2012年10月18日開催

基調講演

地震と火山の日本に生きる~地球科学からみたリスク・マネジメント~

講師 鎌田浩毅氏

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7--------噴火予知について

エトナ山で研究開発したことが、富士山で応用されるわけですが、富士山は「噴火のデパート」であり、かつ富士山が分かれば世界中の火山が分かるという意味で、ここで噴火予知の話をしたいと思います。

マグマだまり、火口があって、富士山は噴火する前どうなるでしょう。ここで噴火予知ができます。深さ20kmぐらいにあるマグマだまりで活動が始まると、深さ15kmの所で「低周波地震」というものが起きます。低周波は周波数が低い、つまり、ゆらゆら揺れる地震です。

われわれが経験するタンスなどガタガタ揺れるのは高周波の地震です。しかし、低周波の地震は、まず人間には分かりません。水をたらいに入れて揺らす感じです。マグマだまりは液体ですから、そういうことに由来する地震なのです。

こういう低周波の地震が、地下15kmですから、ちょうどマグマだまりの上ぐらいで起きるのです。そうすると噴火の始まりだと分かります。低周波地震は機械でしか観測できません。ゆらゆら揺れるもので、かつ、人体には感じません。

しかし、低周波地震を観測するために、富士山の周りには地震計が数10個ぐらい張り巡らされています。低周波地震の後、上の方に地震がずれていきます。その後、1週間ぐらいたつと今度は有感地震です。これは有感地震ですから、われわれの体でも感じます。

一番大きい有感地震は震度5ぐらいです。僕は北海道の有珠山や伊豆大島で経験しましたが、結構大きいです。震度4や5で、もう立っていられないぐらいの地震が起きます。このように、マグマが上がってくると地震を起こすのです。

マグマだまりは普段は静かなのだけれども、噴火の前には必ず何らかの地震が起きはじめます。それは何かというと、マグマだまりが膨れるからです。

マグマだまりというのは、その地下からも絶えずマグマが供給されていて、あるときからパンパンになるのです。現在もパンパンになっているのですが、前回の噴火は300年前、1707年なので江戸時代です。それ以来、噴火してないということは、江戸時代以来、富士山のマグマだまりの下から供給されていて、富士山のマグマはパンパンに膨れている、と。

膨れて、少し上の方に出てきて、何かいろいろ悪さをします。実際には熱水などの流体を揺らしたりするのですが、それで低周波地震を起こすのです。低周波地震が起きて、その後、マグマは上に行きます。上に行くと、地震が起きた位置がだんだん浅くなります。浅くなるから、地上に近づきます。そうすると、われわれの体に感じる「有感地震」になるのです。

その後、一番最後に「火山性微動」というものが起きます。何でこんなマニアックなことを言うかというと、これから富士山が噴火しそうなので、一応、皆さん全員に覚えておいてほしいからなのです。

これは僕の「科学の伝道師」としての使命です。火山性微動、微動というから、かすかに動くのです。これも機械でなければ分かりません。ですが、動くところが火口の少し下ぐらいで、少しやばいところです。

微動にはいろいろな動きがあるのですが、特に火口の直下で起きる微動は、噴火の数時間前から1日前ぐらいのサインで、僕ら火山学者は緊張します。つまり、最初に深いところで低周波地震が起きて、浅いところで起きる有感地震になって、最後1日前ぐらいに火山性微動が起きる。

こうなると、「さあ、もう次は噴火ですよ」ということで、完全スタンバイ状態です。それから実際にマグマが出てきて、いろいろなことをします。「噴火のデパート」が開店するのですね。

では、噴火までの期間は、低周波地震が始まってからどのぐらいかかるか、というと、ざっと1カ月です。しかし、地球科学者が言う1カ月ですから、3週間だったり1カ月と2週間だったりするので、結構アバウトですね。ですが、ざっと1カ月ぐらいと覚えておいて下さい。これも経験的なことです。

でも、地震と違って、火山では噴火の予知ができる、という素晴らしいことなのです。次に、マグマが出てくる場所はどうやって予測するか、です。富士山は、一応、火口から開けるのですけれども、富士山が穴を開けているのは山頂火口だけではないのです。

例えば、新幹線の三島駅の辺りを通るときに、ぜひ、富士山を見上げてほしいのですが、三島から静岡駅までの間、富士山は南側にぽっかり穴を開けています。これは宝永火口というのですが、巨大な穴が開いています。1707年のものです。

これはちょうど南東側にあるのですが、これが富士山の噴火の大事なポイントです。つまり、富士山にはマグマだまりがあって噴火するのですが、マグマだまりは横からも穴を開けるのです。

南側だと宝永火口(1707年)ですが、北側にもあるのです。北側は富士五湖の方で、富士五湖のいくつかは実は北側の噴火によって、せき止められてできたのです。昔は富士四湖で、四つしかなかったのです。一番大きなせの海というものが、864年に流れてきた溶岩にせき止められて五湖になったのです。精進湖と西湖になったのです。

そんなことがときどき起こるのです。ですから、富士山は南に穴を開けるかもしれないし、北に穴を開けるかもしれません。もちろん山頂もあります。というわけで、この場所を特定しないといけないのです。

では、どうやって特定するか。富士山は噴火の前に山が膨れるので、膨れた場所を特定するのです。これは場所の予知です。先ほどのものは時間の予知です。1カ月前という時間の予知ですね。

もう1つ、大事な噴火予知は場所の予知なのです。その場所が北か南かは、富士山が少しだけ膨れる場所を見つけることで分かります。南側が膨れれば、南にマグマが上がってくる、北側が膨れれば、北側にマグマが上がってくるということで分かります。

どのぐらいの観測をするか、すごいのです。富士山の山頂やすそ野が1mm高くなることを観察し、高くなった場所を確定します。僕はよく言うのですが、お正月におもちを焼いている人がいます。1万m先、つまり、10km先でおもちを焼いているのですよ。それで、おもちの先が1mm、ぷくっと膨れるのを望遠鏡で見ているのです。

望遠鏡の筒の傾きが少し変わるでしょう。その傾きを測るのです。これは傾斜計といいます。すごい精度です。電気的に測るのですが、そういう傾斜計が30個ぐらい、富士山の周りにあります。

山の傾斜がきつくなったところを追い掛けていくと、南なのか、北なのか、もしくは山頂なのかが分かるのです。これは場所の予知で、こういうことによって、富士山は、一応、噴火予知ができるのです。ただし、次の問題です。「じゃあ、いつでも分かるのですね?」、違うのです。もう一回、時間の話に戻ります。

「低周波地震が1カ月前に起きる」のだけれども、その1カ月前がいつか、が分からないのです。明日かもしれないのです。明日、「1カ月前」が始まりました。そうすると明日のニュースで「富士山で低周波地震が始まりました」といって、僕が今度は黒い服で登場します。今日のような赤い服は駄目で(笑)、実際に本当に噴火するときは、きちんとグレーの背広で紺のネクタイです。やはり笑い事ではありませんから。

しかし、今は噴火の兆候がないから、まだ赤い服でいいのです。もしくは、この「1カ月前」は、今から1年後かもしれない。ひょっとして3年後かもしれない。ですから、1カ月前の低周波地震が明日始まるのか、1年後なのか、それを現在の火山学では予知できないのです。

つまり、「1カ月前」までは分かっているけれども、この動きがいつ起きるか、が予知できないのです。これは地震も似ているのですが、地球科学にはいつも限界があるのです。

しかし、限界があるから全部駄目かというと、そうではないのです。役に立つこともあるし、事前に分かることもあります。例えば場所の予知、それから1カ月前ルールという時間の予知です。

1カ月前がいつから始まるかは分からないけれども、いったん低周波地震が始まったら、有感地震、火山性微動、噴火というプロセスを通ります。これはこれで非常に大事な情報です。火山学のここ数百年の成果です。限界があるけれども、役に立つことがあるということを、ぜひ知っていただきたいのです。

やはり火山は面白いのです。災害があると、面白いなどと言っていられなくて私もグレーの背広を着ますが。でも、災害がないときは本当に面白いのです。それで火山学者になったのですね。

8--------西日本大震災について

次は「西日本大震災」です。これが今日のメーントピックです。西日本大震災は、この東日本大震災によって起きることとは違います。同じようなストーリーが、次に西日本で起きます。

2030年代に起きるという具体的な数字があります。結論から言いましょう。2030年から2040年に西日本で起きます。これもアバウトな話で、2030年代に何が起きるかというと、これが今話題になっている東海地震、東南海地震、南海地震の3連動です。

ついこの間、9月に被害想定が出ました。津波が高知県で最大34m、それから死者の想定が32万人という話がありました。その話がまさにこの話題です。

まず、マグニチュードで言うと、M9.1が想定されています。ですから、まず皆さんに想定してほしいのは、東日本大震災はM9.0でした。9.0とほとんど同じ規模のものが、今度は西日本に場所を移します。場所は静岡県から名古屋、大阪、九州、宮崎県まで、ちょうど距離も600kmぐらいです。

先ほど東日本大震災の震源域の話をしましたが、それと同じようなものです。ちょうど東北沖と同じものが、今度は静岡沖から、紀伊半島、四国沖、宮崎沖まで震源域が設定されて、同じような巨大規模で岩石が割れます。よって、同じような大揺れが起きます。

陸上では至る所に震度7が生じて、実は津波も東日本大震災より大きくなるのです。なぜならば、海の震源域が陸に近いから、津波の高さがもっと高くなるのです。とにかく、アバウトに言うと、同じ規模の巨大地震と巨大津波が今度は西日本で起きます。

問題は、西日本の方が、はるかに日本社会にとって被害が大きいわけです。これも結論から言うと、被害の総額がざっと10倍です。

東日本大震災の被害想定が、原子力を除いて20兆円といわれています。その10倍で、200兆円という試算があります。それから死者の数も、東日本が2万人弱ですが、西日本大震災では30万人を超える数の死者です。

ある程度、こうした予測もできるわけです。今、3連動と言ったけれども、この動き方が分かっています。まず、頭に少し思い浮かべてください。東の静岡県沖で起きる東海地震、真ん中の名古屋沖で起きる東南海地震、それから四国沖の南海地震、この三つがあります。この三つは、だいたい100年に1回ぐらい起きてきたのですが、過去の例を見ると、必ず真ん中の東南海地震から起きるのです。

ですから、まず名古屋沖が1番、次に東海地震、3番目に南海地震、この順番で起きているので、やはり「過去は未来を解く鍵」で、次も2030年代にそうなると思います。では、どのぐらいの時間差があるかというと、前回、1944年に名古屋沖で起きて、46年に四国沖というわけで、2年の差がありました。

もう1個前、1854年は江戸時代で幕末ですが、32時間で1日半ぐらいです。もう1個前、1707年は富士山が噴火した年なのですが、1707年は15秒ぐらいといわれていました。ですから、15秒から2年まで幅があるのです。これで準備してくださいというのは、むちゃくちゃな話です。

しかし、事実として地球科学が得ている情報は、こうなのです。まず言えることは、名古屋、静岡、四国の順番で起きることです。ですから、名古屋沖で起きたら、すぐに首都圏は準備する必要があります。

15秒で準備するか2年で準備するかは別として、とにかくそういう順番で起きます。大阪は少しは余裕があるけれども、似たようなものです。この情報を、ぜひ活用していただきたいのです。

それと、2030年代というのはいろいろな情報に基づいています。例えば四国沖の南海地震。かつて高知県の港がこの地震によって、地面が隆起したり沈降しました。これがかなり規則的で、その数字を見ると、次に南海地震が起きるのは2035年くらいという数字が出ます。ほかのいろいろなデータから見て、だいたいプラスマイナス5年ぐらいで、2030年から2040年に起きるというのが、われわれ地球科学者のコンセンサスなのです。

ということは、今から20年後に東日本大震災と同じものが、今度は西日本で起きます。いや、規模的には少し大きいエネルギーを発散するものが、しかも、太平洋ベルト地帯に直撃です。

それから人口が、東北地方に比べるとはるかに大きい。東北地方のGDP3~4%に対して、30~40%の200兆円ぐらいの被害になるでしょう。今度の1月に、また試算が出ますが、300兆、400兆になるかもしれません。

とにかく、とんでもない話です。ここから先は後半のシンポジウムで、またこの数字は、今度は経済学専門の先生方が、今度は財政と年金ということで、ご議論いただくのですが、私は地球科学者として、そういう世の中のことに疎いので、とにかく、地球科学から判断されることはこうですという情報だけ、まずお伝えしておきたいと思います。

想定外という言葉があるのですが、想定外には三つあって、これについても説明しておきたいと思います。東日本大震災の地震はマグニチュード9でしたが、こんなに巨大な地震は日本列島では起きないと地球科学者は勝手に思っていました。

実は、2004年にスマトラ沖で起きていたのだけれども、よもや我が日本は関係ないと思っていたのです。心理学で「正常化の偏見」というのですが、これは本当にわれわれの不徳の致すところです。

本当は地球上でどこでもM9が起きるのですから、日本列島の沖合でも起きて不思議はなかったのだけれども、それを想定しなかったという誤り、それが1番目の想定外です。それから、2番目の想定外といわれていることは「伏在する活断層」です。

首都直下地震が起きるかもしれないといって、一応、立川断層や荒川沖断層帯など、いろいろ調べられているのですけれども、実は首都圏を調査したら、もっと活断層は見付かるのです。つまり、われわれが知らない活断層が日本列島の地下にまだたくさん隠れている、という想定外です。

1番目は知っているのだけれども、正常化の偏見で、関係ないと思い込んでいたのです。よもやM9など起きるまいと思っていた想定外です。しかし、2番目は本当に専門家も知らないのです。でも、調査したらボロボロ出てくるという想定外で、これは一番怖いですね。

さて、3番目の想定外は、地球科学の根幹に関わるものです。地震という現象は、そもそも「複雑系」の現象に近いものです。例えば、割りばしを割るときに、力を加えたらどこかで必ず割れます。しかし、0.1mmの単位で、どこが割れるかを前もって言うことはできないのです。それは、割りばしという木を構成する分子の複雑に絡まった物、つまり非常に複雑な天然物が割れるからです。

こういうものを複雑系といいますが、岩石が割れる現象も、同じような想定外になるのではないかという見方があります。つまり、複雑系の現象で、いかに物理学や数学を駆使しても、予知できないのではないかという悲観論があるのです。これは非常に根本的なことで、地震予知はそもそも無理ではないかと主張する人の根拠にもなっているのですが、この想定外が3番目です。

現実問題として、地震はほとんど予知できません。しかし、大揺れに対処するために、事前にまったく手段がないわけではないのです。皆さんもよくご存じの緊急地震速報というものがあります。

地震発生前にあらかじめ知るのではなくて、地震が起きてちょっと後で知る。地震後に知るから、「地震予知」ではなくて、「地震後知」と僕は呼んでいるのですが。地震が起きると、直ちに携帯電話が鳴り、テレビが緊急地震速報の画面に変わります。

これは地震が起きてから、とにかく震度6などの大きな揺れが来るまでにまず自分の体を守ってもらう。10秒あれば頭を守れるわけです。子供や従業員を守れるわけです。というわけで、後知であっても、これはこれで非常に役に立っています。

一方、地震予知は、先ほど言った複雑系の可能性があるので、あまり期待できません。研究は大事ですから、研究はしてるのだけれども、2030年までに南海地震、東海地震の予知技術が得られるか、僕は悲観的です。

ですから、それには頼らずに後知でいく。つまり、緊急地震速報のような最新テクノロジーを活用して、「自分の身は自分で守る」こと実践していただきたいのです。

もうひとつ言いたいことは、今日ご説明した内容はすべて科学的な想定なのです。科学的予測と言ってもいいですね。どういう意味かというと、予測には科学的な予測と非科学的な予測があります。

よく、富士山は11月3日に噴火します、などと言う人がいるのですが、これは非科学的な予測です。というのは、1カ月前ルールに照らし合わせると、この予測には科学的な根拠がないからです。

つまり、予測には科学的予測と非科学的予測があって、ナマズが動いたとか、地震雲が出たとか、うちのタマが泣いたとか、そういうものはみな非科学的な予測です。もしかして当たることもあるかもしれませんが、われわれ科学者のコミュニティーでは90%の人が賛同できないのです。

というのは、科学的な根拠、もしくは理屈がないからです。賛同できるのは科学的予測のほうで、今日申し上げた、海でM8余震が起きます、拡大地震が起きます、陸でM7直下型が起きます、火山噴火が起きます、富士山がスタンバイ状態です、2030年代に西日本大震災が起きます、これらはみな科学的な予測なのです。

したがって、この知識はぜひ活用していただきたい。しかも、皆さんのお仕事の中で活用して、それで自分の身は自分で守るための基礎データとしていただきたいのです。皆さんが今日初めて聞いた内容も多いでしょうが、大事なことは「知識を行動に移す」ことです。

ベーコンも説いたように「知識は力なり」なのです。今日得た知識を自分の家族に持ち帰って、それから会社に持ち帰って、役所に持ち帰って、学校に持ち帰って、それをぜひ活用して、自分と家族と地域を守っていただきたい。

それを次のシンポジウムにも、ぜひ活用していただければありがたいと思います。今日はどうもありがとうございました(拍手)。

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