ではないのですから。メディアを見ていても、そこばかりを議論していますが、私は本質論が違うのではないかと思います。中国の抱えている今の問題が何で、どこに向かっているのかということの方が、本質的な議論ではないか。習近平思想が入るか入らないか、どれぐらい力を握ったかは、そんなに重要ではありません。つまり彼が何をするのか。もう彼以外にライバルはいません。ただ問題は、彼がどういう形の独裁者なのかという点ですが、いずれにせよ私には今やっていることが時代錯誤のように思えます。

毛沢東思想の前に、マルクス・レーニン主義があるというのは日本の新聞もあまり書いていません。主義というのは普遍的真理ですから、この普遍的な真理を応用して現実に適用したのが思想なのです。これが「毛沢東思想」です。

その「毛沢東思想」の一つの解釈としてできあがった理論がまさに「鄧小平理論」で、その実質は経済成長一辺倒でした。その後は、「三つの代表」と「科学的発展観」。皆さんは何だかよく分からないでしょう。「三つの代表」は、江沢民氏の考えを表し、ある意味では成長一辺倒だけれども、これによって実質的に腐敗の発生を容認してしまった。

今度は習近平氏が一体どんな言葉を中心に据えるのかという話です。普通の中国人にしても、彼がよく言う「四つの全面」とは何ですかと突然聞かれても、誰もぱっと出てこないでしょう。それぐらいパンチ力がありません。また最近では「治国理政」、これも何なのかよくわかりません。中国政治では、人々の凝集力を高めるために漢字を並べて標語をたくさん作りますが、問題は中身です。中国の場合、言うことではなくて実際にやること、ここを見ていかなければいけないと思っています。

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